36話
美味しいご飯を堪能しながら、洸ちゃんに今日の事を聞いてみる。
「今日は街中で依頼を受けるって言ってたけど、どうだった?」
「受ける依頼は、依頼内容だけじゃなくて、ちゃんと場所を確認してから受けるべきだった。」
「街で真逆に位置する場所の依頼を受けちゃった?」
洸ちゃんは頬を少し掻きながら恥ずかしそうに頷いた。
「初めての時はやっちゃうよね。私も王都の方でやった事あるし。
あの時は焦ったわ。何せ、普通に歩いたら大人の足で移動に2刻掛かる距離だったから。」
「それはヤバいな。よく間に合ったな。俺は30分の距離だったから、死ぬ気で走って間に合ったけど。
まさか、こんなに早くティナの鍛練が結果を出すとは思わなかった。」
「たった2日走っただけで、持久力もスピードも変わらないと思うけど。」
「意地でも走り貫くって言う根性の方。」
「じゃあ、明日から更にスピードアップしよっか。」
「死んじゃう。勘弁してください。」
「あはは!根性がもっと付くし、体をイジメぬいた方が早く鍛練の結果が出るよ。」
「何時の時代の部活だよ!?
それよりも、ティナでも失敗する事なんてあるんだな。」
「そりゃ、完璧じゃないからね。あの時は事前にアドバイスをくれなかった受付嬢に殺意を覚えたけど。」
「ティナの殺意って、実行したら確実に死ぬでしょ!?よく無事だったな、その受付嬢。」
「実行なんてするはずないでしょ。洸ちゃんは私を何だと思ってるのかな?」
「…短気?」
「何故に疑問形。短気は否定できないけど。
流石に5歳児だった時だから、当時の受付業務の責任者にその受付嬢が公開で怒られてたから胸がすっきりしたけど。」
「…え?5歳児。…俺5歳児と同じ行動したの?」
「大人でも同じ事する人は一定数いるから大丈夫だよ。」
「何か、安心できる要素が無い気がする。これからはもっと慎重にならないと。」
一定数と言うか、食い詰めてから冒険者になる人間は必ずやると言うか。
少しでもお金を稼ぎたくて、依頼内容だけを流し読みして――読めない人も街中と言うだけ――受けちゃうからね。
受付も命が係わる依頼の前に、依頼内容の確実の把握と事前調査の大切さをその失敗から学んで欲しいから、態と依頼を受注する時に注意をしないんだよね。
私の時は、5歳児に大人の移動速度で2刻の距離がある無理ゲーな物を平気で受注したから怒られていた訳だし。これが四半刻の距離だったら怒られなかったんだろうなと今ならわかるけど。
「慎重すぎるぐらいに慎重になるのが一番だよ。後は自分の能力を確実に把握する事だね。」
「自分の実力か。そこはサッパリなんだよなぁ。」
「明日からの特別依頼で分かる様になるよ。」
「そうだな。特別依頼が張り出された時に、俺から見たらTHE冒険者って人も受注してたし。」
洸ちゃんが言うTHE冒険者ってどんな人だよ。特別依頼の時にそのTHE冒険者って言う人に会えるだろうから今は聞かないで置くけど、依頼が受理されたって事は、駆け出しと言う事だからな。洸ちゃんの人を見る目が心配だよ。
その後も雑談を交わしながら美味しくご飯を頂きました。
お腹も満たされたし、お酒も満足…はしてないけど、これくらいで止めておこう。洸ちゃんがちょっと引いてるし。
リリちゃんはもう居なかったので、リリちゃんのお母さんにそれぞれお会計をして部屋に戻る。
ストレッチの前に洗濯をしますかな。朝だと時間が無いかもしれないしね。
「洸ちゃん、洗い物と石鹸を持って中庭の井戸に行くよ。洗濯を教えるから。」
「洗濯って朝じゃ…、そう言えば初日も朝起きたら洗濯された後だったから夜とかは関係ないのか。」
普通の人は夜に洗濯なんてしないし、冒険者だと数日同じ物を着ている人もざらにいるけども。そんな事は態々教える必要が無いしね。
乾かすのだって、私の場合はレイムが。洸ちゃんの場合はアークが居れば無問題だし。
