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勇者の鍛冶師  作者: 芝 恵実
第1章
28/49

28話

いつもと同じ朝1の鐘の二刻前に起き、ストレッチや筋トレなどの鍛練を行い、中庭で走り込み等の鍛練をしようと部屋のドアを開けた所で、昨日の夕方からずっと寝ていた洸ちゃんが起きた。


「う~ん…、おは…よう?」

「おはよ。まだ、朝日が昇ってないから夜中だけど。」

「ぅえ!?

ティナはこれから寝る所?」

「違うよ。これから中庭で鍛練をしに行くところ。」

「…ティナは、ちょっとおかしいと思う。

俺も、かなり寝たから一緒に鍛練するよ。」

「じゃあ、まず昨日と一緒で部屋でストレッチとか筋トレからだね。

昨日教えたから、それは一人で出来るよね?先に中庭に行って走ってるから。」

「おぉう。」


一度閉めたドアを再度開いて、洸ちゃんに笑顔で告げると顔を引き攣らせながら返事が返って来たので、そのまま中庭に行って走り込みをする。

走り込みを終える少し前に洸ちゃんが中庭に現れて、愕然とした表情をしている。一体どうしたんだろう?


「もう少しで走り込み終わるから、ちょっと待ってて。」

「え!?あのスピードで走ってるのに息切れしないで普通に喋るってどうゆう事!!?

あの後からずっと走ってるんだよな!?

ティナって化け物?」

「ほぅほぅほぅ。どうやら今日の鍛練は厳しいのがお好みと言う事だね!

ではご期待に応えて、一緒に走ってもらおうかな。」

「ひぎゃーーーー。」


失礼な事を言いだしたので、洸ちゃんの傍を走り抜けるときに手を掴んで強制的に走らせる。

ちゃんと洸ちゃんの事を考えてスピードは落としたというのに、死にそうな顔と声を出して引きずられるようにして走り始めた。

確かに、昨日の洸ちゃんのペースの1.5倍ぐらいのスピードにはなっているけども…。さっきまでの私が出してたスピードからしたらずっと遅いのだから、そんな顔をしなくてもと思ってしまう。

それに、ちょっとずつスピードを落としているんだから、それも気が付いてもらいたいよね。


「まだ夜中なんだから、叫ばず静かに走ろうね。」


コクコクと頷きがかえってきた。


昨日と同じ半刻(1時間)程走り続けると、またしても洸ちゃんは倒れ込んだ。

まぁ、昨日の今日で体力が付く訳では無いから、倒れ込むのは致し方ないよね。

昨日もあった洸ちゃんとアークの水のぶっかけコントが終わり、洸ちゃんの息が落ち着き起き上がったので、剣のスタイルをどうするのか確認をしよう。


「魔法の鍛練は、今日はひとまず置いておいて、今日は剣の鍛練をしようと思う。

昨日考えるように言ったスタイルは決まった?」

「考えたけど、剣道の型をベースにしたスタイルにしたい。

その方が、少しは覚えが早いだろ?」

「体がどこまで覚えてるかにもよるけど、そうだろうね。

そうすると、渡してる剣はそのスタイルに合わないから、別の剣にした方が良いね。

ちょっと待ってて。部屋から取って来るから。」


洸ちゃんから部屋の鍵を渡してもらい、一度部屋に戻る。

昨日整理した時に見つけた、刀を鍛える為に作った試作品の剣のあの一振を渡そう。


見た目は刀ではなく片刃の細剣。

前世の記憶に刀の作り方なんて都合の良いものは無く、何かで読んで知っていた、柔らかい鉄と硬い鉄を組み合わせるという方法。

その組み合わせを作る為に色んな方法や合金を作り、作り慣れた剣の鍛え方で柔らかい鉄と硬い鉄を試行錯誤の末組み合わせ、やっと納得のいく剣になった一振りだ。

納得がいくまでに2年の年月を費やした愛着のある剣で、その後作った同型の剣は工房で売ったけど、これだけは売れなかったし、お祖父ちゃんも父さんも売らずに持っておけと言っていたので、持っていた剣。

