14話
階段を降りると、受付をしてくれた女の子が居たので、湯屋と石鹸などが置いてある雑貨屋の場所を聞いて宿屋を後にした。
冒険者ギルドの利用者を見込んだ様で、すぐ近くに湯屋も雑貨屋もあった。近いと便利だから良いよね。
洸ちゃんは石鹸と手ぬぐい2枚を小銀貨1枚と銅貨2枚で買っていた。お店の値段そのままで買っていたから、今度からは値引き交渉をすることを教えよう。きっとお店の人は良いカモだと思われてそうだし。
この国では貴族や大商人といった見栄が必要な人以外は、商品を買うときに値引き交渉をするのが当たり前だ。値引き交渉をした事が無い人にとって、最初は中々ハードルが高いけどね。私も小さい頃のお使いでは、中々苦労したな。
そんな事を思っていると湯屋に着いたので、湯屋の中に入って行った。すると番頭をしている男の人がこちらをチラッとみてくる。湯屋では接客が無いのが普通なのでこちらから話しかける。
「こんばんは。男女それぞれ1人ずつで荷物の預けサービスも利用したいけどいくら?」
「湯が小銀貨5枚で預けサービスは小銀貨3枚だ。」
「洸ちゃん、着替えと石鹸と手ぬぐい以外はすべてここに預けて。
私のは…はい、これでお願い。」
番頭に銀貨2枚を渡して、替えの服一式と石鹸と手ぬぐいとスキンケア用品以外で装備品を含めた全てを番頭に渡し、代わりに木札を貰う。
それを見ていた洸ちゃんは、慌てて自分の装備を外し、同じ様に番頭から木札を貰っていた。
「番頭さん、おつりはいらないから荷物の管理はしっかりお願いしますね?」
にっこりと笑顔を浮かべて、中に入って行く。
態と荷物を預ける時にギルドカードを一番上にして私が強者である事を強調していたので、番頭の顔は引き攣っていた。
後についていた洸ちゃんが小声でどういう事だと聞いてきたので、
「脱衣所にそのまま剣とかの装備や金銭を置いておくと盗まれるからね。
それに時々ある事だけど、番頭に荷物を預けても価値あるものや換金しやすい物がなくなる事があるから、小金の賄賂と脅しは必要な事だよ。」
「……物騒なんだな。」
「現王になってから治世が乱れてるからね。それにあの番頭、私たちの剣を盗む気満々だったから。」
「何でそんな事分かるの?」
「目線が剣にばかり釘付けだったから。
それじゃ、私は女湯にいくからまた後でね。
出たら、ロビーのここら辺で待っててね。」
洸ちゃんが返事代わりに頷くのをみてから別れて女湯に行き、ダンジョンに潜っていた間と王都までの往復での汚れを落とす。
この世界では、お風呂は贅沢の内に入る為、毎日入る人はそれこそ貴族や大商人ぐらいの屋敷にお風呂がある人達のみ。私の家には、私がレイムとランと力を合わせて作ったお風呂があり、水の精霊持ちの母さんが家にいる限りは毎日お風呂に入れるけど。
それでも冒険者として活動する時は数日お風呂に入れない事はざらにあるので気にしてなかったけど、好きだった人の側に居たのに、数日お風呂に入っていない状態だったなんて…。それを今頃気が付くなんて、私、女として終わってないかな。
身体を綺麗にした後、湯にゆったりと浸かっていた時にその事実に気が付き愕然とする。
もうちょっと気にする様にしないと、今世も婚期を逃すかもしれない。
これからは、ダンジョンに潜る時も期間を短めにして、小まめにお風呂に入って綺麗にしよう。
新たな決意を胸に、お風呂を出て肌の手入れをしてから女物の服を着る。
男装が趣味では無いし、前世では基本的にスカートだったので仕事中以外はスカートが穿きたいから、流石に夜まで冒険者の恰好はしたくない。剣や槌を使わなくても、私には火と土魔法があるし、レイムとランと契約をして精霊魔法も使えるので、不測の事態が起こっても少し動きにくくなる女物の服でも問題は無いしね。
