37話
『ティナ、起きて。ティナ。』
眠っているとランの声が聞こえた。
『…ラン?どうしたの?』
『いつもの起きる時間、過ぎてるよ。』
何ですと!?ガバッと勢い良く起き上がる。
隣のベッドからは、洸ちゃんの寝息が聞こえるし、外はまだ暗い。と言う事はそこまで寝過ごしてはいないと言う事だね。
『ありがとう、ラン。いつもよりどれくらい遅かった?』
『う~ん?ティナ達の言い方だと、半刻ぐらいだよ。』
そうすると今は大体3時くらいか。
態々起こしてくれたランに、特別に私の土属性で固めた魔力を渡す。精霊にとって自分の属性の魔力が一番の好物だからお礼にね。
寝坊をしたけど、お肌のお手入れはいつも通りにする。いや、鍛練もいつも通りにするけどね。
部屋での鍛練が終わり、中庭に出て走る。走り終われば、今度は武器を持っての鍛練だ。
今日は特に念入りにやらないとね。
駆け出し相手の模擬戦で、1撃でも食らう訳にはいかないし。Aランクの意地というか、何というか。
遠くで鐘の音が聞こえる。あぁ、もう朝1の鐘か。そろそろ洸ちゃんも起き出して、部屋での鍛練を始めるだろうな。そうしたら、後四半刻は私の鍛練に集中出来るな。一通りは終わったから、大槌か剣をもう一度しよう。今日の模擬戦はどちらでやるべきか。
やっぱりメイン武器の大槌で戦うべきだよね。あぁ、でも、駆け出し相手にそれは可哀そうかな。戦い難いだろうし。そうすると、剣にしてあげた方がいいのかな。
そんな事を考えつつ、大槌を振るう。
チラッと横目に、宿泊客が見える。あー、うん。駆け出し相手に大槌は無しだな。みんな引いてるし。
大槌をペンダントに戻して、腰に佩いていた剣を手に取る。
ちなみに大槌は魔剣ならぬ魔槌なので、私の魔力で大きさを変えられる仕様になっている。
持ち運ぶ時に便利にする為、魔力を通す前の待機サイズはペンダントサイズにしているのだ。これを作るのにとっても苦労した。大体10年の年月をかけて作ったし。
出来上がった時は、お祖父ちゃんも父さんも、いや、工房の職人全てが呆然としてたけど。
私はよく突拍子もない物を作る、若しくはやる人物だと言ったのは誰だっただろう。
そろそろ、洸ちゃんも中庭に出てくる頃かな。
最後に一振りして、剣を鞘に戻す。すると、パラパラと周りから拍手が起こる。
一体どうしたんだろう?
「ティナってやっぱりすごいんだな。
Aランク冒険者だってしってるし、魔物と戦ってた姿も見たことがあるけど、今まで見てた姿と全然違うって言うか、気迫が違うって言うか。何て言ったらいいんだろ。うまくまとまらないや。
とにかく、カッコイイって感じ。俺もそれぐらいの剣捌きを出来る様になりたいって、目標になるよ。」
「あ、ありがとう。」
正面切って褒められると恥ずかしいと言うか、割と考え事しながらしてたから、これを目標にしたいと言われてもちょっと微妙と言うか。
まぁ、それは置いておいて洸ちゃんの鍛練を始めようか。
「さて、私の鍛練が一通り済んだから、次は洸ちゃんの鍛練をしようか。まずは走り込みからだよ。」
「それは、もう終わった。一応アークに昨日と同じペースで走れてるかチェックしてもらいながら1時間走ったよ。」
小声で報告してくる。もう走り終わってるって事は
「朝1の鐘より早く起きたの?」
「そう。でも、朝日が昇り始めた頃だよ。」
今の時期は、大体4時頃に朝日が昇るから、私が起きた1時間後か。もしかして私が部屋を出た音で起こしちゃったのかな?そうだったら、申し訳ないな。
私が申し訳なさそうな顔をしてしまったのか洸ちゃんが、
「ティナのせいじゃないよ。アークにティナが部屋を出たら起こして欲しいって頼んでたんだ。