ただ、私の剣のスタイルに合わないが為に、死蔵させてしまっていた剣でもある。

これで、やっとこの剣も日の目を見れる。


剣を取って来て中庭の扉を出る前に、剣を額に当てて剣に語り掛ける。


『今までゴメンね。そして、これからは洸ちゃんの為に力になってあげて。』


当然、剣からは何も返答はない。

自分の行動に、内心苦笑いをしながら中庭に出て洸ちゃんに剣を渡す。


「形は刀じゃ無いんだな。

でも、渡されていた剣よりも持ち手がしっくりくる気がする。

ありがとう、ティナ。大事に使わせてもらうよ。何時か、これの代金も支払うから。」

「この剣の代わりなんだから、お金は必要ないよ。

大体、その剣の値段知らないでしょ?

確か、今みたいに武器類が高騰する前の価格で、大銀貨3枚と銀貨4枚だったかな。」

「ぶっおっふぉーー!?

ティナ、ちょっとそこになおれ!

何でそんな高いモンを簡単に渡すんだ!!昨日の金の話の事を忘れたのか!!!

そんな高いモン、受け取れるかー!」

「いや、でも私が持ってても剣のスタイル的に死蔵させてて、この剣も可哀そうだし。」

「だったら、ちゃんと金を持ってて必要としている奴に売ればいいじゃないか。」

「この剣は、刀を作る試作品の中で初めて納得した出来の剣で愛着があるから、ただの客には売りたくなかったし。」

「それなら、ティナが納得できる人に売るべきだろ。」

「そう言う人の中で、スタイルが合う人が今まで居なかったんだよね。」

「これから現れるかもしれないじゃんか。」

「そうだね。現れたよね洸ちゃんが。」

「いや、俺以外で…。だったら、その金額が払える様になったら買わせてくれ。

それまでは、その剣を使う事にする。」


そう言って、私が洸ちゃんに渡した新しい剣の代わりに受け取った今までの剣を指さして宣言をした。

ちょっと黙ろうか、洸ちゃん。鍛冶師として、その発言はいただけない。


「死にたいの?

鍛冶師である私が、剣士のスタイルに合わない剣を使わせると思うの?

冒険者とか採掘士とかしてるけど、私の本業は鍛冶師だからね。その鍛冶師の誇りに掛けてこの剣は使わせないよ。

大体この剣は、私の予備の剣だよ?重量級の剣だよ?

その剣で、剣道の型がベースのスタイルが出来ると思ってるの?

そんな事して、未熟である洸ちゃんが死なないと思ってるの?

ここは現実なんだよ。洸ちゃんが好きなゲームの世界でも日本でもないんだよ。ずる賢くならないと、生きていけないよ。法律が弱者を守る事もしないんだよ。

弱肉強食の世界だから、力が無いなら、知恵で強くならないとすぐに死んじゃうよ?

忘れたの?第二王女のプラウディア様に殺され掛けたことを。」

「…そんな事言われなくても分かってる。

殺され掛けたのは、いや、殺されたのは俺自身なんだから。

でも、だからって簡単に今までの常識を覆せる訳じゃないし、それに……殆ど歳の変わらない女の子に施しばかりされるのは、男としてのプライドが傷つくんだ。」


洸ちゃんは彷徨わせていた目に力強い力を宿し、そして唇を強く噛みながら私の目を見つめた。


「………でも、俺はここであっさりとは死にたくはない。だから今は、俺のちっぽけなプライドを捨てて、この剣をもらう事にする。

ティナには返せない程の恩を貰ってるよ。」


きっと、ここまで流されていた状態から、自分の意思でどうにかする事を決意したのかもしれない。

だったら、私は洸ちゃんのその決意を無駄にしない様にしよう。


お読み頂きありがとうございます。

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