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005-2:赤土の迷宮【偵察編】②

「さぁ! 今、ウチから出せる剣の一覧はこちらです!」


 綺麗に真っ赤に染まった髪をふわりと舞わせ、身振り手振りもついた勢いの良い言葉と共に開かれたのは、見慣れたデジタルウインドウだった。

 ただ、そこに表示されているのは言葉の通り剣だけである。

 カオリが商品の一覧にソート機能をかけて抽出してくれたらしい。


「えぇと、どれどれ……って二つしかない!?」


「さすがハアトさん。良いツッコミです!」


 ウインドウに表示されていたのは武器はたった二つだけだ。


「そうなんです! 私はまだこの二つしか販売できる能力を持っていないのです!」


「……まだ?」


「実は、取り合え使える商品は私の受付嬢としてのランクが上がると増える仕組みなんです」


「……ランク、ですか」


「はい、ランクです。レベルのようなものですよ。ただ、受付はダンジョンに潜って戦闘したりはしませんから、その代わりに、冒険者の方々がダンジョンで集めてきた素材を買い取る事でジョブポイント、つまり経験値を得るんです」


 それが一定値まで貯まるとランクが上がり、品揃えも増えていく。


「それ以外にも、特定の素材を買い取ることで、その素材を使った品物を販売できるようになったりもします。これは生産品と呼ばれる特殊な商品で、個性的な性能を持つものが多いんですよ! 生産品には、商品名の横に星のマークがついているのですぐわかりますから」


「あ、この武器にマークがついてますね……」


 表示されている二つの武器。


 一つは以前にも見た「木彫りシリーズ」の木彫りの剣。

 そしてもう一つは初めて見る名前、アクジキ。


 アクジキの名前の横には星のようなマークがついている。


「はい、それが生産品ですね。購入にはカインと、あとは素材の在庫が足りていることが条件になります」


「素材の在庫ですか?」


「買い取った数がそのまま在庫になるんですよ。今だったら、さっき買い取った素材達がそのまま在庫数になってます。生産品が購入されると、必要な分の在庫が消費されますから、足りなくなったらまた素材を集めてきてもらう必要がありますね。生産品じゃない普通の商品はカインだけで買えますからそんな心配はありませんのでジャンジャン買ってくださいね!」


 アクジキの名前にタッチして詳細を見てみる。


 武器名、アクジキ。属性、斬撃。

 ランク、F。

 攻撃力、5。

 耐久、5。

 武器スキル、暴食:魔力(1)。


 見た目は木彫りの剣と同じくらいの大きさの短剣だ。

 鋭く磨かれた白い刀身には見覚えがあった。


 鈍く輝くそれはリトルマウスの前歯だ。

 短剣として形が整えられてはいるが、狂暴なネズミの面影があった。


 価格:50カイン。


「た、高い!」


 ハアトの手持ちの残りカインは56カインだ。

 ギリギリ買えるが、新作ゲームは買えなくなる。

 もっとも、ボス部屋を探索してソフトを発見しなければ購入はできないのだから、今はそれを考える必要はないだろう。


 使えるなら、全カインを使ってでも装備を充実させた方が良い。

 ゲームでも同じだった。

 貯金するよりもお金はどんどん使って効率を上げた方が、結果としてお金は貯まるものだ。

 少なくともハアトはそうやって数多のクソゲー達を攻略してきた。

 中には例外もあったが、クソゲーなのだから仕方ない。


「何をおっしゃいます、ハアトさん。ランクF装備としては安い方ですよ!」


「そ、そうなんですか?」


 ゲームの価格を考えるなら、一万円以上することになる。

 これで安いのか。


 いや、そもそも玩具ではない本物の武器なのだから高くて当たり前なのかもしれない。

 本物の武器など買ったこともないから相場も何もわからないが、なんとなくそんな気がする。

 少なくとも、玩具よりは高価なものだろう。

 そう考えると納得もいく。


「はい! それに、この短剣には武器スキルもついてますから、かなりお買い得ですよ! スキル持ちは値が張るみたいですから」


 確かに武器スキルというものが表示されている。


 暴食……どんな効果だろう。


「これって、どんなスキルか分かりますか?」


「はいな、えーっとですね……ありました! コホン……スキル、暴食。対象となる攻撃へのカウンター判定成功時にそれを吸収する。スキルレベルによって吸収できる量が上昇する。ただし、暴食スキルのみでは吸収のみが行われるため、変換あるいは放出に適したスキルがなければ食べ過ぎに注意が必要となる……って感じみたいです!」


