22話
ネガティブ思考に囚われてどうしていいか分からなくなっていた時、フワッと心に響く声が聞こえた。
『ティナ、私達が何時までも側にいるよ。』
『ガンセ達だよー。きっと無事でいるよー。』
ランとレイムが励ましてくれた。そうだ、私は一人じゃない。それに、今は復讐よりも洸ちゃんをこの世界で生きていける程強く育てないといけないんだった。
『ありがとう。ラン、レイム。』
2人がニコッと笑って答えてくれた。
そうだよ。父さん達は強い。只の鍛冶師じゃない。きっと無事でいる。2人が黙ったのも、王城内で安否が確認できないから。それに、きっとプラウディア様…もう様を付けてやる必要もないね、の性格から考えて導き出した答えかもしれないんだし。
これ以上、ネガティブにとらわれない様に、その事はあえて聞かない事にしよう。もう少しして、色々と落ち着いてから調べよう。
決心が付き、俯きがちになっていた顔を上げてジルダさん達の方を見ると、かなり沈んでしまっている。どうしたら…。
「ジルダさん、ゼルさん、鍛冶師の現状をお話ししてくれてありがとうございます。」
そう言うと、2人の顔は驚愕に染まっていた。
「ティナお嬢さん、ガンセさん達の安否を聞かなくていいのですか?」
「今は聞かない事にします。それに、父さん達だもん。きっと無事の筈です。」
「そうですか。
それで、ティナお嬢さんは納得出来るのですか?家族の事ですよ?」
「親父、言い方ってもんが…。それに安否をちゃんと知らないのは俺達もだろ。他の王都の鍛冶師達のその後も殆ど知られてないんだから。俺達が勝手に、思い込んでるだけかも知れないんだし。」
ジルダさんが責めるような口調で言った所為か、今は聞かないと言ったのにゼルさんは口を滑らす。でもその内容は、私に希望を与えてくれる。
「勝手な思い込みで判断をしないだけです。それに物事には優先順位があります。
その順番を無視すれば、どんなに素晴らしい素材が有っても良い剣が作れない様に、何をしても良い結果は手に入りません。
今、私が優先しなければならない事を優先します。」
「ティナちゃんが家族より優先する事って?」
「大切な人を助ける事です。彼は、…余りにも非力だから。
父さん達はすっごく逞しいし、色々と強いです。それに、父さんの傍には母さんも、工房の仲間もいます。
母さんはおっとりしている様で、凄い人だからきっと大丈夫。もしかしたら奴属の首輪を解析してしまってるかもしれないし。」
私は母さんの事を思い出して、小さく口角が上がる。
母さんの趣味は庭いじりと魔法が帯びた物の解析。生きてる可能性を信じる為に言ってみたけど、案外、解析してしまってるかもしれない。
「…ティナお嬢さん。大切な人!!?それに彼って…まさか恋人が!!!」
「また後日、こちらに伺います。その時は、私のする事を黙って見守って下さい。
それではまた!」
最初、哀愁を漂わせていたジルダさんが、私の大切な人発言で興奮しながら慌てている。今にも洸ちゃんを探し出して問い詰めそうな勢いだ。それをゼルさんが羽交い絞めにして止めている。
そう言えば昔父さんに聞いた話だと、父さんが母さんと付き合いだした時も大変な事になっていたというし。ここは、取り敢えず撤退に限るでしょ。
次来る時は洸ちゃんを連れてくる予定だけど、その時の事はその時に考えよう。うん。
ジルダさんの問い詰めをスルーして、私の言いたい事だけを言って工房を出て行く。
店舗の方の扉の外まで、ジルダさんの叫び声が聞こえるが気にしたら負けだ。その声につられて、通りに居る人々が私を見てくる。
さっさと大通りまで出て薬屋に行こう。
