12話
お店から出て、冒険者ギルドの方向に歩いて行く。確かそっちの方向に幾つか宿屋があった筈だ。
「ティナ、これからどこに向かうんだ?
遂に冒険者ギルド!?」
「その前に宿屋で今日の宿を取っとかないとね。それと、冒険者ギルドには明日のお昼頃に向かおう。じゃないと、これからの時間だとギルド内が混んでるから。」
「なる程…。宿ってさっきローファー売ったお金で泊まれる?」
靴のお金も私が支払おうと思ったけど、買い取ってもらった靴のお金で清算する事にした。
まぁ、借金は無いにこしたことは無いけどね。
洸ちゃんの残金は、靴を売った金額が銀貨3枚と小銀貨5枚で、靴を買った金額が小銀貨4枚だから、銀貨3枚と小銀貨1枚。
「大体宿屋の金額は、一般的な宿屋で朝・夕食が付いて1泊小銀貨5枚ぐらいだね。
高級宿って言われる、風呂付の宿屋で大体銀貨3枚~になるよ。」
「風呂…でも銀貨3枚って、ほぼ全財産。
冒険者の仕事ってどれくらいかせげるんだ?」
「Eランクだと、大した額は稼げないかな。良くて、銀貨2~3枚だし。
ちなみに、この良くての金額はそこそこの魔物をいい状態で討伐した場合の金額ね。」
「いきなり、魔物討伐は荷が重い。ティナとかディックとか見てると簡単そうに見えるけど。」
「それは、私もディックも高ランクの冒険者だし、レベルも高いからね。
あと、街中に湯屋があるから、お風呂に入りたければそこの利用をお勧めするよ。ちなみに大体小銀貨5枚ってところかな。」
「高いのか安いのかが分からなくなってくる。ほんと物価とかわかんないとこれから困る事になるわ。」
「靴屋に行く前にもそう言えば聞かれてたね。すっかり忘れてたわ、ゴメン。
宿屋で落ち着いたら、物価についても詳しく話すわ。
あ、ちなみにあれが冒険者ギルドね。」
歩いているとちょうど、冒険者ギルドに差し掛かったので洸ちゃんに教える。ちなみに冒険者ギルドの看板の絵は剣と盾を組み合わせたマークだ。
鍛冶屋だと槌で、防具屋だと盾もしくは鎧に槌、武器屋だと剣か槍に槌のマークになっている。
ちなみに私の家は、武器メインで防具も取り扱いがあったので、槌のマークだ。
ご近所の奥様達には包丁の研ぎ出しもしていたけど。私が修行の一環で始めたら、弟子全員やるはめになったのはご愛敬だ。
冒険者ギルドを食い入るように見ていた洸ちゃんの手を取ってさらに道を進み、宿屋の前に到着した。
洸ちゃんの手を取った時にビクッとしていたので、流石にまずかったかなと思い、宿屋に入る前に手を離す。ここで、手を繋いだまま入ったら完全に恋人同士だと思われて同室にされちゃうしね。
「いらっしゃいませ。
ご宿泊ですか?お食事ですか?」
「宿泊で、取り敢えず1週間ほどでお願い。」
宿屋に入ると、家の手伝いなのか14歳ぐらいの女の子が対応してくれた。
黒に近い紺色の髪を襟足の部分で左右それぞれ一房ずつ残したお団子ヘア―にした澄んだ空の青色の目をした、中々可愛らしい子だった。
看板娘なのだろうが、荒くれ者も多い冒険者ギルド近くの宿屋で表だって働いていて大丈夫なのかと心配してしまいたくなる。
「1週間ですね。本日はほぼ満室になっていて、空いているお部屋が2人部屋のみになります。
2人部屋をそれぞれお取りする事も今の段階では可能ですが、2人部屋は1泊朝夕付きで、1部屋小銀貨8枚になります。
なので1週間ですと、一部屋銀貨5枚と小銀貨6枚…連泊を始めからして頂けるので、小銀貨分はサービスさせていただきますので、銀貨5枚になります。
如何されますか?」
私の懐は全然痛まないけど、洸ちゃんの残金では1週間泊まる事が出来ない。
洸ちゃんの方を見ると、お金が足りないことにちょっと愕然としている。
「なぁ、1週間も泊まらないで、2~3日泊まればいいんじゃないか?」
そして、小声で私に聞いてきた。
拠点がないと、色々教えることも出来ないし、ダンジョンに潜ったとしても最初の頃は泊りがけで行くことは絶対にしない。
