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勇者の鍛冶師  作者: 芝 恵実
第1章
15/49

15話

「ほら、そっちの坊主もさっさと受け取れ。」


私が何かを言う前に、洸ちゃんに荷物を押し付けて、慌てて新たに入って来た客の対応をし始めてしまった。

洸ちゃんは渡された荷物を床に置き、装備をひとつずつ装着しようとして手を止めていた。


「ティナ…これって……。」

「そういう事。ここの湯屋は二度と使わない。

それに、あの番頭には制裁を加えないとね。」

「制裁って…、具体的にはどうやるんだ?」

「そんな事するなって、止めないんだ?」

「この世界に来てから、悪意には悪意を返すべきだって思ったからな。」

「…そっか。

じゃあ、今から私がする事に文句は言わないでね。」


そう言ってから、拳を握りしめ振り上げ番台に叩きつけた。

‘ドガン’と大きな音を立てて崩れる番台には目をくれずに、番頭を睨みつける。


「な、なんて事をするんだ!?

これだから粗野な冒険者は嫌いなんだよ!弁償金をさっさと払いやがれ!!」

「へ―。こんな冒険者ギルドの傍の湯屋でそんな事言えるなんて、大した胆力だね。

私だって、普段はこんな事はしないよ?

アンタが補償金を払って預けた荷物に手を出さなかったらね。」

「そんな事はしていない。

何処にそんな証拠があるって言うんだ!?」

「彼の装備、元々私が使ってたもののお古なんだけど、自分の持ち物には魔力刻印をしてるんだよね。

さて、ここで質問。彼の今持ってるものに魔力刻印はあるのかな?

