ふぶ。
しっちゃか
何も聴こえない。
私をとらえた不安の種は、まずそこに集約していた。私の関節の軋む音や、内臓の蠕動、鼓動のリズム、荒さを増していくばかりの呼吸。そのすべてが、白い幕のように目の前を覆い尽くす吹雪と、風のうなりに掻き消されてしまう。私と云う個人が消失する。
竹竿のように硬直した二本の脚は、もはや疲労の影すら窺えず、あるのは純然とした痛みと、鈍麻すると云う実感のみだった。
一歩、一歩、踏み出しているようで、確かなことはわからない。視覚と聴覚、肌感覚を奪われ、私はもはや立っているのか寝ているのかも判然としない有り様だった。生きているのか、死んでいるのかもわからない。ただ、ぼやけた意識の中、何とか呼吸だけは絶やさぬように、必死に口を窄めている。猛々しい風と雪の間に、己の呼気を何とか忍ばせる。
しかし、その姿も見えない。
私はいったい、何をしているのだろうかと考える。何を暢気な、と心の冷静な部分が自嘲気味にわらう。なるほど、つまり私の身体はもはや意思に寄らず、思考に寄らず、ただ突き進むと云う一点において、特化したと云うわけだ。とも考える。私のどこかの部分がそう考える。どれが本当の私だろうか? そう疑問に思う私はどこの部分の私だ?
冷え切った身体はやがて、じんわりと熱を帯びてくる。身体の芯から滲むそれは、死の匂いがする。困惑した私には、その匂いは安らぎを与えてくれる。幸福な気持ちが、沁み渡ってゆく熱の尾に連れられてくる。何も感じない。
僕は何も感じない。
「ほんとうのことを教えてくれないか?」
ごうごうと云う風に問うた。
「ほんとうのことを教えてくれないか?」
風はうなり、雪は降り積もり、吐いた言葉を呑みこんでいく。
「」
風は答えた。
「」
雪も答えた。
「」
僕も答えた。
射すような言葉、射すような視線、射すような、射すような
肌感覚もなく、視覚もなく、聴覚もない。
私は何も感じない。
めっちゃか。