アークって言うか、精霊って昼間も良く寝てるから起こしてもらえるかなって思って。
寝る前にアークに起こせるか聞いて見たんだ。そしたら、問題無いって言われたから。」
「そうだったんだ。でも、あんまり無理したら駄目だからね。冒険者は体が基本なんだから。」
「…それだったら、もう少しゆっくりと走らせて欲しいよ。」
「……善処するよ。」
目線を泳がせながら、返事をする。
私の悪い癖なんだよね。スイッチが入ると何処までも突き詰めてやりたくなっちゃうの。
そのせいで、工房での見習いの指導を何度外されて怒られた事か。私の指導についてこれた子は、立派な腕利きの見習いって巷じゃ評判だったけど。
あの子も、奴属の首輪で連れて行かれたんだよね…。何とかして助けたいけど、今は情報を待つしか出来ないし。歯痒いな。
だからこそ、今の私に出来る事をしっかりとやろう。
洸ちゃんをしっかりと自立させて、第二王女から目が届かず手出しし辛い場所に連れて行くこと。
この街で基礎をしっかりと身につけさせて、旅立たないとな。猶予はどれくらいあるのかな。それまでに工房の皆の事が分かればいいけど。
両頬をバシンと叩いて気持ちを入れ替える。
ちょっと強く叩きすぎて、痛い。それに、洸ちゃんも音に反応してビクッてなってるし。
「さて、今日は剣の鍛練をする?」
「そうだな。今日も最初俺の方で剣を振るうけど、見て色々アドバイスをもらってもいい?」
「いいよ。じゃあ、あっちの方で始めようか。」
洸ちゃんを誘導して、中庭の端の方へ移動する。態々移動するのは、他の宿泊客の人の視線が気になるから。
やっぱり冒険者ギルドの近くだけあって、冒険者のお客さんがメインみたいで結構注目を集めてるんだよね。
それに、アドバイスが欲しいのか、手合わせをしてほしいのかは分からないけど、剣とか槍とかを片手に近寄って来たのが数人いたし。
この街から早く離れたいから、今は洸ちゃんをちゃんとした冒険者に育てるだけで手一杯だし。
彼らはここに泊まれている訳だから中堅だろうし、堅実にやっていれば命を落とす様な事は中々無いだろうから、申し訳ないけど我慢してもらうしかないからね。
さて、洸ちゃんも準備が整った様だし、早速型をみてみようかね。
暫く見てたけど、足も動かして移動しながら剣を振ってるけど、これはどう見ても剣に振り回されてる。
これは、筋トレと体幹トレーニングを増やさないとな。
「最初は足を動かさないで、基本の足の構えで立って。それで、上段からの振り下ろし・袈裟懸けへの斜めへの振り下ろし、中段の払い・突き・振り上げ、下段からの振り上げ・払いをちゃんとやって。
まずは剣の重さと腕にかかる負担をしっかりと確かめて。」
しっかりと頷いたので、また暫く何も言わずに見守る。四半刻程すると大分疲れが出て来たのか、体の軸がぶれまくっている。
取り敢えずはここが限界か。私の予想よりも長く続けられたからビックリだけどね。
「洸ちゃん、一旦休憩をしよう。井戸で水を汲んで飲んで来て。」
頷いて井戸に向かう洸ちゃんの背を見ながら、次の鍛練を考える。無手の場合の鍛練を…って、洸ちゃんの今の装備とかだとキツイか。
だったら、剣を持った状態で私の攻撃を避ける鍛練にしよう。大丈夫、ちゃんと今の洸ちゃんのレベルを考えて剣を撃ち出すから。
「…何だか、背筋がゾワゾワするんだけど。ティナ、変な事考えてないよな?」
顔を引き攣らせながら洸ちゃんが戻って来たから、私はサムズアップしながらいい笑顔で答える。
「大丈夫。ちょっと打撲するぐらいだろうから。」
「それって大丈夫じゃないから!!」
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