31話
アズラさんがギルドマスター室の扉をノックすると中から誰何の声が掛かった。
「ティアラさんをお連れ致しました。」
「お待ちしておりました。どうぞ中へお入り下さい。」
イルファンさんが扉を開けながら中へ招き入れてくれた。
中に入ると、ギルドマスターが執務机から応接ソファーへと移動をしている所だったので、私も応接ソファーの方へ移動をした。
「立ち話をする内容ではないので、どうぞお座り下さい。
イルファンは紅茶の用意をお願いします。」
私はギルドマスターが座ったソファーの向かいの席に座った。
ちなみに、アズラさんはギルドマスターの隣の席に座っている。
席に座るとほぼ同時に紅茶が目の前のテーブルに置かれたが、イルファンさんが紅茶を用意する様に言われたのって今さっきなんだけど…。
きっと優秀過ぎる執事――この場合は秘書かな?――なんだなきっと。紅茶を用意する素振りも無く、紅茶が出て来るなんて暗殺者の持つスキルの『暗器』じゃなくて、商人が稀に持っているスキルの『収納倉庫』だよね。
考えたら負けだ。商業ギルドの職員だから商人の筈。どれだけ暗殺者の気配があろうとも。
そんな事を考えている素振りも見せずに、紅茶を一口啜る。
だって、ギルドマスターもアズラさんも平然としているんだから。
それに気にした所で意味ないでしょ。殺気を私に向け無い限りは。
私の胸の内の葛藤を知ってか知らずか、ギルドマスターは一度頷き、アズラさんへ金額の提示をする様に指示をした。
「それでは、昨日持ち込みを頂きました鉱石類の査定結果がこちらになります。
こちらの金額で売却頂けるようでしたら、契約締結の為のサインをお願い致します。」
アズラさんから2枚の契約書を渡された。2枚とも同じ内容が書かれているから、商業ギルドと私用のそれぞれの控えになるのだろう。
鉱石のそれぞれの金額は、ミスリル鉱石(3㎏)が銀貨8枚、金鉱石(3㎏)が銀貨5枚、銀鉱石(50㎏)が銀貨3枚、銅鉱石(50㎏)が銀貨2枚、鉄鉱石(100㎏)が銀貨2枚になっていた。
ここ最近の王都での買取価格と大差がないので、相場通りといった所になる。
別にお金に困ってないし、相場通りなのだからこちらとしては問題ない金額だったので、契約書2枚共に署名をする。
この後、ギルドマスターに鍛冶師のティナである事を伝える為、ティアラで署名するか本名のティナで署名をするか一瞬悩んだが、採掘士としてはティアラなのだからと、ティアラの名前で署名をした。
署名した契約書を2枚ともアズラさんに一度渡し確認をして貰う。
アズラさんがギルドマスターの方に顔を向け頷くと、ギルドマスターがイルファンさんにお金を用意する様に頼んだ。
一度イルファンさんが隣室へと入って行き、すぐに装飾が施された革袋をトレイに乗せた状態で戻っときた。
あれがきっと、今回のお金が入っている物なんだろうけど…、なんというか豪華すぎないだろうか?
王都であれより多くの鉱石を納入してた時でも、ただの麻袋で支払されていたんだけど。
この為だけに、ギルドマスター室に呼んだことも含めて何かあるんだろうか。
「お聞きされたい事もあるでしょうが、まずは納入する金額に間違いが無いか確認をお願い致します。」
怪訝に思って、一瞬眉を顰めたのを見られていた様だ。流石に商業ギルドのギルドマスターだけあって、こちらの観察に余念がない。
普段は鍛冶職人、時々冒険者の私じゃ顔色を読まれるのも当たり前かな。
目の前に置かれた、豪華な革袋の中を確認しながら、アズラさんから返却された私用の契約書の控えと、中身の相違が無いか確認をしていく。
こういう確認はしっかりしておかないと、今後どんな窮状に陥るか分からないからね。
「確かに、仔細通りです。それで…。」
「何故、この為だけにギルドマスター室で行う必要があったかですね?」
「えぇ、その通りです。」
「それはこれからお話し致しますが、その前にアズラは持ち場に戻って下さい。」
「そうですね。特に納入価格での疑問点も内容ですので私はこれで失礼致します。
また、鉱石類の持ち込みがありましたら、買取受付で私をお呼び下さい。」
アズラさんはそう言うと、ソファーから立ち上がり一礼をしてからギルドマスター室から出て行った。
完全に扉が閉まってから、優に1分以上経ってからギルドマスターから話が再開された。
盗み聞きを警戒していたのかな?
「ティアラさんがAランク冒険者のティティナさんだと見込んでの依頼が有ります。」
何処でバレたんだろう?ティアラでいる時はちゃんと魔法で色を変えて変装してたのに。
「何故知られたのかと言う顔をしていますね。
少し情報を集めて、多角的に検討した結果ですが、最後はカマを掛けただけなので、顔色に出したり、一瞬だけでも考え込むと確信が得られますよ。
っと、その事で何か脅す事をする訳ではありませんので、そのナイフに触れている手を放して頂けないでしょうか?」
「でしたら、イルファンさんから先に武器を納めて頂けませんか?」
ギルドマスターのカマ掛け発言で、腰に装着していた投げナイフに思わず手が伸びてしまった。しかし、手が完全にナイフに触れた瞬間に、ギルドマスターの後ろに立っていたイルファンさんが、私の後ろに立ってふっとい針の武器を構えていた。あと1秒もあれば私の首筋にその針を突き付けていただろう。まぁ、私も反応して弾く事は可能だろうけど、確実に私よりも実力者だと言う事が分かる。
やっぱり、本職は一流の暗殺者なのだろう。そんな人が何故こんな所でこんな事をしているのかは甚だ疑問だけども。
イルファンさんが武器をしまったので、私もナイフから手を放す。
「やはり、Aランク冒険者の実力は伊達ではありませんね。このイルファンがっと、いえ、その事は今は関係ありませんでしたね。失礼いたしました。
本題に戻らさせて頂きます。
私が貴女に依頼したいことは、王都に行ってもらって人探しをして貰いたいのです。
貴女と同じドワーフ族の鍛冶師でガゼルさんとティナさんと言う一流の鍛冶師のお二人です。
王都での鍛冶師狩りの事は知っているでしょうか?」
「……。えっとはい、知っています。」
何で、ギルドマスターが私とお祖父ちゃんを探してるの?
「その鍛冶師狩りで、今言ったお二人が働いていた鍛冶屋も被害に遭ったのですが、というより一番最後の被害のお店なのですが、そのお二人は未だに行方不明になっている状態でして。
何としてでも、お二人の安全を守りたいのです。」
「…何故、見ず知らずの鍛冶師をAランクの冒険者を雇ってまで安全を確保したいのですか?」
ギルドマスターの答え次第によっては、イルファンさんと戦闘になろうともこの場から、いや、この街から去らなければ。
私がイルファンさんと戦う事を想定して、瞬時にシミュレーションしていると予想外の事を言われた。
「…元王族として、現在の王族の振る舞いの被害者を助けたいが為です。」
「は?え…王族?
ギルドマスターがですか?」
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