冥府魔道。
この世は地獄、
暗く窮屈な産道を抜けて見えるは、さらに深い深い暗さ
驚いて泣く私を暗闇の中黒い手らしきものが包むが、その手はひどく冷たくて
私は流れる涙の温かさを欲するがために、ただ泣いた
胎内に置いてきた無数の同士は私をうらやましいと云って死んでいった
ある時、「潰されそうな肉のうごめきをこえると、ただまぶしさがあるんだ」と、ある同士は云った
ある同士は云った、そして誰しもが唱えた、「「「「「「何のためにあるのかもわからないこの眼は、そのまぶしさを知るためにあるのだ」」」」」」と、みんなは云った、信じた、願った、生きた、
「こんなにも暗いのなら、いったいこの眼は何のためにあるの?」
私の問いかけに応える者はもういない
母はどこ?
私の周囲にいるのは、冷たい女と意地悪な男
女と男が私を見ていることだけがわかる
「いったい、この眼は何のためにあるの?」
私のうめくような問いにかえるは、生ぬるい吐息と引き攣れたような声
笑っているのか?
私を見て、笑っているのか?
臓腑が逃げ惑うように喉元までせり上がる
まぶしさのない世界で、私の眼にうつるものはない
こごえる風が吹いてばかり、冷たい手が私をつつく、
男のヤニ臭い吐息が頬をねぶりまわす、汚らしい笑い、
冷え続ける背筋は固いベッドに接し、この世界の地上と間接的に接し、この星の核から吹き続ける風を予感し、そのあまりにも寒々しい風に震える、もだえる、悲鳴を上げ、自前の涙で暖をとる
この風がいつか私をどこかから突き落とす、予感がした生後一ケ月
人は鬼。