中庭に移動して、近くに置いてある洗濯用の大きめの桶に水を汲み、近くに設置されている台の上に置く。
衣服を次々と水の中に投入してから石鹸を持ち、桶の中に手を入れる。
「洗濯板があればラッキーなんだけど、宿屋だとよく盗難されるものだからほとんどは置いてないから、石鹸でゴシゴシ洗う感じだね。
宿屋の人に言えば出て来るだろうけどね。」
「意外とダイナミックな洗い方だな。ただゴシゴシ洗うって。」
「洗濯機何て便利な物は存在しないからね。」
「異世界転生者が居れば、作られてそうだけどな。」
「魔道具を作るのって、結構大変だからね。それにステータスの職業が魔道具技師とか魔法士とかじゃないと作れないから、地球からの異世界転生者が居ても、作りたくても作れなかったんじゃないかな。」
「…敬人が作るきっかけになればいいけどな。」
複雑な心境なのは仕方ないか。それよりも既に名前を出せる様になってることに驚きだけどね。もっと時間が掛かる様になると思ってたし。
私が思ってたよりもずっと心が強いのかもしれない。
「多分、無理じゃないかな?王宮でチヤホヤされてるだろうし、自分で洗濯をする必要性も無いだろうかなね。」
「流石に魔王討伐の旅に出れば、自分で洗濯するだろ?」
「過去に召喚された勇者様には、魔王討伐の際にも侍女が付いてたそうだよ。
本人は迷惑していたみたいだけど。」
「何でティナはそんな事知ってるんだ?
あっ、もしかして、前に言ってた文献に載ってたのか?」
「そんな所って言いたいけど、勇者様が晩年に私のご先祖様に渡した日本語で書かれた日記を読んだって所だね。文献と一緒に保管されてたから。」
「当時の勇者様は、まさか日本語で書いた日記を読まれるとは思ってなかっただろうな。」
「それよりも、洗い終わったらこの水を庭の端の方に捨てて、新しい水を汲んで濯ぎをするよ。
1回で濯ぎは終わらないから何回か同じことの繰り返しね。」
「洗濯って重労働なんだな。」
「そ。だから、洗濯物は極力貯めない様にするのが良いよ。
出来れば毎日するのがベストだね。私達は乾かすのを考えなくていいんだし。」
「どうゆうこと?」
「私の場合は、レイムに周りの空気を温めてもらうから、寝てる間に乾かせるし、洸ちゃんの場合は、アークに洗濯物の水分を取り除いてもらえばいいからね。」
「成程!」
その後、濯ぎを何回か繰り返し、石鹸の泡が出なくなった所で脱水の代わりに思い切り絞る。
洸ちゃんは、脱水の工程でアークにお願いをして水分を取り除いた様だ。
「洸ちゃん。今は周りに人がいないから良いけど、他に人がいる時は絞って部屋に戻ってからアークにお願いした方が良いよ。悪い人に目を付けられない為にね。」
慌てて周りを見回しても。誰かいたら、アークにお願いする前に注意してるから大丈夫だよ。
「さて、大分遅い時間になったから早く部屋に戻って、ストレッチしてから寝よう。」
「…そうだな。」
今の間は何かな?さては、ストレッチをサボろうとしたな。
部屋に戻ってから私の分の洗濯物を干して…下着は何処に干そうかな。取り敢えず下着以外を干して、レイムに乾燥をお願いしてからストレッチを終わらせる。
あぁ、眠い。いつもより寝る時間が遅くなっちゃったよ。
「洸ちゃんは朝1の鐘には起きて、朝の鍛練のメニューを始めてね。
私はその前から鍛練始めてるからさ。アーク、しっかり洸ちゃんの行動見張っててね。」
『了解だよ。』
何か考えこんでいる居る洸ちゃんを尻目に、私はベッドに潜り込む。
下着は…明日の朝もう一度洗い直して、レイムに乾かして貰おう。あぁ、夜更かし何てするものじゃないね。眠くて辛い。
「おや、すみな、さ…い。」
「おやすみ、ティナ。」
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