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005-3:赤土の迷宮【偵察編】③

「うーん、やっぱりわからないな……」


 ヒノタマの魔法に対してこの短剣は三度、暴食の効果を発揮した。

 しかし、その刃には何ら変化が見られない。


 ステータスの再確認をしてみるが、やはり変わったところは無いようだ。


「どれだけ吸収できるのか……最大値も表示されないのか?」


 魔法を防ぐには便利だが、安心しては使えないようだ。

 どれくらい使えるのか、食べ過ぎたときにどうなるのか。

 確認できない要素がかなり多い。


 このバグった世界は現実とゲームの間のような、そんな世界だ。

 完全にゲームの世界なら、全てが数値として理解できるのだろうが、そうでないからややこしい。


「うーん、考えても仕方がないか。できるだけ魔法タイプとの戦闘は避けよう」


 さっきの程度の魔法なら、無理して暴食のスキルに頼ることもない。

 回避できるなら回避を優先して戦う事にする。


 一応、暴食への対応策は用意してきたが、今は一度切りしか使えない切り札でもある。

 まだその時ではないだろう。


「まぁ、ボスが魔法タイプじゃないと良いんだけどね……」


 同じ魔法でもボス級のものなら威力も違うだろう。

 先ほどのように簡単に防ぐことができるのか。


 ひとまずは地下二階に進んだ時に考えよう。

 敵の強化具合にもよるのだから。


「まずはこのフロアを探索しておこうか」


 隠れていたヒノタマを倒して、部屋に残ったのは二つの道だ。

 すでに地下へ進むルートを見つけていることから、地下一階フロア全体の広さはさほど広くないと予測できる。


 恐らく、どちらも宝箱か行き止まり程度だろう。

 ゲーム経験からのその推測は見事に当たっていた。


 どちらも確認するつもりで、まずは右に伸びる道を進む。


「あ、こっちは行き止まりか……ん?」


 少し進むと小さな小部屋に着いた。

 先へ進む通路もなく、モンスターもいない。


 用心しながら中央へ進んでも、先ほどのヒノタマのように隠れているものもいなかった。

 ただ、奥の壁に何かが刻まれている。


「何だろう、日本語じゃないみたいだけど」


 そこには文字列と思われる記号の並びがあった。

 英語によく似ているが、ハアトが知っているアルファベット群とは違い、一つ一つが見たことのない記号で出来ている。


「お前、読めるのか? って、そんなワケないか」


 グミが壁の前に立ち、その記号を眺めるようにプルプルしていたが、すぐにハアトの肩に戻ってきた。

 この生き物はとにかく好奇心が旺盛なようだ。


 なんとなく文字のようには見えるが、いったい何が書いてるのか、何かヒントにでもなりそうなものがないかとしばらく眺めていると、手首のバンドに反応があった。


「ん、なんだろう?」


 グミと一緒にそれを覗くと、メッセージが表示されていた。


『モンスターやアイテムにステータスプレートをかざすとステータスを表示できる』


「……なんだ、これ?」


 急に表示されたそれは、ゲームによくある操作説明のような文章だった。

 まるで説明書だ。


「もしかして、この壁の記号を翻訳してくれたのか?」


 随分と長さが違うが、多分そうなのだろう。

 やはり、この記号群はダンジョン世界の文字のようだ。


「あー、でも、確かにこういうのあるな。世界観とか考えないパターン……」


 ゲームなどでたまに見かける演出だ。

 ちょっとしたヘルプがダンジョン内などで見つかるというもの。


 その付近のモンスターの弱点や、レアアイテムを獲得するためのヒントなど、その内容は多岐にわたるが、これは本当にただの説明のようだった。

 しかもすでに受付嬢であるカオリから聞いた内容だ。


「でも、他にもこういうメッセージが隠されてる可能性があるって事か。やっぱりダンジョンは隅から隅まで調べた方が良いみたいだね」


