30話
リリちゃんに注文をした後に、窓際の日差しが当たる席に座ってハンバーガーを食べている洸ちゃんの向かいの席に、テーブルに鍵を置いて座った。
「数日前までハンバーガーなんて珍しいものじゃ無かったのに、それを注文したんだ?」
「珍しくなくても、この世界じゃいつ食べられるか分からないだろ?
昨日の依頼で、街中の一部で使いっぱしりしたけど、ハンバーガー屋なんて見かけなかったし。」
「確かに珍しいだろうね。
この世界に生を受けて18年間で初めて出会ったぐらいだから。」
「まじか!?
頼んで良かった。」
「それよりも、今日の予定はどうするの?」
「街中の依頼を幾つか受けるつもりだ。」
「良かった。
無謀に魔物の討伐依頼や薬草の採取を受ける訳じゃなくて。」
「今まで魔物と戦った事も無ければ、薬草の知識も無いもんでね。
ターニャさんが、街中の依頼が消化されないってぼやいてたからな。
そう言うティナの予定は?」
「ダンジョンがある街だと、良くあることだからね。
私の予定は、商業ギルドに行くことかな。」
「…そっか。」
何だか、ちょっと意気消沈気味だけど大丈夫だろうか?
声を掛けようとした時に、丁度ハンバーガーが配膳された。
「俺、食べ終わったから部屋に戻って着替えたら、冒険者ギルドに行って依頼を受けて来るわ。」
タイミングを逃して、何で意気消沈したのか聞けなかった。それよりもあの事を伝えておかないと。
「洸ちゃん、明日から3日毎にギルドから新人に向けた特別依頼が出るから、それは必ず受けてね。
これからの洸ちゃんに必要な事だから。」
「分かった。
その分今日はしっかりと稼がないとな!」
洸ちゃんは、ちょっとだけ元気を取り戻した様な、空元気な様な雰囲気でニッカリと笑って食堂を後にする。
うーん、ちょっと心配だな。
商業ギルドでの物件の見学と鉱石の代金の納入が終わったら、冒険者ギルドに顔を出して様子を伺おうかな。
「ティナさん、これお預かりしたのでお渡ししますね。」
「ありがとう。それと、ご馳走様。」
私がハンバーガーを食べ終わったタイミングで、リリちゃんが部屋の鍵を届けてくれた。
洸ちゃんは鍵をリリちゃんに渡して、既に冒険者ギルドへと向かった様だ。
さて、本来なら朝食後に洸ちゃんの鍛練をする予定だったから、時間が空いてしまったよ。
商業ギルドで待ち合わせの朝3の鐘までの1刻半何しようかな。
取り敢えず、洗濯はしておかないとだな。
洗濯が終わった後は、街に出かけて本屋を探して歩いた。
本屋は有ったけど、明日からの資料にする為の薬草や毒草、魔物図鑑の様な物はなかった。
後で、冒険者ギルドの書庫にあるか調べておこう。もしなければ、紙に書き記さないと…面倒だな。
少し憂鬱になりながらも、全く収穫が無かった訳じゃないから良しとしよう。
洸ちゃんに今後必要な、水魔法の生活・初級編の魔法書が有ったんだし。
魔法書というのは、魔法の呪文と効果が載っている本の事になる。
洸ちゃんには本来、アークが居るから魔法の呪文が無くても魔法が使えるけど、周りからしたら呪文を言っていないのは不振に思われるし、基礎中の基礎である生活魔法と魔法が使える人の8割が覚えている初級魔法の呪文を1つも知らないのは、身を危険に晒す事になりかねないからね。
精霊の存在は一応認知されてるし、精霊魔法を使う人間は珍しいから、違法な奴隷商や盗賊、果ては貴族に狙われる要因になりかねないし。
私の場合は、無知だった子供の頃にその筋の人々を全て返り討ちにした事で有名になって、狙われる事がなくなったし、襲撃がなくなった後は、効果が近い呪文をちゃんと口パクをする事を覚えたしね。
さて、そろそろ朝3の鐘が鳴る時間になるから、商業ギルドへと行こうかな。
「おはようございます。早速、昨日お話しさせていただいた物件へとご案内させて頂いても宜しいでしょうか?