あ、魔力刻印はギルドにも提出している正式な物だから。」


番頭が顔を青くさせながら、必死に左右を確認している。逃走経路でも確保しようとしてるのかな。もしくは、装備を隠し持っている仲間を探しているのか。

逃走するにも、これだけ多くの目撃者がいるのに逃げられるとでも思ってるのかな。

これが初犯じゃなければ、それなりの刑になるから逃げたいだろけど、考えが足りない馬鹿なんだろうな。

左人差し指を態と立てて、魔力刻印探しの呪文を唱える。


≪我が印の失せ物よ、我に道を示せ。≫


左人差し指から魔力が立ち昇り、魔力刻印を施してある物への道筋を示してくれる。

自分の所以外に行く筋道を辿ると、先程目に付いた1組の男女が居た。

そいつらの所までゆっくりと歩いて行き、2歩ほど手前で立ち止まりニッコリと笑顔を向ける。


「こんばんは。あの番頭から預かったものを大人しく出してくれませんか?」

「………俺たちはあいつに脅されて持っていただけだ。」

「そうよ、私たちは何も悪くないわ。」

「そんな事はどうでもいいよ。」

「じゃ、じゃあ…。」

「貴方達が番頭の共犯者だろうと、脅されていただけだろうと、今は興味ないだけ。

次は無いと思ってね。」


男女は顔を青くしながら頷き、慌てて湯屋を後にして行く。私達が湯屋を出た後に襲ってこなければ、今回は見逃してあげよう。

洸ちゃんの所に戻り、装備を手渡す。

番頭は、まだ青い顔をしたまま佇んでいる。さて、後はこの番頭をどうするかだけど、面倒だからこのまま放置しようかな。


「こいつは俺が引き受けよう。」

「貴方は?」

「俺はティール。この街の警備を担当している騎士兵団の一員だ。」

「それでは、お願いします。」


ティールと名乗った男性にお辞儀をして、装備を付け終わった洸ちゃんを促して湯屋を後にする。

お風呂に入ってリラックスするつもりが、逆に疲れた。

早くご飯を食べて、ゆっくり休みたいよ。


「ティナって二つ名があるんだな。それに、魔法使うのに呪文を使ってて、それも合わせて厨二くさかった。」

「…笑わないでよ。あの二つ名は恥ずかしいんだから。

それに、精霊魔法以外の魔法は呪文を唱えないと発動しないから、仕方ないでしょ。」

「え!?そうなの。

やべー、俺も魔法使う時は呪文唱えて厨二くさくなるのか。」

「洸ちゃんにも二つ名が付いたら笑ってやる。」


宿までの短い道のりを、洸ちゃんとじゃれ合いながら歩く。

洸ちゃんとこうして歩くのって、すごく久しぶりだな。何だかドキドキする。前世でもこんな風に歩いてたのは、小学校までだったからかな。

それとも今の私も洸ちゃんの事が好きなのか…。それとも昔の記憶に引きずられているだけなのか。

ティナになってからは、恋なんてしたことが無かったからこのドキドキが何なのか分からないや。


宿に到着し、食堂で夕飯を食べれる時間になっていたので、部屋には戻らずにそのまま夕飯を食べる事にする。

何のメニューか楽しみだな。

ルンルンと浮かれ気分で食堂に入り、部屋の鍵を見せて夕飯を出してもらう。

出て来たメニューは、パンとビーフシチュー、それと温野菜のサラダだった。

手を目の前に組んで、豊穣の神に祈りを捧げてから食べ始める。


「なぁティナ。食べる前に手を組んでたのは何でだ?」

「この周辺国独特の‘いただきます’だね。豊穣の神に祈りを捧げて、明日もご飯を食べれますように的な意味があるんだよ。」

「今までやってなかったよな?」

「野営の時に、両目を瞑った上に両手も直ぐに使えないと危険があるから、野営中の冒険者は基本的にしないよ。

でも、街中の食堂だと安全だから、野営中にやらなかった分も含めてしっかり祈りを捧げるのが冒険者のマナーだよね。

一部はやらない連中もいるけど。」

「どんな祈りを捧げるんだ?‘いただきます’じゃ駄目かな?」

「そうだね…、駄目じゃ無いけど目立つから、やった方が良いかな。

祈りの内容は、食物への感謝だね。」

「説明が大雑把過ぎだな。

形だけ真似して、‘いただきます’って言うわ。」


雑談をしつつ、夕食を堪能する。

このビーフシチューに入っているお肉は長時間煮込んだのか、口に入れるとホロホロとほどけて最高においしい。

パンも白パンに近い柔らかさがあって、こっちも最高だよ。

これなら、明日の朝ごはんも十分に期待が出来るよ。宿はいい宿を見つけられて本当に良かった。

ご飯を食べ終わる頃に、宿屋の女の子がデザートを片手にやって来た。


「お姉さん。これ、宿からのサービスです。

ご案内した湯屋で、不快な思いをさせてしまったので。」


私が疑問に思い首を傾げると女の子が説明をしてくれた。

あの番頭との件を既に知っているって、どれだけ情報収集能力があるんだろう。


「あの番頭の件は、貴女の所為じゃないから気を使わなくていいのに。

でも折角出してもらったから、頂こうかな。

流石にただで頂くのは忍びないから…そうだ、これあげる。」

「え…でも、こんな高価な物を頂く訳には。」

「私が趣味で作った物だから、受け取ってもらえると嬉しいな。」


私はちょっと強引に、自分が付けていたネックレスを渡す。

この子、これが高価な物と気付くなんてすごいな。見た目は只のおしゃれなネックレスなのに。

ミスリル製の守りの魔法が刻まれているネックレス。昔ちょっと危険な目にあった後に自分で制作した物だ。

こんなのあったらいいなと思って作った物だけど、その後、お祖父ちゃんの目に留まって製品化して、新種の防具として店で売ってたな。

あれを作れるのは私を除いて、父さんとジルダさんぐらいだから最近依頼があっても制作が追い付いていなかったな。

父さん達は無事かな…。


「あの、お姉さんありがとうございます。大切にしますね。」

「こちらこそ、素敵なサービスありがとう。」


女の子は一礼をして、厨房の方に去って行った。

私はその後ろ姿を見ながら、デザートのフルーツタルトを食べる。これも美味しい。

お読み頂きありがとうございます。

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