「対象……というのは、この剣の場合は魔力ということでしょうか?」


「そのようですね。要するに、この武器は魔法攻撃を返り討ちにして吸収できちゃうすごーい装備ってことです! 買いますか!?」


 正直な感想を言えば、これはかなり魅力的だ。

 物理攻撃の盾としてはグミが恐ろしいほどに機能する。

 その反面、魔法攻撃にはめっぽう弱いらしいから、対策が必要だとは思っていたところだ。

 この武器なら、それが出来る。

 この世界の魔法の基準にもよるが……。


「え、えと、確かに欲しいですけど……」


「ではでは、素材もそろってますし、カインも足りますし? 買っちゃいますか!?」


「え、えっと、他にも見てから……ち、近い! 近いですカオリさん!?」


 ハアトは購入した。

 童貞は可愛い女子には勝てないのだ。


 そして、ダンジョンへと戻ってきた。

 この剣のスキルを試すために。


「その力、試させてもらうよ」


 空中で揺れるヒノタマとグミの間に立ち、剣を構える。

 さきほどの一撃は、暴食のスキルで難なく吸収できた。


 魔法にビビったのか、グミがハアトの背後にプルプルと逃げてきた。

 かわいいなコイツ。


 ヒノタマはすぐさま次弾の準備を始め、その体が再び赤みを帯びていく。


 先ほど見た魔法の威力は低いものだとは思えなかった。

 魔法の威力が高い場合、そう何発も打てないのがゲームなんかじゃ良くある設定だ。

 威力が高い分、使用するためのコストも高くなる。


 問題は、それを全て捌き切れるかどうか。


 ポン、と収束した赤みが小さな弾丸となってハアトに向かってくる。

 手のひらくらいの大きさのヒノタマの体から放たれるそれは親指程度の小さな攻撃魔法だ。

 ただし、その威力は小さくない。

 直撃した時のダメージは想像もつかない。


 暴食の効果は見定める。

 だからと言ってそのために無茶をするつもりはなかった。


「おいで、グミ!」


 呼びながらグミを拾い上げ、そのまま魔法弾を回避する。

 飛び退いた直後に地面が爆ぜる。

 魔法弾は小さいが、その衝撃は手のひらサイズなんてものじゃない。


「……よし、大丈夫だ」


 魔法の弾速はそれほど早くない。


 不意打ちでなければ十分に回避は可能だった。

 それを確認して、グミを肩に乗せ、改めてアクジキを構える。


 向かい合うのも一瞬、すぐに次弾が放たれる。


「グミ、落ちないでね!」


 念のためグミにも声をかけてから動いた。

 グミが命令通り肩の周りにグっとくっ付いてくる。

 ビビってるせいか、やけに素直だ。いい性格してるな、コイツ。


 魔法弾の射線をかわすように体をズラしながら、アクジキの剣先だけをそこに残すように動いた。

 刃の腹で弾くように、刀身を火球にぶつける。


 ウェポンマスタリーとやらの効果なのだろう、体は驚くほどに思い通りに動いた。


 アクジキの刃に触れた火球が、ふわりと消える。


「よし!」


 対処は問題なくできる。

 武器スキルの効果は予想以上のものだった。


 カオリの説明にあった「カウンター判定」というものがどんなものなのか気になっていたが、要は攻撃に対してこの武器を当てれば良いという事らしい。

 火球を切るわけでもなく、ただ刃の腹を当てただけでも暴食の効果は表れているのがその証拠だ。


「これは使い勝手が良いかもしれないぞ……!」


 カオリに押され気味の購入だったが、結果として良い買い物になった。

 感謝である。


 一人で感動気味のハアトに構うことなくヒノタマは魔法弾を撃ってくる。


 これで五発目の魔法だが、魔力が切れる様子はない。

 下級の魔法だからなのか、それとも魔法自体のコストが低いのか。

 それも見極めたいが、ハアトにはもう一つの心配ごとがあるため、そうも言っていられない。


「まずは、倒す!」


 次弾もアクジキで食らい、そのまま距離を詰める。

 ヒノタマがハアトから距離をとるように下ったが、その動き自体は緩慢だった。


 すぐに短剣の間合いまで入ると、そのまま一刀両断、振り下ろす。


 魔法を使うとはいえ所詮は危険度Gのモンスターだ。

 短剣の一撃を受けたヒノタマの体は真っ二つに割れると、リトルマウスと同じように煙のように消えていなくなった。


「よし……グミ、大丈夫か?」


 天敵とも言える魔法生物が倒されたからか、再び元気を取り戻したグミが肩で跳ねる。

 どうやら無傷のようだ。


「ドロップはなかったなー」


 ヒノタマがいた場所には何も残ってはいない。

 絶対に何かを落とすというわけでもないらしいので仕方ないだろう。

 今は目的もアイテム集めではないし、気にしないでおこう。


「……さてと、どれくらい溜まったのかな」


 ハアトの心配事は暴食の限界だ。

 説明に合った「食べ過ぎ注意」が気になっていた。


 食べ過ぎとやらまでにどれくらい魔法を食べられるのか、それによって何か対策が必要になるかもしれない。

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