 正面の壁の他には特にメッセージもなく、一度前の部屋に戻り、今度は反対の道へ進む。

 形状としては先ほどの部屋と同じらしく、すぐに小部屋に辿りついた。


 違いは、その中央に背の低い緑色の人影があったことだ。


「こっちはモンスターか……!」


 毛髪はなく、代わりに小さな突起を額に一つ伸ばした頭。

 小さな瞳が侵入者を捉えると、獣のように「ガァ!」と叫んだ。

 その口元には人のものならざる鋭い牙が乱雑に並んでいる。

 暗く濁った緑色の肌には何の着衣もなく、やせ細った体を無防備にさらしたまま、手に持った棒切れを掲げて駆け寄ってくる様は、明らかに人間の姿ではない。


 人型ではあるが、明らかに人とは異なるそれにバンドをかざすと、そのステータスが浮かび上がる。


 モンスター名、ゴブリン。

 種族、小鬼。

 危険度、G。


「うぉー、定番の奴きたー!」


 ゲームで見たことがありすぎるその名前に、少しだけハアトのテンションがあがった。

 例えるなら、好きな芸能人を街中で見かけて時のような、そんな感じだ。

 引きこもりのハアトにそんな経験はないのだが。


 襲われかけているのに喜ぶ余裕があるのは、相手が明らかに物理タイプだからだった。

 ハアトが短剣を構えるよりも早く、すぐさまグミが突進していく。


 棍棒、というよりはただの木の棒で弾かれるも、気にせず再び突進していき、ゴブリンの顔をはね上げる。

 「ギャ!」と叫んだその声は、恐らくダメージよりも驚きの度合いが強い物だろう。

 物理攻撃をほとんど無効化する有用な特性とバランスをとってでもいるのか、グミの攻撃力は異常に低い。


 グミがデタラメに突進し、ゴブリンが木の棒を振るいそれに応戦する。


「すごい良い勝負してる!?」


 リトルマウスとの闘いでは数の暴力の前に玩具にされているだけだったが、一対一のこの状況で、対等の勝負を繰り広げていた。


 せっかくなのでグミの戦いっぷりを観察してみる。


「……良い勝負というか、泥仕合か」


 攻撃力が皆無のグミと、グミの特性のせいで有効打を与えられないゴブリン。

 その地味な戦いは耐久力の差でグミの勝利に終わった。


 リトルマウスの群れに襲われても平気なくらいなのだから、一体が相手ならそう簡単にはやられないだろうと思っていたので、安心して観察できた。


 ゴブリンが仲間を呼んだりすればすぐに助けに入るつもりではあったが、最後までそんな素振りは見せなかった。

 ゴブリンといえば雑魚モンスターの筆頭ともいえるモンスターであり、群れているイメージも強かったのだが、仲間を呼ぶのはリトルマウスの特性かスキルか何かなのだろうか。


 ゴブリンが力尽きて倒れ、煙となって消えていく。

 その後に、見覚えのある革の袋が落ちていた。


「おっ、今回はアイテムが落ちたみたいだ」


 手に取って開けてみると、袋はスッと消えていく。

 中から出てきたのは、小さな牙だった。

 恐らくゴブリンの牙だろう。そう思いながらバンドをかざすと、やはりそうだった。


 素材名、ゴブリンの小牙。

 ランク、G。


「やっぱり素材か……」


 リトルマウスの歯よりも小さいそれも、やはり素材だった。

 レアかどうかは判断できないが、恐らくはレアでもなんでもないだろう。

 それくらいは何となく察する。


「……うん、この部屋には他には何もないみたいだね」


 壁も見て回ったが、先ほどの部屋のようなメッセージはなかった。

 これで地下一階フロアは全て探索し終わったことになる。


「となると、やることは一つだね」


 その先がどうなっているのか不安ではある。

 だが、進むしかない。


「よし、それじゃあ地下に進んでみようか!」


 ハアトは自分を鼓舞するようにグミに語りかけ、地下への階段へと向かった。

 グミが答えるように先陣を切って跳ね進む。


 不安はあるが、ゲームを手に入れるためだ。

 怖がってなどいられない。

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