だったら、普段から魔法で戦闘をしろよと思われるけど、私の本職は鍛冶。鍛冶師としての才を鈍らせない為に、主武器は鍛冶の仕事でも使う様な大槌か主に作る剣にしているのだから、動きやすい服で無いと意味が無いからね。冒険者は成人を期に引退したかったけど、魔王復活の所為で引退できなかったし。
そのストレス発散をした時に普段の服を買い替えたのだけど、まさかその影響がこんな所で出るなんて。
今日私が選んだ服は、ドイツの民族衣装ディアンドルの様な形の襟ぐりの深い胸前が編み上げのノースリーブの胴衣と七分丈のフレア袖のブラウス、胴衣と同生地で同色の萌黄色の膝下15㎝のスカート、編み上げの膝丈のブーツ。
ちょっと可愛い過ぎると思われるかもだけど、普段の生活で女子力が低下するからと理由を付けて、ほんとは趣味丸出しの可愛い系が私の私服の大半を占めているのだから仕方がない。だけど、この格好で洸ちゃんの前に出るのは恥ずかしい。
と言うのも、服装が可愛い系の理由だけでなく、この世界にはブラやそれに代わるの様な物は貴族の女性が付けるコルセットしかないので、平民の女性は特に胸に何かを付けない。その為、襟ぐりが広い服を着ると姿勢によっては胸元がかなり見えてしまう。流石に仕事をしている時は男装で晒をしてるけど、女物の服を着る時は見た目のバランスが悪くなるから晒はしない。
番頭に警戒をしていたから、無意識に服を取り出していたので、いつもの様に女物の服装を手にしてしまっていた。
なんで、男物の服で冒険者スタイルになる服を選ばなかったのか、今更ながらに後悔している。
この格好をお風呂上がりの夜に見せることになるなんて、恥ずかしいよ。
それに誘ってるて思われたら…やばい死ねる。どうするべき?洸ちゃんと合流する前に番頭から荷物を受け取って、男物に着替えるか。でも番頭に辿り着く前に洸ちゃんに会っちゃったら意味がないし…。
あぁもう、女は度胸だ。
何時までもここで悩んでいて洸ちゃんを待たせるのは悪いから、このままの恰好で早くロビーに移動しよう。
ロビーに移動すると、心許なさそうにキョロキョロしている洸ちゃんが目に入る。そして少し離れた所から獲物を狙う目をした男女がいる。未成年相手に美人局でもするつもりなのかな?
やっぱり、栄えている街はそれに比例して犯罪も多くなるものだね。でも、冒険者ギルドの傍の湯屋でやらなくてもいいと思うけど。それとも、私達が番頭に預けた武器目当ての|破落戸≪ごろつき≫冒険者なのかな?
どっちにしても、私が側にいる内はカモにはさせないけどね。
「洸ちゃん、お待たせ。」
「!………ティ、ティナ!
あんまり遅いから、捨てられたのかと思った。良かった。」
「ちょ、ちょっと、周りに誤解される様な言い方しないでよね。」
「え?…あっ、ゴメン。」
「はぁ、それより宿に戻ってご飯食べよう。明日も朝早くから色々やる予定だから。」
洸ちゃんが少し顔を赤くしている。いや、私も絶対に顔は赤くなっているだろう。
お互いぎこちない動きをしながら番頭の所へ行き、木札を渡して預けていた荷物を受け取り、私はその場で無くなった荷物が無いかを調べる。
その行為に、洸ちゃんはちょっとビックリしていたけど、ここは日本とは違うから仕方ない。
自分の荷物に不備が無い事を確認した後に、洸ちゃんの方の荷物も目線でチェックする。
この番頭、脅しに屈せずにやりやがった。剣だと流石にばれると思ったのか、防具一式が見た目では分からないけど、2ランク下の粗悪品に交換されている。
さて、この番頭どうしてあげようかな。
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