10話
迫って来た男が、両手に持った短剣を交互に突き出した。私は、軽くステップを踏んで態とギリギリの所で避ける。
この動作だけで、大体の男の実力が分かった。自分と比べると圧倒的弱者のみとしか戦った事が無いのだろう。私が短剣を避けた事に驚いて、動きにムラが出ている。
まぁ、プラウディア姫からしたら、私みたいな高レベルの者が洸ちゃんの護衛に就いているとは思ってないから、この男みたいな半端者を差し向けたんだろうけど。生かして還すつもりは一切ない。こちらの情報を教えるだけになるし。
情けは人の為ならずってね。本来は違う意味で使うけど。
ここで無駄に時間を使う訳にはいかないので、さっさと片付けよう。
剣に火魔法で炎を纏わせ、相変わらず単調に短剣を交互に突き出し来ている男に向けて一閃する。剣が纏っていた炎が男に襲い掛かり、男が後ろに飛びのく。
私はすかさず距離を詰め、男の左肩に剣を突き刺し、回し蹴りをして男の持っていた短剣を弾き飛ばす。裏家業で生きてる割には、たいした武器を使ってないな。
男は肩に突き刺さった剣の痛みと、炎で焼かれる苦しさで命乞いをしてくる。
「誰に雇われたか、いい加減答えてくれる気になった?」
「ぷ、プラウディア姫様の侍従だ!!
お願いだから助けてくれ!」
「裏家業で生きている割には、プライドが無いね。あんたは弱いもの虐めしか出来ない三流ってわけだ。そんなのは、害悪でしかないからね。
さようなら。」
男に新たな火魔法を展開して、業火の炎で焼いた。
死体を一瞥した後、土魔法で男の死体を地に還す。せめてもの自分への罪の意識を低下させる為に近くで咲いていた花を摘み取り手向ける。
あぁ、洸ちゃんに合わせる顔がないな。
『ラン、土壁解除していいよ。ありがとう。』
『ティナ大丈夫?』
『自業自得だから。』
ランが土壁を解除すると、洸ちゃんが慌てて前へ駆け出し、剣を四苦八苦居ながら鞘から引き出して辺りをキョロキョロと見まわしていた。
「…さっきの男は?」
「ティナが追い払ったよ。こっちの厄介事も処理が終わったし、さっさとラビリンの街に移動しよう。これ以上、厄介事が来られても困るからな。」
ディックは私が相手を殺したとは明言しないでいてくれた。私が、人を殺す事をすごく苦痛に思っている事を理解しているからこそだろう。
そして、さりげなくあの場に残っていた連中をどうしたのかも教えてくれた。
処理と言う事は、ディックが相手をした連中も既にこの世からはいなくなったのだろう。そういう所はキッチリしているし、きっと何かしらの情報も得ているのだろう。
ラビリンの街に着いて、ひと段落したら情報を交換する事になるだろうな。
その後は、何事も起こらずに漸くラビリンの街に入る為の門まで辿り着いた。
ラビリンの街は防御壁に取り囲まれており、東西南北にそれぞれ門がある。私達が辿り着いた門は西門で、他の門と比べると利用者の数が減る。それと言うのも、この西門は草原とその先にある森に繋がるだけの為、初級冒険者や王都に大至急で向かう為に森を抜ける者ぐらいしか利用する者がいない為だ。
通常王都に行く者は、態々魔物の住処の森を通らず、整備され、尚且つ国の兵士によって定期的に魔物狩りが行われ安全面が高い南門から繋がる街道を使う。
ちなみに王都方面に行く以外の街道は東門から街道が続いており、北門はダンジョンに向かう道がある。
「ティティナじゃないか。いつもより戻りが早いな。」
「森で落とし物を拾って、怪我とかを回復させてから距離的にこっちが連れてくるのに楽だったから、予定を変更してこっちに戻って来たんだ。」
「そうか。で、落とし物と言うのはこの坊主か。
この国では珍しい黒髪黒目だな。それに肌の色も違うし、東の端からの客人か?」
「世界を見たくて、飛び出したみたい。
