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勇者の鍛冶師  作者: 芝 恵実
第1章
29/49

29話

「それじゃあ、剣の鍛練を始めようか。

まずは、その剣で剣道の構えをして貰っていい?私、剣道の事は殆ど知らないから。」


洸ちゃんは頷き、私から2m程離れた所で足を拳1つ分空け、左足を若干後ろに引き右足の踵のあたりに爪先がくる形で立った。

そして、肘を軽く曲げ、胸の前に剣を構える。これは私でも知っている中段の構えだ。

まず、ここまでの洸ちゃんの構えで私が思った事は、足ってそんなに開かないんだって事だ。

予想していなかった足の開き具合だけど、剣の重さとかは大丈夫かな。


「洸ちゃん、正直に答えて欲しいんだけど、その構え方だとその剣でも使い難くない?」


少し考えた後、数回剣を素振りをしてから難しい顔をした。


「少し、と言うか、かなり重く感じる。

ただ俺自身、竹刀を何年も持ってなかったし、剣道もブランクがあるからな。

それに、まともな運動もしてなかったから何とも言えないかな。

だから今日は、ティナに稽古をつけてもらわないで、剣道の構えとか、素振り・足捌きを体を動かしてしっかりと思い出そうと思う。」

「分かった。私も自分の鍛練をする事にするよ。何か疑問に思った事とかがあれば聞いてね。

まぁ、この世界の剣の型は知ってても、剣道の型は知らないから役に立たないかもしれないけどね。」


私は洸ちゃんからさらに離れ、槌を持ち構える。

槌が終われば剣を。剣が終わればナイフを。ナイフが終われば槍を。槍が終われば盾を。

いつもの様に、スキルにある武器で鍛練をする。

そして武器が終われば体捌きや体術を。

自分の鍛練の合間に洸ちゃんの方を確認をしたけど、時々考えている様子が見られた。

何度か声を掛けようかとも思ったけど、ここは我慢をするべきかな。

何でもかんでも教えてたら、思考する事が出来なくなるし。重要な場面こそ、思考能力が大切になってくるからね。


=ゴーーン=


洸ちゃんの方でも一区切りがついた頃合いを見計らった様に、朝1の鐘が鳴り響いた。


「区切りも良いみたいだし、汗を拭いたら朝ごはんにしよっか。」

「そうだな。俺、腹減って死にそう。」


そう言うと、洸ちゃんは井戸まで行き、そして、豪快に井戸の水を頭から被った。

気持ちよさそうだけど、そのままだと部屋に行けないからね。


「洸ちゃん、手ぬぐい持ってきてるの?

そのまま部屋に行くと水浸しになるけど。」

「はっ!?しまった!!」

「取り敢えず、パン一になって、シャツとズボンの水を思いっきり絞るしかないけど…、私が絞るのやった方がよさそうだね。」


私に言われるまま、シャツとズボン、それにブーツと靴下まで脱いでパンツ一丁になり一生懸命にシャツを絞っているけど、力が全然足りていない。絞っても水が滴ったままだった。

