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008-4:千金学園④

「こっちだぞ、ハアト」


 ハアトが三人組に案内されたのは、鉄格子のような校門からは少し離れた建物だった。

 木造のマンションのようなその建物は、校舎に負けず劣らずの豪勢な雰囲気を纏う巨大な寮だ。


「あの門は開かんのだ。ここが学園への本当の入口だからな」


 状況が良く理解できていないまま、ここからダンジョンに入るのかと身構えたハアトに対し、レティから自信満々に告げられたのは、ハアトには予想外の内容だった。


「そう身構えるな。言っただろう? お前はもうダンジョンの中なんだ。町ごとダンジョンと成ったこのエリアに踏み込んだ時からな」


「ま、町ごとダンジョン……ですか?」


「ウム。その通り!」


「いや正確には違うからな。騙されるなよ、坊主」


 あきれ顔で教えてくれたのはダンとロリエだった。


「ダンジョンの中心はあくまでこの先の千金学園だぜ。周りはおまけみたいなもんさ」


「千金学園という校舎を中心にして、周囲の住宅地が巻き込まれているみたいなんです。もちろん町ごとなんかじゃないですよ? そんなに広いエリアじゃないんです。学園の周りのかなり限られたエリアだけですから……」


「ウム。そういうことだ」


 つまり、ハアトはすでにダンジョンの中にいるという事らしい。

 そう言われても、あまりピンと来なかった。


 ハアトの知るダンジョンは迷宮だ。

 周囲の風景はただの荒廃した町にしか見えなかった。

 ダンジョンのイメージと上手く結びつかない。


「まっ、中に入れば嫌でも分かるぜ」


 校舎とは違って開け放たれたままの門を潜る。


「ここは本来、男子禁制の女子寮なんだがな。今はそれどころではないうえに、本来の役目を果たしてもおらん。そもそも形状すらおかしくなっているのだから何も気にする必要はないしな。さぁ、入るが良い」


 短い石畳の道を先へ進むと、巨人でも訪れるのかという大きな扉が一人でに開かれた。

 扉の隙間から暗い闇が覗く。


 新たな冒険者を歓迎するような扉の動きに釣られるように、一歩、踏み込んだ瞬間に景色が変わった。


「ウェーーーーールカァム!!」


 目が眩むような光を突き抜けるような声。

 パァン! と両脇から紙テープの雨が降ってきた。

 豪華絢爛という言葉がそのまま目の前の光景となって広がっているかのような状況だった。


 寮の中に一歩踏み入れた瞬間、暗闇は豪華なシャンデリアに眩しく照らされた広間に変わった。

 大きなテーブルがいくつも広げられたパーティー会場のような空間がそこにあった。


「ようこそ千金学園ダンジョンへ! はじめまして! 歓迎します冒険者様!」


 全身を黒いスーツに包んだ、恐らくは男性なのだろう人物がハアトの目の前に立っていた。


 性別に確信が持てないのは、その男の顔が鶏の顔だったからだ。

 白い羽毛に包まれていて、口は嘴。頭頂には真っ赤なトサカが立っている。


 ダンディズムをにじませるそのバリトンボイスや口調、立ち振る舞いから、男性では間違いないだろうと思える程度だった。


「へぁ!? は、はじめまして……!?」


「当ダンジョンの案内役を務めております私ガルスガルスと申します! お気軽にガルスとお呼び下さいませ!」


 鶏頭が大げさで芝居がかったお辞儀で頭を下げる。

 ガルスの周りでは小さなヒヨコが宙を舞い、どこからか取り出したクラッカーを鳴らしては投げ捨てたり、紙吹雪を散らし続けたりしていた。

 何が何だかわからない。


「え、えと、これは……」


 わけがわからず三人組に助けを求めるように振り返るが、すでにハアトの背後には誰もいなかった。


「ウム、ヒヨコ共。帰ったぞ! 宴だな!」


「よーしヒヨコ達、酒もってこーい!」


「はわっ、ヒヨコさん!? それは餌じゃないですよ~? 私のおやつですー!」


「僕、放置されてる!?」


「さぁ冒険者様こちらへどうぞ! ご案内致します私ガルスは一流案内人でございますのでお任せくださいませ!」


「え、ちょ、ちょっと!? ちょっ……!!」


 ガルスに腕を引かれ、ヒヨコ達に歓迎され続けながら、ハアトはパーティの空間を引き摺り回された。


「ご苦労だったな、ハアト」


「おつかれさん、坊主」


「レティさん、ダンさん……」


 案内という名の強制イベントが終わったのは、もう夜中になっての事だった。

 夜中になっても豪華絢爛のパーティは続いており、改めて見るとコスプレじみた冒険者とは違う、一般的な服装をした人たちの姿が多くある事に気づいた。

 宙を舞うヒヨコ達の姿も最早見慣れたものなのだろう、誰も気にしていない。


 そんなパーティ会場の隅に座り込むハアトの元へ、まるでガルスから解放されるタイミングを知っていたかのように、二人は現れた。


「うぅ……。二人とも、見ていたのなら助けて下さいよぉ……」


 思わずそんな本音がこぼれるくらいの疲労感だった。

 案内の内容としてはダンジョン内にあるいくつかの設備を案内されただけなのだが、とにかくガルスの話が長いのだった。

 急かして話の腰を折ると、再び一から説明を始めるのだから、とにかく黙って聞くしかない。

 中々につらいイベントだった。


「助けてやれなくて悪かったが、ガルスの新人歓迎案内は本当に強制イベントだからな。終わるまでは止められないんだよ。下手に話かけると俺たちまで巻き込まれるからな……」


「ウム、あれがなければ優秀なNPCなのだがな……」


 今までもこのイベントを見てきたのだろう。

 さすがのレティもこのイベントにはうんざりといった様子だ。


「それで、ハアトよ。ちゃんと自分の部屋は聞いたか?」


「あ、はい。鍵をいただきました。でも、良いんですか? 部外者の僕まで無償で部屋を借りてしまって……」


 このダンジョンを訪れた冒険者には一人一部屋が与えられるらしい。

 ハアトもその例に洩れず、ガルスから自分に割り振られた部屋の鍵を受け取った。


 しかもかなり豪華な部屋だ。

 案内の中で少し覗いただけだが、部屋の広さや設備の充実っぷりは十分に理解できたくらいだ。

 部屋以外でも、このダンジョンはカオリのダンジョンとは比べ物にならないくらいに設備が充実している。


「それはそうだろう。戦士にも休息は必要だ。ウム、ハアトも今日はもう休むと良い」


「だな。明日から忙しくなるぜ。坊主のその格好を見るに、準備も必要だろうからな。じゃあ、また明日……」


「えーと、準備、ですか? いったい何の……?」


 ハアトはまた話についていけなくなりそうになり、部屋に戻ろうとする二人の背中に問いかけた。


「何って、そりゃあ攻略のための準備に決まってるだろうよ」


「ウム、ハアトよ。クリアするまで、お前もこのダンジョンから出られないのだからな」


「……………………へぇ??」


 結果、ハアトは話についていけなかった。

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