34話
結局やる事が見つからず、ただ時間が過ぎるのを待っている状態だ。
色々考えたんだよ私だって。この時間を有効活用する方法を。
でも、書庫で鍛練する訳にはいかないし、薬草・毒草・魔物の図鑑を作るにも紙の類も筆記具も持ち合わせがない。有ったとしても、ここの書庫で誰も見ていない状態で書いたものを外に持ち出すのは、後々面倒な事になりそうな気がしないでもないからね。
武器の手入れも鍛練と同じ理由で無理。
出来る事と言えば、明日の特別依頼の内容を頭の中でシミュレーションして、訂正して、またシミュレーションしての繰り返し。
流石に飽きてきたよ。
ターニャが担当者を締めると言って飛び出してから、かれこれ半刻ぐらいは経っているのだけど。まだ戻って来ないのかな。
「あら、ティティナさん。まだこちらにいらしたんですか?」
「あっ、さっきの受付の…名前は確か―――。」
「アリスです。」
「そうそう、アリスさん!
ターニャが書庫の担当者を締めるって鍵を持ったまま飛び出しちゃったので、ここで待ち惚けです。」
「…はぁ、申し訳ありません。
ターニャには後でしっかりとお仕置きをしておきますので。」
アリスさんは頭を痛そうにして額を抑え深いため息をついた。大分疲れが溜まっているみたいだな。
「大丈夫ですか?」
「このギルドの職員は問題児が多くて。あ、いえすみません。忘れて下さい。」
どうやら、アリスさんは常識人の苦労人なのかな。ギルドに問題児が多いのはどうかと思うけど。
アリスさんには罪は無いので、頷いておく。
「ありがとうございます。
ティティナさんの調べ物は終わったのでしょうか?他に何かご用件はございますか?」
「明日の特別依頼の打ち合わせをターニャとしたかったのですが…。どうしましょう?」
「では、3番の打ち合わせ室が開いていますので、そちらをご利用下さい。ターニャをすぐに向かわせますので。
ディーは私が戻るまで、ここの見張りをお願いします。」
やはり、貴重な本が置いてある部屋は鍵がかかってない場合は、見張りが必要だよね。
まぁ、本当にここの書庫に貴重な本があるのかは分からないけど、元々ギルドが鍵を掛けていた訳だから、管理がしっかりとされた貴重な本があるのだろう。
ちなみにディーと呼ばれたのは、アリスさんと共にいた男性のギルド職員で、筋肉ムキムキの解体師――以前解体所で遠目で見かけた事の有る――人でした。
アリスさんは、少し考える素振りをした後、ターニャが走り去って行った方向とは別方向へ向かって歩き出した。
「アリスさん、ターニャはこっちの方向へと向かって行きましたが。」
「ありがとうございます。ですが、ターニャを止める為には、手持ちの武器が心もとないので、受付カウンターまで取りに行ってから向かいます。」
話し方がしっかりしているけど、見た目は可憐な雰囲気があるアリスさんが武器?
どんな武器を持たせてもしっくりこないのだけど。
アリスさんの姿が完全に見えなくなった後、ディーさんがぼそっと‘まさかあの特別製の鞭じゃないよな?また修理箇所が増えなきゃいいけどな’って言ったけど、アリスさんの武器が鞭!?
え?まさかの女王様!?あのロリータっぽい姿で!!?
