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008-1:千金学園①

第二部、開始です。

 人気のない住宅地の一角に、ひび割れた様な野太い声が響いた。


「来たぞ! やっぱりオーガだぜ」


 モンスター名、オーガ。

 種族、大鬼。

 危険度、E。


 咆哮の主はオーガという名のモンスターだ。

 額には一対の黒い角を伸ばし、2メートルをゆうに超える筋肉の塊が赤く煤けたようなザラつく肌に覆われて、歪な人型を成している。


 オーガは獲物を見つけ、雄叫びを上げてその獲物に襲い掛かろうという所だった。


「またダンジョンから脱走しやがったのか? 四体……レティ、行けるか?」


「フン。知性の足りない鬼の一匹や二匹程度、何の問題はない! 切り伏せる!」


 狩りの始まりに猛る四つの鬼の影の前に、三つの人影が対峙していた。

 オーガにとっての獲物達は、狩人達に比べると一回りは小さい。


 その内の一つ、白い光沢をもつ金属の鎧が、大きな盾を構えて一歩前進した。

 レティと呼ばれたその鎧は、巨大な棍棒を振るうオーガ達の猛攻にたった一人で迎撃態勢を取る。


「よ、四体ですってば! 倍ですけど! ダンさんの話きいて……ってレティさん!? もう! サ、サポートしますっ!」


 プライドが高いのか、あるいは無謀な自信家なだけなのか、大見得を切ってレティが前線を張る。

 威勢だけは良かったその様は、巨大な棍棒の一撃に姿勢を崩されながらなんとかオーガ達の攻撃を防いで抵抗しているという様子だ。

 後ろから見ていても危なっかしいったらない。


 その姿に冷や汗を流しながら、白いローブの少女が慌てて呪文を唱え始めた。


「猛き闘神の火の加護よ、その身に終わり亡き戦渦の火を宿せ。マッシバップ!」


 緊急用に短縮された呪文が終わると同時に、レティの体に仄かな赤い光が宿った。

 ジワリと染み込むような熱が、全身の機能を瞬間的に向上させる。


「フン! 余計な事を……!」


 筋力増強の補助魔法を受けたレティは、言葉とは裏腹に大盾の影でニヤリと笑う。

 両手で盾を支えるのが精一杯だったオーガの棍棒を、今度は片手持ちで弾いて見せた。

防戦一方で飾りも同然だったレティの剣先が、待ちくたびれたとばかりに素早く跳ねる。


「さぁ、断罪の時間だ!」


 威勢よく振るわれるレティのその剣は、オーガの厚い皮膚を一枚裂く程度の攻撃力しか持っていない。

 勝ち誇った表情も虚しく、オーガ達に弱る気配はないが、本人は気にもせずに猛攻に出た。


「まったく、攻撃は任せろって。レティ、お前の役目は防御だって言ってるだろうが」


 三体一ですら余裕を持って立ち回り始めたレティの呼吸に合わせるように、別の人影が割って入った。

 その拳がオーガの横っ腹を突き破り、一撃の内に悶絶させる。


 ダンと呼ばれた半裸の男だ。

 その手には黒金のナックルダスターが握られている。


「うるさい。私の方が強い」


「いや、全然ダメージ入ってないからね? なぁロリエ?」


「え、えっと、その……レティさんはそもそもナイトさんですから……ってダンさん! 前、前っ~!」


 からかうようにロリエに振り向いたダンに、オーガが棍棒を振り下ろしてきた。

 ダンはそれを余裕を持ってかわすと、前傾姿勢になったままのオーガの顔面に拳撃の連打を叩きこむ。

 その衝撃で吹き飛ばされたオーガの体はあっさりと、大きな煙となって消えて行く。


「楽しいお喋りは後にするか。さぁ、一気に片そうぜ!」


 不幸にも戦場と化したその通路は、ほんの数週間前まではそれなりの交通量を誇る大きな道路だった。

 華やかな住宅地にほど近い大通りは、町の中心へ向かって伸びている。

 それも今ではひび割れたアスファルトが広がるだけの戦場跡だ。


 通路の両脇に並ぶ建物も既にボロボロの廃墟と化し、窓ガラスなど割れていない物を探す方が難しい。


 折れた電信柱。

 ねじ切れた標識。

 倒れた自販機。

 荒れたゴミ箱。


 街灯も機能せず、夜になれば広告のネオン一つない暗闇に包まれるだろう。


 オーガ達はそんな荒廃した道の上にいくつかの新しい傷跡を残し、そして消えていった。


「フン。他愛もないな!」


「いやロリエのサポないとヤバかったからね、レティ? わかってる?」


「そんなことはない。私は強い」


「ホントどこから来るんだろうね、その自信は……」


「ま、まぁまぁ。誰にもケガもありませんでしたし、良かったですっ」


 三体のオーガを難なく殲滅し、三人は来た道を振り返った。

 周囲にも他のモンスターの気配はなく、人気のない景色が広がっている。


「依頼は完了だ。一度、ギルドへ報告に戻るぞ。他にもまた地上に出て来てるモンスターがいるかも知れないからな。早めに報告して、一応は警報の一つでも流してもらわねぇと」


「そうですね。一般の方……いえ、冒険者といえども駆け出し程度の人じゃ、オーガの集団相手じゃ勝ち目がないです。数が多くなれば私たちですら……」


 大小に関わらず鬼たちは徒党を組む習性がある。

 その数が大きくなれば、三人という少数パーティ一つでは相手をするのに心許ない。


 これ以上の巡回は危険だと、リーダーであるダンは判断した。


「何をバカな。私は負けん」


「はいはいレティは強い強い。さっさと戻るぞー」


「おい貴様、いま私をバカにしたか? なぁ、ロリエ? こいつ私をバカにしたよな?」


「さ、さぁ~……どうなんでしょうね~……」


「さっさと戻るぞー」


 歩き出す道の先には開けた空間が見える。

 広大な敷地の真ん中に、巨大な木造建築が佇んでいた。

 昼間だというのにやけに暗く見える、光を吸い込む影のようなおどろおどろしい印象の建物。


 それはダンジョンと化した巨大な学園の校舎である。

 この付近に出現するモンスターの元凶だ。


 三人はいつも通りに軽口を交わしあいながら、しかし警戒を怠ることなく来た道を引き返して始めた。

 向かう先こそがその学園ダンジョンだ。


 モンスター達の巣窟であり、冒険者が集う場所。

 命がけのゲームの舞台。


 巨大ダンジョン、千金学園。

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