うん、シャツと言っても日本みたいに薄い生地じゃないから、仕方無いよね。たぶん…。

洸ちゃんからシャツとズボン、靴下を受け取り絞ると、ドバドバと水が出てくる。

ドワーフだし、鍛冶師だし力は強いのは仕方ないから、そんな遠い目をしないで欲しい。


「洸ちゃん、私も女の子なんだから、‘怪力が居た!’みたいな目線は流石に傷つくよ…。」

「えっ、ゴメン。そんなつもりじゃなかったんだ。

俺の力は女の子にも劣るもんなのかと、現実逃避してただけなんだ。こんなんで、冒険者やって行けるのかと…。」

「今すぐには無理だろうけど、努力が形になって現れる日が必ず来るから、それを信じて頑張るしかないよ。

はいこれ。取り敢えず一回これ着て、部屋に戻ろうか。

私は汗ふいてから戻るから、先に戻って着替えてた方がいいよ。」

「それもそうだな。腹減ったし。」


ブーツだけを脱いだ状態で部屋に戻る洸ちゃんを尻目に、私は用意していた手ぬぐいに水を浸して汗を拭き取る。

野外である中庭で拭き取れる範囲が少ないので、もう2枚ほど水をしっかりと含ませた手ぬぐいを用意して部屋に戻る。


「ティナ、どうしよう。着替える服が無い。」


そう言えば、昨日の夜は洗濯をしないで寝ちゃったからな。

洸ちゃん用に服を用意してたし、お酒を飲んで面倒くさくなってたのもあったからな。

私は、自分の荷物に近づき、洸ちゃんに用意した服が入った麻袋を差し出す。


「良かったら、これ使って。この分の代金は借金にプラスしておくから。

本当はプレゼントにしようと思ってたけど、それじゃ納得しないでしょ?」


洸ちゃんは頷き、麻袋の中身を取り出し


「それぞれの金額を教えて欲しい。」

「まず、普通のシャツが小銀貨5枚で、小洒落たシャツが2着で銀貨1枚と小銀貨4枚、ズボンは3着で銀貨1枚と小銀貨5枚、靴下5足と下着3着で小銀貨8枚。

合計で銀貨4枚と小銀貨2枚だね。」

「…こ小洒落た服を2セット…いや、1セット分だけ減らそう。」


値段を聞いてから、何やらブツブツと呟いていたけど、意を決したように顔を上げて小洒落たシャツ1枚とズボン1枚と靴下2枚を手に取った。


「この分は申し訳ないけど、返す。えっとこの分を引いた金額は…。」

「銀貨1枚と小銀貨4枚分だから、合計は銀貨2枚と小銀貨8枚だね。」


洸ちゃんの計算を引き継いで、答えを教える。

あ、これも直ぐに答えないで考えさせた方がいいのかも。この世界のお金に慣れてもらう為にも。

次からはもっと答えるのを我慢しないと。


「俺の借金のトータルがこれで銀貨4枚と小銀貨8枚、か。」

「利子は取らないから、無理に一気に返そうとしなくて大丈夫だからね。

無理しようとして、無謀な依頼を受ける必要は無いんだから。命あっての物種だから、そこんところは忘れない様にね。」

「あぁ、命大事だからな。

さて、いい加減朝飯食いに行こうぜ。」


お金の事で頭がいっぱいで、着替える事を忘れちゃったみたいだね。


「私は着替えてから行くから、お先にどうぞ。」

「あ、俺も着替えたいけど…。俺は朝飯食ってからにするわ。」


気を使わせちゃったかな?早めに1人部屋になれるようにしないと色々大変だな。

その為にも、借りる家が良い家だといいんだけどな。


体をしっかりと拭き、服に着替える。

服装をどうするか悩んで、今日は冒険者スタイルにする。見に行く家がどの程度汚いか分からないから、汚れても気にならない服にしないとね。

流石に女物の服を簡単に汚したくないし。商業ギルドのギルドマスターにあったら服装の事を何ていうかは悩みどころだけど、鍛冶師の事を打ち明けるのだから男装していてもそれほど変に思われないでしょ。


さて、私もお腹がペコペコだし朝ごはんを食べに行こう。と、その前にもう一つだけする事があったんだった。


『レイム、洸ちゃんのブーツなるべく早く乾く様にしてもらっていい?』

『わかったよー。』


今度こそ朝ごはん食べに行こう。今日の朝ごはんは何かな~?


1階の食堂に着くと、リリちゃんが出迎えてくれたの朝ごはんが何か早速聞く。


「おはようリリちゃん。

今日のメニューは何かな?」

「おはようございます、ティナさん。

今日のメニューはハンバーガーか麦粥からお選びいただけます。」

「…えっと、それじゃあハンバーガーでお願いね。」

「承りました。」


ハンバーガーって…。少し思ってたけど、この宿屋の人に転生者がいるでしょ。

今か過去かは別として。


お読み頂きありがとうございます。

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