薬屋で、消費していた自分用のポーション類を購入する。宿屋に付いたら一度荷物を全部出して整理しよう。そうじゃないと、色々と不備がありそうだし。
考え事をしながら、周辺で昼食を食べれそうな所を探すけど、ここら辺には、ダンジョンへ向かう冒険者用の商品が多い様で適当なお店が見つからない。朝だったら、丁度いい屋台があったかもしれないけど、今の時間じゃ影も形もない。
しかたないから、この次行く予定の商業ギルドの方で探そう。商店の立ち並ぶエリアには、商業ギルドが無かったから、きっと富裕層向けの商会の立ち並ぶエリアの方にあるか、中間のあたりにあるかだろうな。でも、商会の立ち並ぶエリアなんて私知らないんだけど。
どうしようかと考えていると、後ろから声を掛けられた。
「ティナじゃないか。ディックからラビリンに居るとは聞いていたが、会えるとは思わなかったぞ。」
「ウーテさん、お久しぶりです。ダンジョン帰りですか?」
声を掛けて来たのは、冒険者クラウン『銀狼の牙』のクラウンマスターであるウーテさんだ。
ウーテさんの後ろには年若い冒険者の面々が死屍累々といった体で生気がない顔で、しかし目だげは異様にギラつかせて佇んでる。
きっといつもの様に、実力を勘違いして粋がってる子達を見つけて、熱血指導したんだろうな。そして、この子達の一部の子達が『銀狼の牙』に入ってく事になるんだろう。
「あぁ、西の方から戻ってきたら、生意気そうなのが増えていたからな。ちと指導してやろうと。
愛しい旦那の為にもな。はっはっはっ!」
「…相変わらず、仲睦まじい様で何よりです。それよりも、知らない間に西に行ってたんですね。ここ半年忙しかったから知らなかったです。
あっ、そうだウーテさん、商業ギルドの場所って知ってますか?流石にラビリンでは場所知らなくて、ちょっと困っていたんです。」
「商業ギルドか。この街の冒険者ギルドと商業ギルドの仲が悪いから、冒険者ギルドの真逆の位置にあるぞ。」
「まぁ、それは色々です。ありがとうございます。ついでに、そこまでの道のりでお勧め食堂とかありますか?」
「それだったら…。」
「おい、お前!何でウーテさんに…マスターにそんな馴れ馴れしいんだ。この人がどんな人か知らないのか。」
私とウーテさんが話していると、死屍累々の中に居た1人が話を遮って来た。
あぁ、ダンジョンでウーテさんの、ひいてはSランクの凄さを目の当たりにして、尊敬を通り越して神格化までしてしまったのか。毎度の事ながら呆れる。『銀狼の牙』の中で、ウーテさんを神格化していない人の方が少ないから仕方ないけど。
ちょっと遠い目をしていると、死屍累々の面々が加勢するように頷いている。
今回の面子は、努力しないと駄目なタイプばかりだね。それで、どこまで成長できるかは知らないけど。
「おい、人の話を聞いて…っひぃ!!」
ちょっと殺気を込めただけでこの有様とは。先が思いやられる。まぁ、こいつは絶対に『銀狼の牙』には入れないだろう。
『銀狼の牙』の掟で、‘善良な弱者には救いの手を。’ってやつを守れないだろし。その掟を決めたのは私だけども。
「言っておくが、ティナは『銀狼の牙』の幹部だぞ。そしてAランク冒険者。貴様らが全快の時に束になって仕掛けてもかなわないぞ。何せ、私の訓練の相手が出来るぐらいなのだからな。」
死屍累々の連中が口をパクパクとして、唖然としている様子を眺めているとまた背後から声が…いや、今度は叫び声が聞こえた。
「なーーーーー!!!
ティナも『銀狼の牙』の幹部なのかよ!?何で教えてくれないんだ!」
洸ちゃん、何でここに居るの?ギルドの特別依頼はどうしたよ?
お読み頂きありがとうございます。