何かその前にご用事があるようであれば、こちらで待たせて頂きますが。」
朝3の鐘が鳴る前に商業ギルドに着いたけど、既に賃貸の担当職員が商業ギルドの前でスタンバイして待っていた。
「おはようございます。
いえ、このまま物件へ向かって構いません。」
「畏まりました。ではこちらの方向になります。
本来であれば、馬車をご用意させて頂く所なのですが、途中から馬車では通れない道になってしまいますので、ご容赦下さい。」
「わかりました。」
商業ギルドを出発して、既に1刻程歩いたけど、件の物件にはまだ着かない。
どれだけ郊外にあるんだろう。
それと、ラビリンの街ってこんなに広かったのかと驚きを隠せない。
「あと、少しで到着しますので足元に置きお付け下さい。」
「ご忠告ありがとうございます。」
物件へと向かう道は既に街中とは思えない道になっている。
確かにこんな草がボウボウ生えて、道もデコボコ。おまけに道の真ん中に小さ目の木なんかも育っていた。
前を歩く商業ギルドの職員のバルドさんは鉈で草を掻き分けて進んでいる。
来る途中での会話で、この物件に1月に1度の割合で点検に来ていると言っていたから、鉈が必需品で装備していた様だけど、初めに鉈を抜いた瞬間は流石にビックリさせられた。
さらに四半刻歩いて、漸く件の物件に辿り着いた。
うわぁーーーーー。
これは人が住める物件なの?すでに半壊している様だけど…。
真夏の夜にここを訪れたら、アンテッド系の魔物がでそうだよ。つまりはお化け屋敷さながら。
「ここまで来て何ですが、流石にこの物件を借りる事は出来ませんね。」
「やはり、中を見るまでも無くそうなりますよね。
そうなるだろうなと思っていたので、昨日話していたもう一つの物件を見に行かれますか?」
バルドさんは苦笑いしながら、提案をしてくれた。
「いえ、今日は遠慮しておきます。
明後日で都合が付けば、今日と同じ様に朝3の鐘頃に待ち合わせをして伺いたいのですが。」
これから、街中まで戻ると昼2の鐘と昼3の鐘の間の時間になる。
更に物件を見に行って、その後に鉱石の買い取り分のお金を納入されていると更に遅くなる。
洸ちゃんの様子も確認したいのはあるけど、それ以外でも、明日の訓練指導の為に冒険者ギルドにも顔を出したいから、今日は物件を決めるのを諦めよう。
「明後日の朝3の鐘ですね。畏まりました。
その時間にお待ちしております。」
帰り道も特にハプニングが起こる事なく、行きで歩く道上の草を掻き分けていいたお掛けで、1刻と少しで戻って来る事が出来た。
バルドさんとは、商業ギルドの入口で分かれ、私は買取窓口に向かった。
昨日のルイと呼ばれていた買取窓口の担当者は、私を視界に入れると小さく‘ひぃっ’と息を吸い込むと、奥へと走って行った。
ちょっとイラっとしてしまう。私は別に化け物ではないのだけど。
ルイが奥へ行って直ぐに、商業ギルドには似合わない、どちらかというと冒険者ギルドに居そうな雰囲気の厳ついおじさんが出て来た。
「貴女がティアラさんでしょうか?
買取部門で鉱石・宝石類の鑑定をしているアズラと申します。
昨日は、窓口の担当者が大変失礼を致しました。あの者は厳重に処しますのでご容赦下さい。」
「あ、はい。分かりました。」
もしかして、さっき息を吸い込んだのは、厳重に処されたせいなのだろうか?
「では、お支払いなのですが、大変お手数をお掛けしますがギルドマスター室で行いたいと思いますので、ご随行お願い申し上げます。」
私は頷き、アズラさんの後を着いてギルドマスター室へ向かった。
お読み頂きありがとうございます。




