39話
洸ちゃんと世間話をしながら歩いていると、あっという間にギルドに着いてしまった。
まぁ、宿屋と近いからあっという間に着くのは当たり前なんだけどね。
そして、あるかどうか気にしていた屋台だけど、丁度撤退する所で何も買えなかった。グスン。
ギルドの中に入ると、特別依頼を始める朝3の鐘より四半刻も早いのに準備万端といった駆け出し連中が目に入る。
何となく目を合わせたく無い様な…。隣に居た洸ちゃんが小さく‘ひぃっ’と声を上げてるけど、そりゃあそうだよね。
特別依頼の講師役のAランク冒険者と一緒に入って来たんだもんね。仲良く会話をしながら。
そりゃあ、嫉妬の視線を浴びせられるわな。
その事を何にも考えずに一緒に行こうと誘ったのは申し訳ないな。ごめんよ洸ちゃん。
受付カウンターに居たターニャが私を見つけて手招きしてる。この状況で洸ちゃんを1人で残しても大丈夫だろうか。
「洸ちゃん、ターニャに呼ばれてるんだけど…。離れても大丈夫?」
洸ちゃんだけに聞こえる様にぼそっと呟く。
洸ちゃんも同じくぼそっと呟き返してくれたが、
「ティナ。この状況で俺一人取り残されたら、無事に特別依頼を受けられる自信がない。」
「あはは、だよねー。」
さて、この状況をどうしようか。
まず思いつくのは、誤魔化す。外で偶然会って、特別依頼を受けるって知ったから話してたとかでね。
でも、洸ちゃんの冒険者登録する時に一緒に来てるから、知ってる人は知ってるだろうし。初日も一緒に湯屋に行ってるしね。
と言う事で、誤魔化すのは下策と。
二つ目に思いつくのは、‘洸ちゃんファイト’と言う事で、この視線を無視してターニャの所へ向かう。
うん、これも良く無いよね。洸ちゃんと他の駆け出し連中ともそうだし、私と駆け出し連中との仲もギスギスしてやり難くなるから、これも下策と。
最後というか、私の中での最適解はこれだよね。
「洸ちゃん。この特別依頼は洸ちゃんとパーティーを組むことが出来ないから受注した事だから、ちゃんと他の駆け出しの冒険者達と交流をはかって、お互いに高め合うんだよ。
洸ちゃんだけを特別扱いはしない。」
「え?あ、うん。」
「私はこの特別依頼で冒険者に必要なことをちゃんと教えるよ。全員にね。
ただね、全員覚悟していて欲しいけど、意欲が無い者には私は厳しいよ。逆に意欲がある者には全員に教える以上の事を教える。それは、特別依頼の最中でも街中であった時でも差別はしない。
私が今泊っている宿屋は、ギルド近くの『栄光への道しるべ』。質問があって、私が捕まらない時は其処へ訪ねてきなさい。ただし、夜ぐらいしかいないだろうけどね。
宿屋が変わる時は、その時また教える。
以上。」
「「「「「はっ、はい!!!」」」」」
ギルドのフロアにいた駆け出し連中が一斉に返事をした。これで多少は大丈夫だよね…?
うぅ、不安だ。
それに、なんだかこれから毎日忙しそうだ。時間には余裕をもって行動をしよう。
取り敢えず言いたい事を言ったから、ターニャの傍へ移動しよう。
「…ティナ、これ以上信者を増やしてどうするの?
昨日、‘信者が欲しい訳じゃない’って言ってなかったっけ。」
ターニャはニヤニヤした顔で訪ねてくる。そんな事を言ったって仕方ないじゃない。態とじゃないのよ、態とじゃ。
「っと、冗談はさておき、昨日言われていたものよ。」
「ありがとう。早速目を通すよ。」
「そうして。」
書類に目を通しながら、ターニャに尋ねる。
「特別依頼を受ける人で集まっていないのはあと何人ぐらいなの?」
「既に全員集まってるわよ。最後に来たのがコースケ君と講師役のティナよ。」
「ぅえ!?まだ四半刻も前だよ?」
「それだけ気合十分なんでしょ。それと、ごく一部だけど、早朝に依頼を済ませて来た強者もいるわよ。
ティナの言う、意欲がある者に当たるんじゃないかしら。」
ごく一部ってどれくらいの人数なの?
