33話
冒険者ギルドの扉を潜ると幾つかの視線を感じ、視線の方をチラッと様子を見ると、何故か目をキラキラと輝かせた軍団がいた。
身なりや年齢層からして駆け出しの部類の人達だろう。昨日、ウーデさんと一緒にいた連中も何人か混ざっているけど。
彼らはきっと、明日から始まる新人向けの特別依頼の事を知っていて、受ける軍団なのだろう。
特に私から話しかける事をせず、ターニャが居なかったので一番近くに居る受付嬢の1人に声を掛けた。
「明日からの特別依頼の件で、確かめたい事があるからギルドの書庫を確認させて欲しいのだけど、可能?」
「特別依頼と言う事はティティナさんで間違いないでしょうか?
…はい、ギルドカードを確認致しました。ありがとうございます。書庫の鍵を取ってまいりますので少々お待ちください。」
ラビリンの冒険者ギルドでは基本的にターニャに対応してもらっていたから、他の職員さんは、私だと確信が持てなかったのだろう。担当したことが無いと、ランクに関係なく分からないのは当然だと思うし。噂で知っている特徴だけで判断するのは、アウトだと思ってるから、この受付嬢は信頼できそうだな。
まぁ、この街の冒険者ギルドの教育はしっかりされてるだろうけど。なんせ、あのウーテさんの娘のターニャが居るのだから。
「お待たせいたしました。書庫の方へはこの者がご案内いたします。」
受付嬢の子と一緒に現れた、金髪だけでなく笑顔までもが眩しいイケメンの少年が手を差し出して来た。
えっと、書庫までエスコートしてくれるのだろうか?ここって、冒険者ギルドであっているよね?
困惑して固まっていると
「ティティナさん、お手をどうぞ。
貴女の様な凛々しくて美しい女性をエスコート出来る幸運をボクに授けて…痛いです。ターニャさん。」
「クリス、何をしているの。女性とみれば口説く癖を直しなさいと言っているでしょう。
免疫のあるギルド職員ならまだしも、冒険者の方を突然口説くのはやめなさい。今月に入って何度目ですか。」
「ターニャさん、まるでボクが節操なしの様に聞こえる様に言うのはやめて下さい。
ちゃんと、ボクの中で美しいと思っている人しか口説いていません。」
「…それはそれで、守備範囲が広すぎると思うけど…ってそんな事を言っている場合じゃないわね。彼女は私が書庫へ案内するから、貴方は自分の持ち場に戻りなさい。」
「そんな、ズルいですよ!
ティティナさんはボクの広い範囲の中でも、かなり好みのタイプなんですから。」
そ、そんな事誰も聞いてないんだけど。と言うか、私的に10歳ぐらいの男の子は対象外だよ!
「残念だったね。ティナは年下には興味が無いんだよ。」
「ボクの魅力で虜にして見せるので、人の恋路を邪魔しないで下さい。おばさん」
「フフッ。魅力って、8歳のお子様にあるのかしら?
あぁ、同世代でだったらあるかもしれないわね。何せおばさんだから何も感じなかったわ。」
「話が進まないので、いい加減にされてはいかがですか?」
おぉう。受付嬢の子はこのタイミングで話に入れるんだ!?心臓強いな。
それよりも、ターニャがこんなに交戦的なのが珍しい。まぁ、あんなにおばさんを強調して言われたら、年頃の女性は誰だってイラっとするだろうね。
と言うか、ちょっと待て。ターニャがおばさんなら、2歳しか変わらない私も、おばさんって事…?
私も参戦してあげようかしら。
「クリス君って言うんだっけ?
まさかと思うけど、私の聞き間違いだよね?まだ20歳のターニャに向おばさん何て言って無いよね?そうだよね?」
「言いましたよ。それがどうしたんですか?
あぁ、ティティナさんは例え何歳だろうと、美しいのでおばさんなどには絶対になりませんので、安心して下さい。」
ニッコリと笑って何を言ってるんだ、こいつは。
ヤバイ。。。
ターニャの額に青筋が!何でこの子はターニャを刺激するのよ。ターニャの戦闘力知らないの!?
ターニャがブチ切れても、私だったら素手で抑えられるけど、普通だったらトラウマ物なんだけど。
まぁ、この子の失言での自業自得だから、助けに入るのはちょっと遠慮したい。
私は世の中の女性を敵には回したくは無いからね。それに、私もイラっとしてるし。
ちょっとだけイラっとしていると、深いため息が聞こえた。
「クリス。貴方はすぐに自分の業務に戻りなさい。表での仕事にはまだまだ使えそうにありませんね。」
さっきまで清楚系だった受付嬢の子――そう言えば名前を聞いて無かったな。後でターニャにでも教えてもらおう――が無表情で冷徹な眼差しをクリスに向け、襟首をつかんでズルズルと引きずりながら奥へと向かって行った。
「皆さま、お恥ずかしい所をお見せしてしまい、また、ご迷惑をお掛けしてしてしまい申し訳ありません。」
受付嬢の子の突然の変わり身と行動に呆然としていたら、ターニャがギルド中に聞こえる声を出し頭を下げていた。
どうやら、結構な見世物になっていた様だ。
あちこちから
「俺、アリスちゃんのファンだったのに」
とか、
「アリスちゃんのあの氷のような眼差しで蔑まれたい」
とか、
「アリスのあの冷たい瞳を屈服させてやりたい。」
とか、
「ターニャ様もアリス様も、ステキ♡」
とかと囁かれていた。
最後の‘ターニャ様もアリス様も、ステキ♡’は主に、ギルド職員の10代の子達から囁かれていたが…。気にしない事にしよう。
ターニャが頭を上げると周囲の囁き声も鳴りを潜めた為、私はターニャに促されて書庫に向かった。
書庫の中に入ると、ターニャはかなり荒れた。
それはもう、聞くに堪えない言葉のオンパレード。止めに入るのも、話掛けるのも少し落ち着くまでやめよう。火に油は注ぎたくないし、矛先をこちらに向かわせたくない。愚痴を延々と聞き続けるのは苦痛だからね。
さて、私は私の目的をしますか。
荒れているターニャを横目に、目的の本があるかを探す。
薬草、毒草、魔物図鑑…。
おっ、魔物図鑑発見…駄目だ。情報が古すぎる。
こっちに薬草・毒草図鑑が有ったけど、形が似た薬草と毒草の特徴が逆だよ、逆。これじゃ助かる者も助からない。
どうしよう。ここの書庫の本は当てにならない。
何で、ダンジョンがある街の冒険者ギルドの書庫の本がこんな状態なのよ。ど田舎の冒険者ギルドだったら分からなくもないけど。
「ターニャ、ここの書庫の本の内容って見直してないの?」
「え?担当者がしてるはずだけど、何か問題があった?」
「……。これ見て。」
さっき手に取った、魔物図鑑や薬草・毒草の図鑑をターニャに渡した。
中を確認していたターニャの顔が見る見るうちに般若の顔に……。本を『バンッ』と閉じて勢いよく扉を開き、
「ティナ、ちょっと担当者を締めに行って来るわ。」
「ちょっと待って。明日の打ち合わせをしたいん、だけど…。」
ターニャが烈風の如く走り去った為に、呼びかけは尻すぼみになってしまった。
仕方ない。書庫の鍵はターニャが持って行っちゃったから、戻って来るまでここで待つことにしよう。すぐに戻っては来ないだろうな。締めに行くって言ってたし。
暇だな。何してようかな。
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