16話
夕食を食べ終え部屋に戻る。さて、日課のストレッチでもしますか。
「ちょ、ティナ!
いきなりそんな恰好するなよ。お前、女性だろ。
スカートで足広げて、襟ぐりが深い服着てるのに前屈するなよ…。」
「あ、ゴメン。洸ちゃんの存在忘れてたわ。」
「…着替えとかも、俺の存在を忘れてそのまましそうだな。
俺だって年頃の男なんだから、気を付けろよ。」
「でも、洸ちゃんに抑え込まれる程、私軟じゃないよ?」
「そうだとしてもだよ!
そんで、注意してるんだから体制を直せよ。」
「まぁまぁ、興奮しないで。洸ちゃんもストレッチをすると良いよ。
明日からガッツリ鍛えてあげるから、今の内に筋肉解しとくといいよ。それとも手伝う?」
「自分でやるからいい。」
洸ちゃんはそっぽを向きブツブツと何かを言いながら、自分の使うベッドの上で私に背を向けてストレッチを始める。
うーん、ちっと柔軟性が足りないな。明日の朝の訓練を始める前にも柔軟をやらせないとな。
半刻掛けて丹念に体を解していく。
ここの所ダンジョン通いが続い柔軟をする時間が少なかったから、少し柔軟性が落ちてるな。洸ちゃんの訓練しながら、私も鍛え直そう。
自分のストレッチを終えて洸ちゃんの様子を確認すると、ストレッチをしている態勢で寝息をたてていた。
まぁ、瀕死の状態回復して野宿して、休憩はあってもほとんど歩き詰めだったから、そりゃ疲れてるよね。
私は、着ていた女物の服から、冒険者スタイルの男物の服に着替え、女物の服と日中に自分と洸ちゃんが着ていた服を持って部屋をそっと出る。そして、階段を降り宿屋の中庭にある井戸まで移動して、洗濯を始める。
何処の宿屋も中庭があり、そこに井戸がある。そして、井戸の傍には洗濯をする為の洗濯板や桶も置いてある。極稀にない宿屋もあるけど。
洗濯をし終えた服の水をしっかりと絞って部屋に戻り、洗濯物を干せるように部屋にロープを張って、洗濯物を干す。
『レイム、洗濯物の周りだけ温度上げてもらっていい?』
『いいよ―。いつもの様に乾燥させればいいよね―。』
『よろしくね。はい、魔石クッキー。』
『わーい。ありがとー。』
『レイムだけずるーい。今日は2人で一緒に寝ようね、ティナ。』
『分かったよ。それじゃあ、お休み。レイム、ラン。』
ランと一緒にベッドに入り、眠りに付く。明日は取り敢えず、走り込みを重点的にやろう。
まだ、日が昇り始める前に目を覚ます。隣で眠っているランを起こさない様にそっとベッドから起き上がりブーツを履く。
ランの隣には、洋服の乾燥を終えたレイムも眠っている。
2人の寝ている姿はかわいくて、朝のこの時間はいつも私の癒しタイムになっている。
体感で5分ぐらい2人の寝ている姿を見つめて、私は自分の支度に取り掛かる。と言っても、服は既に着ているので、身支度にそんなに時間はかからないけど。
洗面台に桶を置き、その中に水の魔石が取り付けてある革袋から水を注ぐ。
そして、小さい石を取り出し呪文を唱える。
「小さな炎よ、その姿を現せ。」
人差し指から蠟燭の炎ぐらいの大きさの火が灯る。その火に取り出した石を当てて焼き石を作る。
焼き石を桶の水の中に入れて、水の温度を温める。小さい石だから、水の温度が火傷しないちょうどいい温度になってくれるから、ありがたい。このちょうどいい温度になる石を見つけるまでに、どれだけ軽度の火傷をしたことか…。
顔を洗い、化粧水などでお肌の手入れをする。その上に日焼け止めを塗り、身支度は終了だ。
年頃の女なんだから、化粧もした方が良いのかもしれないけど、汗で化粧が落ちて大変な事になるから、化粧をする事はほとんどない。
身支度が終われば、自分の鍛練を始める。まずはストレッチからだ。夜とは違い、四半時程でストレッチを終える。
次は筋トレだ。腹筋と背筋、腕立て伏せをそれぞれ500回ずつ行う。それが終われば体幹を意識したトレーニングだ。
それも終われば中庭に出て、走り込みをして、槌や剣、ナイフ・槍・盾などのスキルがある武器の鍛練をする。鍛練と言っても、ほぼ素振りや仮想相手を意識しての体捌きをするだけだけど。
ここまでで大体二刻程時間が掛かる。
その為、私の起床時間は朝1の鐘の二刻前には起き出す。日本の時間にすると大体夜中の2時頃だ。寝るのは夜2と3の鐘の中間の21時ぐらいには寝る。じゃないと流石に体が壊れるだろうし。
周りが明るくなり、そろそろ鍛練を終えようとしと時に、朝1の鐘が鳴り出した。
そう言えば、洸ちゃんに何も知らせずに鍛練を始めたから、今の鐘の音で目を覚まして私が居ない事で慌ててるかもしれない。
井戸で手ぬぐいを水に浸して、首回りや腕などを拭きながら急ぎ目に部屋へ戻る。
部屋の扉を開こうとした所、中から扉が開いた。
「うわっ!すいませ…ティナ!
どこ行ってたんだよ?起きたらいないから心配下だろ。」
「ゴメン。ちょっと鍛練しに中庭に居たから。」
「俺も鍛練したかった…。」
「大丈夫。これから朝ごはん食べた後に、洸ちゃん用の鍛練するから。
朝ごはん食べ過ぎると吐くだろうから、食べる量には注意してね。」
洸ちゃんが引き攣った顔をしてるけど、気にしないよ。
一度部屋の中に入り、桶に新しい水を用意する。ちゃんと焼き石で温めた水だ。その用意をしていると、アークが近くを飛んで何をしているのかを見ている。
『アーク、おはよう。どうしたの?』
『おはよ。ティナ何してるの?』
『顔を洗う水を用意してるんだよ。』
『その石は何?』
『この焼き石で水を温めてちょうどいい温度で顔を洗えるように温度を調整してるの』
水の温度に興味を持ったのか、アークが桶の中の水に手を入れている。桶の淵に立ち、小さい体が水に落ちない様に必死な姿がかわいい。
なにこれ、凄くいい。今朝はいつも以上に精霊に癒されるわ。
『これくらいの温度なら、アーク作り出せる。明日からはアークがやるよ!』
『ありがとう。』
やる気を出したアークは、嬉しそうにパタパタと飛んでいる。
私がレイムとランに色々とお願いをしていたから、何かやりたかったのかな?
「洸ちゃん、顔洗って身支度してね。洋服は今着ているのでいいから。鍛練した後に着替える服がある方がいいでしょ?」
着替えなくていいと言うとエッと言う顔をしたけど、鍛練後の着替えの事を持ち出せば納得したようだ。
洸ちゃんが顔を洗い終わると、部屋を出て朝ごはんだ!
何も食べずに鍛練してたから、もうお腹ペコペコだ。今日の朝ごはんは何かなあ~?
お読み頂きありがとうございます。