特別依頼を受ける人数が最終的に52人。ごく一部って言ってるぐらいだから、多くても2割といった所だよね。そうすると、10人前後って所だよね。
多いのか少ないのか良く分からないね。まぁ、それは取り敢えず置いておくとして。
「ターニャ、模擬戦する場所って決まってる?」
「何処か考えている場所はあるの?」
「52人もいるから、西門を出た所にある草原でやろうかと思うんだけど。」
「門から離れた所だったら問題無いけど、低級でも魔物が出るからちゃんと注意をしてね。
あと、査定員も同行する事が決まったから。」
「査定員ってランク審査をする?」
「そうよ。今回の特別依頼の内容を、今後のE~Cランクの昇格試験に登用出来ないかの視察って所ね。それと、ティナの指導能力の査察ね。」
「E~Cって、依頼の達成回数で昇格出来たよね?」
「質の悪い冒険者が増えたのが原因よ。どのランクでも試験が必要なのではって、お上の方での会議で議題になってるのよ。
そんな時に、ティナの特別依頼の内容を知ったギルドマスターが参考にしようって話になったのよ。
急な申し出で申し訳ないけど、宜しくね。」
「分かった。査定員の人は後どれくらいで来る予定?」
「…既に、駆け出しの中に混ざってるわ。あそこよ。」
目を泳がしているターニャに示さてた方を見ると、ローブを着た中年のおじさんと甲冑をきて剣を手にしたクリス君がいた。クリス君は査定員じゃ絶対ないよね?
クリス君がいるから目を泳がせたの?
私が無言でターニャを見続けていると観念したのか、
「クリスはあれでも戦闘力はあるのよ。だから、査定員の護衛役なのよ。」
「護衛の仕事をしっかりとしてくれる事を切に願うよ。」
また、昨日みたいに口説かれても迷わ…困るしね。こっちも今日は仕事だし。
「査定員も特別依頼の受注者も全員揃ってるって事だから、そろそろ移動して始めるわ。」
「…えぇ。頑張ってね。」
その間は何!?頑張ってって特別依頼に対してだよね?そうだよね??まさかクリス君の事では無いよね!?
ターニャに確認しようと思ったけど、無情にも朝3の鐘が鳴り響いた。
「時刻になりましたので、特別依頼を始めたいと思います。
既にご存知ですが、今回の特別依頼を発注したAランク冒険者『赤の破壊者』であり『万器の操者』でもあるティティナさんです。
以降の事は、全てティティナさんの指示に従って下さい。
受注時にも説明させて頂きましたが、ティティナさんの指示に従わず、怪我や死亡した場合はギルドでもティティナさんの方でも保証は致しません。
また、悪質な妨害等があった場合は受注の取り消し・罰則・罰金が科せられ、程度によっては冒険者資格の剥奪もありますので十二分にご注意下さい。
それでは、ティティナさん後は宜しくお願いします。」
ターニャのこういう仕事をしてる時の姿勢ってかっこいいよね。女でも惚れ惚れするわ。
そんな事よりも特別依頼を始めないとだね。
「えーと、ご紹介にあずかりましたティティナです。
取り敢えず、皆さんの戦闘力や戦闘時の癖などや遠征時の知識を知りたいので、模擬戦を行います。
場所は西門から出た草原で行うので、昼食などの必要物資を持って1刻後の昼1の鐘に西門に集合して下さい。
終了時刻は夜2の鐘に西門を予定してます。」
お読み頂きありがとうございます。




