25話
冒険者ギルドの扉を潜ると、中に居た冒険者達の視線が向けられるがすぐに逸らされる。
いつもより集まる視線が少ないなと思ったが、私の恰好が冒険者には見えないからか。依頼でも出しに来たと思われたのだろう。
受付に目を向けると、ターニャが居なかったので休憩か別の所で仕事しているか。ターニャは優秀だから、何処の部門の仕事でもそつなくこなせて色んな所で引っ張りだこなんだよね。
もし休憩中だったら洸ちゃんを待つ間おしゃべりしたかったんだけどな。この街の情報を色々と教えて欲しかったし。
いないなら仕方ない。洸ちゃんが現れるまで簡易食堂でお茶でも飲みながら待つとしよう。
冒険者ギルドに限らず、どのギルドにも簡易食堂が併設されている。
食堂に簡易がついているのは、しっかりとした食事メニューがないからだ。前世日本人の感覚からすると、コーヒーショップに近い感じだけど。メニューがお茶数種類と簡単なサンドウィッチがあるのみだからね。
この簡易食堂は、各ギルドの簡単な商談スペースみたいなものだ。冒険者ギルドだと、朝食と冒険者達のパーティーを組む為の話が出来る場所になっているけど。
簡易食堂のカウンターでブランデーが入っている紅茶を注文する。
紅茶を飲む前に匂いを堪能すると、ブランデーの割合が普通より多くしてくれているみたい。まぁ、ドワーフは酒好きの蟒蛇だからね。紅茶に入っている程度じゃ酔っぱらう事も無いから、そうしてくれたんだろうけど、ありがたいわぁ。
未成年の洸ちゃんが居る手前、昨日もお酒飲まなかったしね。この世界の成人年齢は18歳からだから、私がお酒飲むのは余裕でOKなんだけど。目の前でお酒飲まれたら、洸ちゃんも飲みたくなっちゃうかもしれないし。まぁ、この世界は飲酒の年齢制限は掛かってないから、洸ちゃんが飲んでもいいかもしれないけど。
暫く紅茶を堪能していると、洸ちゃんの特別依頼が終わった様で簡易食堂にやって来た。
「ティナ、お待たせって、その紅茶酒くさっ。」
「ブランデー入りの紅茶だからね。」
「…この世界の飲酒の制限年齢って何歳から?」
「制限はないよ。でも大体は12~3歳ごろからみんな飲みだすね。
飲むか飲まないかは、洸ちゃんの良識次第じゃないかな?」
お酒が飲めるとなって目をキラキラさせた洸ちゃんだったけど、良識次第と言ったらすごく悩みだしてしまった。
洸ちゃんの両親は学校の先生をしていたから、礼儀とか常識に関しては厳しかったし、洸ちゃん自身もその辺真面目だから仕方ないのだけどね。
洸ちゃん自身がお酒の誘惑にどう決着をつけるかはさておいて、やっぱり、洸ちゃんの前ではお酒を飲むことは控えよう。と言っても、私も自分から飲むのは良い剣が鍛えられた時ぐらいだけどね。ドワーフ基準だから、5杯ぐらいは飲んだ事にされないだけだけど。
「それよりも、初依頼お疲れ様。」
「ひたすら雑用だったし、3刻も働きっぱなしだったから疲れたけど、それなりに楽しかったな。」
「あれ、それだとお昼食べてない?」
「腹ペコ。」
「そこのカウンターでサンドウィッチ注文できるから、注文して食べたら?」
「う~ん、朝もサンドウィッチ食べたから、俺としては異世界での定番の屋台の串焼きを食べてみたい。」
「残念だけど、この時間だと屋台は店じまいしてるよ。
観光地とか王都とかだったら別だけど、ここはそのどちらでもないからね。冒険者と商人の街だし。」
「冒険者は分かるけど、何で商人?」
「ダンジョンから産出される素材やお宝がまずこの街に集まるから、商人は少しでも安く仕入れる為にここまで来るからね。王都の隣で利便性もあるからだろうけど。」
「そういうもんなのか。そしたら、今日は串焼きを諦めてサンドウィッチを食べるか。
米が恋しいよ。」