考えちゃ駄目だ。
何も見ない内に、3番の打ち合わせ室へ行ってしまおう。うん、それが良い。
そして、アリスさんも常識人じゃなかったのか。大丈夫なの、ここの冒険者ギルド。
3番の打ち合わせ室に入って程なくして、遠くの方からターニャらしき叫び声が聞こえた。
何も聞こえない。何も聞こえない。何も…知りたくない。
外から聞こえてくる音を無視する為に、新しい鍛冶素材を作り出す為の鉱石の配合比率や産出地の事を考える。
まずは用途。どの様な武器もしくは防具に使うか。剣・槍・ナイフ・弓・盾・鎧…。
固定の武器・防具で何かの特徴に特化するよりも、多様性があって何にでも使える方が良いのかも。
鎧にするなら軽い方が良いけど、剣は多少重みがあった方が良いし。
剣には競り合いの時の為に少し柔らかさがあった方が良いけど、突きや薙ぎ払いが多い槍は柔らかさよりも硬さが重要だし。
何にでも使えるなんて、そんな理想的な物は簡単には生み出せないよね。腕の無い職人の作品は、武器の特徴を捉えてそれぞれで比率を変えてるなんて事は無いけど。
何にでも使える浪漫な金属の事は一時置いといて、現実的な事を考えよう。
武器で考えるなら剣を想定した物で、防具で考えるなら鎧かな。やっぱり、その辺が一番の売れ筋になるんだし。
剣か鎧か。
よし、今回は鎧で考えよう。剣は今までに色々試行錯誤してるけど、あんまり鎧には力を入れてなかったし。ここらで、一度鎧にどっぷりと嵌るのも悪くないよね。
と言うか、鍛冶師なのに何時までも胸当てが革鎧なのも気になってたし。お祖父ちゃんも父さんも金属の胸当てだった訳だし。
…それに、これ以上胸の成長も期待出来なさそうだし。グスン。。
さよなら、夢のCカップ。
「ティナ、お待たせ…って何物思いに耽ってるの?
何だか視線が…胸を睨まないでくれない?」
目の前に、さっきとは別の服を身にまとったターニャが現れた。くっ、自分の胸の小ささを嘆いている時に、目の前に巨乳が現れるのは何だか屈辱だよ。
「…別に。いい加減、胸の成長を諦めて鍛冶師らしく、胸当てを金属にしようと考えてただけだよ。」
「ティナはスレンダーで素敵だと思うけど。
私の胸が大きめなのは、食欲に勝てないからだし。胸は大きいけど、その他も太いわよ?」
「ターニャの太さは、男を安心させられる程度だから良いのよ!
現に旦那と子供もいるし、独身の冒険者からもモテるじゃない。」
「ディック以外の男に興味が無いから、モテても嬉しくないけど。
ティナだって、信者はいるじゃない。」
「私は信者が欲しい訳じゃないよ。
はぁ、この話は永遠の平行線だからもうおしまい。本題に入るよ。」
「はいはい。それで、アリスさんから明日の特別依頼の打ち合わせって聞いたけど。」
「そう。私自身、特別依頼をするのは初めてだし、受けた事も無いから、私が考えてるやり方で問題が無いかの確認と、現時点で確定してる人数を知りたいと思って。」
「成程ね。まず、現時点で申し込みされている人数は37人。悩んでいる人が10人前後かな。だから、多くても50人弱って所よ。
それで、考えてるやり方って言うのは?」
「まず、初回の明日は、受講者相手に模擬戦。ちなみに、私対多数ね。
その結果とすでに組んでるパーティーとかを踏まえて4~6人ごとに分けるよ。特別依頼の間のパーティーて所かな。」
「う~ん。既に組んでるパーティーでのもめ事が起こらない様にして貰えれば大丈夫だけど。後は、個人間の仲の良し悪しよね。
何人か、過去に諍いがあった人達もいるし…。そのデータは明日の朝までにまとめておくわね。」
「可能だったら、今までに受けた依頼内容とその成否もまとめて欲しいかな。」
「分かったわ。それで明日以降はどうする予定?」
「最初の1刻をその日教える内容の講義をして、その後実地訓練を予定してる。
採取依頼から初めて魔物討伐、護衛依頼、最後はダンジョン攻略と思ってるよ。
日数的には、採取が2日、魔物討伐が3日、護衛が1日、ダンジョン攻略が3日ってとこかな。」
「特には問題ないと思うわよ。
それにそこまで丁寧な特別依頼は聞いた事が無いし。大体は、戦闘方法の指導をしておしまいだから。
ふふっ。コースケ君の為かしら。遂にティナにも春が来たのかしらね。」
「なっ、そんなのじゃ無いから!」
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