3話
森を魔物や盗賊の気配が無いか確認しながら速足で進んで行く。
ダンジョン内にある鉱床で採掘してきた鉱石で今回の依頼分の以外の剣をどれくらい作れるか考えるが、そこまで多い量は作れそうにない。もっと採掘出来ればよかったけど、依頼分の剣を鍛えるのに時間が足りなくなってしまうし、他にも鉱石を採掘している人たちがいて、多く取る事が出来なかったんだよね。
あんな採掘の仕方じゃ、鉱石が傷ついて使い物にならないだろうけど。
それにしても、ダンジョン内の鉱床は、今までだったら他の人に邪魔される事なく私専用の鉱床――わざわざそこで採掘する人がいなかっただけ――だったのに、魔王が復活した今、武器の生産ラッシュが続いていて、鉱石があちこちで不足している為に、ダンジョンに潜った冒険者が自分用の武器を作る為に持ち帰っている。
私は冒険者としても活動をしていたから、単独でダンジョンに潜って採掘してくることが出来る。その為、親方…お祖父ちゃんの跡を継いだ父さんの命令により、王都とダンジョンを行き来して採掘ばかりを行っている。わたし鍛冶師なんだけど…。
まぁ私の頑張りのお蔭でうちは質の良い鉱石が手に入り、依頼された剣を鍛える事が出来ているのは事実だけどね。
他の工房だと鉱石が手に入らない、手に入っても質が悪い、その為にまともに武器が作れない、お客が離れて最終的に工房が潰れる。の悪循環にはまっている所が多い。
それを思えば、職人達を路頭に迷わせない為に、私がせっせと採掘しないといけないんだけど、このままだと鍛冶師としての腕が鈍るよね?
一応鍛冶師のLvは36で、鍛冶師としても一流の部類に入るから、工房でも戦力になる筈なんだけど、戻ったらまたダンジョンに戻されるんだよね。
少しぐらい滞在して、剣の1,2本鍛えても良いと思う。
愚痴をブツブツと小声でつぶやいて歩いている。周りに誰かいたら、確実にやばい人認定されそうだけど。
ちょうどどこかへ向かっていた魔物のロックウルフが私の気配を察知した様で、こちらに進行方向を変えて襲って来た。
腰に剣を佩いているし、それなりに剣も使えるが、このロックウルフは岩で体が出来ているので、剣だと刃こぼれをしてしまうので、私の一番得意な武器でもある槌を構えて飛び込んでくるロックウルフにタイミングに合わせて、打ち付ける。
頭にかなりの重さのある槌の攻撃を食らったロックウルフは、一発食らっただけで動く事が出来なくなった。
ロックウルフは魔石ぐらいしか、素材になるものが無いんだよね。個体によっては、体の一部が鉱石化していて素材になるものもいるけど、今倒した個体は、鑑定してもそんな部分は無いから解体するのは手間だな。
もうすぐ王都に着く距離だから、これを担いで戻るのも有りだけど、冒険者ギルドに寄るのは時間の無駄だな。
「ラン、これ魔石以外の部分を土に還してもらっていい?」
『ティナ、分かった』
ロックウルフは死んだらただの岩なので、土の精霊のランの手にかかればすぐに土に還せるからラッキーだったな。魔石を取っておかないとアンテッド化するし、魔石を抜いていても稀にアンテッド化するから処理はしっかりとしておかないとね。
それにしてもこのロックウルフはどこに向かっていたんだろ?