途中までは運よく来れたらしいけど、この国の近くで人に騙されたんだって。さらに、盗賊に遭って登録したばっかりのギドカードも含めて全財産も失ったのよ。まぁ、私が発見した時に虫の息状態だったから、命が助かっただけでも儲けものだと思うけどね。」
「坊主大変だったな。出会ったのがティティナで良かったな。それ以外の奴だと、服すらも身ぐるみ剥がされてたかも知れないからな。」
「…はは、そうですね。」
「まぁ、ティティナ以外で助けてくれそうな奴と言えば、少し前に戻って来た『銀狼の牙』のディックぐらいだろうな。ティティナ程お人好しではないけどな。」
ディックとは街に差し掛かる少し前に分かれたのだ。同じパーティーでは無いAランク冒険者が連れだっていれば、嫌でも目立つ。そうすれば、王都での探し人である鍛冶師ティナや採掘士ティアラであるかも知れないと疑われる可能性も否めない。
分かれ際に、その様な理由を洸ちゃんに説明をしてディックの名前は出さない様にお願いしている。
「それで、彼を冒険者ギルドに連れてってギルド登録したいんだけど、中に入っても大丈夫?」
「あぁ、いいぞ。ティティナから身分証の不携帯理由を聞いたからな。
保証人制度は使うか?使う場合は1ヵ月の保証人はティティナがなるんでいいんだよな?」
「勿論使うよ。
入町税も私が払うから。…はい、銀貨1枚ね。」
「確かに。
もう少ししたら、この街の通行証の腕輪が出来るからちょっと待ってな。待つのはそこの待機部屋で頼むわ。」
「ありがとう。なるべく早く作ってね。」
色々と意味が分からない状態でポカンとしている洸ちゃんを引き連れて、話していた衛兵に示された待機部屋と言う名の小屋に入った。
小屋に入り、他の人目が無くなった所で洸ちゃんが先程の会話で疑問に思った所を聞いてきた。
「なぁ、ティティナってティナの事だよな?
あと、保証人制度とか通行証の腕輪とかって何なんだ?」
「ティティナって言うのは、冒険者で活動する時に使ってる名前。
登録する時に偽名を使う様に母さんに言われてね。母さんの種族は人族だけどエルフの血が混ざってて色々苦労したから、そういう所に抜け目が無くて。
あと、村とかに入るだけでも、身分証を持っていない人は不審者扱いになるからね。だから、どこかの村以上の場所に入る時は税金を払う必要があるんだ。集落とかに身元不明の人を入れて事件や事故を起こされると大変な事になるから建前上ね。まぁ、国が税金として大量に収入を得るための制度なんだけど。
それで、元々の入町税は場所によるけど、銀貨5~10枚だったんだ。でも、身分証を持たない人がそんな大金を払えるはずもないから、救済処置として、その身元を保証する人が居れば、入町税を値引きしてもらえるって訳。ちなみに保証人をする機関は1ヵ月。1ヵ月問題を起こさなければ、晴れて役所や領主様の所で身分証を発行されるって寸法。そこでも、お金を払わないといけないんだけどね。」
「ちなみに、1ヵ月以内に何かしらの事件を起こした場合、保証人の人には何か罰則があるの?」
「起きた事件の大きさにもよるけど、被害者とかへの賠償金と役所や領主への迷惑謝罪金の支払い義務が生じるね。」
「…それって、引き受ける人いるのか?」
「冒険者ギルドでギルドカードを発行すれば、保証人も通行証もお役御免になるから結構居るよ。
人にもよるけど平均として、ギルドでギルドカードを発行した後に、支払った補償金プラス銀貨1~2枚で大体引き受けてる。」
「おう坊主、通行証出来たぞ。」
「…ありがとうございます。」
顔を引きつらせながら通行証を受け取った洸ちゃんと一緒に小屋を出て、ラビリンの街に入った。
さて、取り敢えず冒険者ギルドへ行こうかね。
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