洸ちゃんには説明していなかったから、そんなことは知らないのだけど。
それに、1人部屋だったら小銀貨5枚で1週間泊まる場合だと、銀貨3枚と小銀貨5枚で大体は小銀貨分をサービスしてもらえるから、そのつもりでいたのだ。
「冒険者としてスタートする前に色々教えることがあるから、絶対1週間はここに泊まるよ。
洸ちゃんにも思う所はあるだろうけど、ここは2人部屋に泊まろう。その代り、洸ちゃんが支払う代金は銀貨2枚でいいよ。」
洸ちゃんは物価が分からないので、困惑しながらも頷いてくれた。
私達が小声で話している間も、受付の女の子は笑顔を絶やさずにいる。意外とプロ根性がある子だな。
こういう子は、私大好きなのよね。あっ、恋愛的な意味じゃなくて、好感的な意味でね。
「そうしたら、2人部屋を1つでお願い。
はい、銀貨5枚ね。」
「ありがとうございます。確かに銀貨5枚お預かりいたしました。
こちらがお部屋の鍵になります。お部屋は、そちらの階段を昇って頂いて、3階になります。
なお、夕食は昼の鐘3つから夜の鐘3つまでに食堂にお入り下さい。
朝食は朝の鐘1つがなる半刻前からお入り頂け、朝の鐘3つまでに朝食を済まして頂く様にお願いします。」
「分かった。ありがとう。」
「もし、ご不明な点がありましたら従業員に仰って下さい。」
受付の女の子が一礼をして、私達が階段を昇って行くのを見送ってくれた。
ここまで丁寧な対応をするのは高級宿ぐらいなので、女の子への好感が右肩上がりで登っていく。
隣では、ポカンとした顔をした洸ちゃんがいるが…、洸ちゃん好みに育ちつつある胸がある女の子だったので、もしかしたら惚れちゃったのかも。
はぁ、転生しても失恋するのか。
3階に辿り着き、鍵についている木札の絵を確認しながら、部屋の戸に書いてある絵を確認していく。
この世界の識字率は低いので、お店の看板以外にもこういう所で何かを絵が現す事が主流になっている。
勿論、高級宿に泊まる客は字の読み書きは当たり前に出来るので、素敵な言葉が鍵との合わせになっているらしい。私も泊まった事が無いから鍛冶屋に出入りしていた貴族出身の騎士などの噂でしか聞いたことが無いけど。
一つひとつ部屋を確認して漸く見つけた部屋は、階段から一番遠い角部屋だった。
部屋に入ると通常通りの2人部屋で、両サイドの壁際にそれぞれベッドがあり、中央には衝立も備わっていた。
これで着替えも安心だ。
それと、ベッドにはそれぞれサイドテーブルがあり、扉の横には洗面台もある。ただしこの洗面台は蛇口などはついていない只の台だ。裏庭や中庭にある井戸から水を汲み、自前かもしくは貸し出し用の桶に自分で入れ、それを部屋に運んだ際に置いておく台になる。材質も水に強い物が使われている。
大体の冒険者や商人は、井戸の側で桶に水を汲んで身支度をしてしまうのでこの洗面台が置いていない宿屋も多い。女の私にとって、部屋に洗面台があるのは嬉しい。
さて、洗面台の近い方のベッドを使わせてもらおう。女のお手入れは色々とたいへんなのだから。
「洸ちゃん、私こっちのベッド使わせてもらうね。」
「俺はどっちでもいいよ。」
「ありがとう。
さて、部屋に入って人目も避けられた事だし、まずはさっきも聞かれた物価の事から教えようか。」
そう言ってからおもむろに、中央にある衝立を移動させる。
この部屋に椅子は無いから、ベッドに座って話すことになる。
そうすると決めれば、衝立を洗面台の近くに移動さ、代わりに洗面台を中央に置く。お互いベッドに座ったらちょうどいい机代わりになるのだ。
それぞれの移動が終わると、自分が使いたいと指さして言ったベッドに腰を下ろす。
それに倣って洸ちゃんも、もう一つの方のベッドに腰を下ろした。
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