向かっていた方向は街道沿いじゃないし、この辺はロックウルフと出くわす地域じゃ無い筈だけど…。
『あっちから、濃い血の臭気が漂ってる―』
『ほんとだ。ティナの気配察知の範囲外に瀕死の異世界人がいる』
『異世界人…?』
『この世界以外で産まれた人だよ』
『ティナ、急がないと死んじゃうよ。それにその人の側に水の精霊がいる』
『精霊に好かれるタイプの人なの?急いで助けた方が良いね。
レイム、ラン案内お願い』
『『任せて(―)』』
レイムとランに案内されて、森を進んで行くと血の臭気を感じる様になってきたし、それに惹かれる様に魔物が多数集まって来ている。
少しスピードをあげないと、魔物に喰い散らかされた死体を見るはめになりそうだな。
私の思いが伝わったのか、レイムとランのスピードが上がった。
私もついて行くのにスピードを上げながら、集まって来ている魔物を槌や土魔法で撃退していく。
少し森が開けた場所に出ると、生きているのかと問いたくなるような状態の少年の姿が目に入った。
少年の周りに1体の水の精霊が、襲ってくる魔物から少年を守る様に魔法を使っている。
どれくらいその状態をしていたのか分からないけど、水精霊の水魔法の威力が大分落ちてしまっていて、今にも少年にとびかかられそうになっている。
『レイム、ラン!』
それだけで、私の精霊たちは私の言いたい事を理解して、少年の周りに土の壁をその周りに炎の壁を展開して、魔物が近寄れなくした。
『流石だよ、2人も』
『えへへ―』
『当然だよ』
取り敢えず、これで子の少年の治療をする場所と時間的余裕を手に入れられた。
あとは、手持ちのポーションと軟膏とかで回復するのを祈るしかないな。
『水の精霊さん、彼を手当てしたいから近づいても良い?』
『助かる?』
『分からないけど、最善を尽くすよ。貴方もこれを食べて魔力を回復して。そうじゃないと貴方も消滅してしまう。』
『ありがと。』
念話をしながら少年に近づき、手持ちの中級のポーション2本を残して振りかける。
その次に今度は下級のポーションをありったけ掛けると、全身にあった剣や槍で切られたり刺されたりしてついていた傷が癒えていく。
取り敢えず出血死はこれでふせげるね。内臓とかのダメージが心配だけど。
少年の傍らにしゃがみ込み、心臓の音と呼吸を確認する。良かったまだ生きてる。
気付け薬を飲んで起きてもらいたいから、口に含ませてみよう。
その時になって彼の顔をまじまじと見たけど、まさか!?そんな…。
私の動揺は取り敢えず置いておいて、ちゃんと気付け薬を口に含ませよう。大丈夫、ダイジョウブ…。
どうしよう…。残してある中級のポーションを飲んでもらいたいんだけど、気付け薬を口に含ませても起きないね。
…はぁ、これも人命救助だから仕方ない。
自分で気付け薬を含み、少年の体を起こして口移しで気付け薬を飲ませていく。
これは医療行為。決してファーストキスではない。ないったらない!
自分の口に含んだ分を飲ませ切ったので、一度唇を放し少年の状態を確認する。
どうしよう。まだ目覚めないよ。
この気付け薬は強烈なので、一口飲めばどんな状態でも目覚めるってのが売りの筈なのに。
口移しした私の方がダメージ大きいわ。
もしかしたら、内臓が破裂とかしているかも知れない。
ここまで来たら、口移しで中級のポーションを飲ませちゃおう。これはキスじゃない…。
ポーションを口に含みあと少しで唇をくっつける所で、少年が呻きながら目を開いた。
ちょっ、今かよ!?今起きるの!!?
これじゃ私が襲ったみたいで痴女じゃない!恥ずかしいー。穴があったら入りたい…。
『ティナ、穴ほる?』
『…大丈夫。』
「うぐっ、こ、こは…君だれ?
っ!あいつらはどこだ!?うっ…。」
「落ち着いて、これ飲んで。中級のポーション。それ飲んでも体内で痛い所があれば教えて。追加でもう一本あげるから。」
「でも俺、金持ってない。タダで助けてもらう訳にはいかないし。」
「タダより高い物は無いって?
私も普通だったら助けなかったよ。でも貴方を助けようとしていた精霊が居たからね。
ドワーフ族は精霊の加護がある一族だから、精霊を助けるのは当然の事だから。
それに異世界人である君がこんな所で人間に殺され掛けてたところを見ると、何か事情があるんでしょ?」
口に含んでた分は、話すためにのみ込んだ。もったいないけど、疲労回復したと思えばいいや。
そう言って、ポーションを飲むように勧めると、少年の顔は驚愕の色で染まっていた。
あれ?なんか変な事言ったかな?
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