洸ちゃんはそう言い残すと、簡易食堂のカウンターへ移動して一番安いサンドウィッチと水を注文した。
洸ちゃんがサンドウィッチを食べ終わると、昼3の鐘が鳴り響く音が聞こえた。
「…確か宿屋の夕飯って、昼3の鐘からだったよな?俺何であと少し我慢できなかったんだろ。」
「確かにね。そしたら、宿に行く前に湯屋に行こうか。そしたら、多少は諦めが付くでしょ?」
「ティナ、俺の今日の稼ぎは小銀貨5枚だ。いや、ギルドカードの発行料で小銀貨1枚使ってるから、小銀貨4枚の稼ぎだ。
湯屋は1回に付き銀貨1枚かかる贅沢だ。朝の鍛練の後にしっかりと体を拭いた後は汗を大量にかく事も無かったから、今日は体を拭くだけに留める。
まず、今ティナが立て替えてくれている金を清算しよう。」
「いいけど、ここでするのはあんまりよくないから、宿屋の部屋でしよう。それと私は街にいる間はお風呂にしっかりと入りたい派だから、洸ちゃんのそれに付き合う気はないから湯屋に行くけど、構わない?」
「う、勿論いいよ。」
尻すぼみになっているから、洸ちゃんも湯屋に行きたいのだろう。
でも洸ちゃんの性格上、一度言い出したら滅多なことが無い限り聞かないから、今日は本当に体を拭くだけで終わらせるんだろうな。
ちらほらとギルドに冒険者が戻り始めて混みだしたので、変なのに絡まれる前にここから退散しよう。
洸ちゃんを促して冒険者ギルドを後にし、宿屋へと戻る。
宿屋に着き、受付に居たリリちゃんから外出時に預けた鍵を受け取る。
鍵を渡す時のリリちゃんが笑顔で‘おかえりなさい’と言ってくれたので、元気がでるよ。可愛い女の子は世の宝だよ。
「ティナってキリッとした美人なのに、なんか残念感が漂ってるんだよな。」
「洸ちゃん何か言った?」
「ぃや、何でもない。」
私がリリちゃんに癒されてる間に、洸ちゃんが何かをボソッと言ったけど聞き取れなかった。きっと碌な事じゃ無い気がする。
部屋に入りお金の清算をする事になったけど、清算する分って何だったっけ?
それを洸ちゃんに言うと、呆れた顔をされた上にため息をつかれた。
「ティナ。お前は金をかなり持ってるから執着が無いのかもしれないけど、金の事はしっかりとしないと駄目だ。
この世界だって、金の事で諍いになって、人殺しとかはあるだろ?」
「無くはないね。けど、私も流石にお金を借りたら覚えてるからね?
今回貸した?お金を覚えてないだけだし、そもそも洸ちゃんが1人立ち出来るまでは、金銭も負担しようと思ってたっていうのもあるから覚えていないだけだから。」
「そうだとしてもだ。
まず、この宿屋の分の金で銀貨2枚。そんで、昨日の湯屋での銀貨1枚。それと、この街に入った時の入町税の銀貨1枚。占めて銀貨4枚だ。
くそっ、赤字だ!俺の現在の手持ちが銀貨3枚に小銀貨3枚、銅貨4枚だ。
本当に何でさっきのサンドウィッチを食ったんだ!?戻ってこい俺の銅貨4枚。」
あそこの一番安いサンドウィッチは銅貨3枚で水が1杯銅貨1枚。
「入町税は、別に貸したお金じゃないから別に――」
「謝礼金すら払えてないんだから、入町税だけでも絶対に払う。」
有無を言わせない感じで睨みつけないで下さい。いや、マジで。
これだと、今日買った服の内2組と下着とかをあげられそうにないんだけど。
「また今度でいいよ?冒険者として必要な装備を揃える必要もある訳だし。
それか、今回は宿屋の分だけにして、1週間頑張ってギルドで依頼を受けてお金を貯めて、そこで支払うとか…。」
「…情けないけど、今日は宿屋の分のお金だけでお願いするよ。」
なんだか洸ちゃんが叱られた犬みたいにしょんぼりしてしまったよ。
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