クリームシチューとリア
ドアを開けるとすぐに美味しそうな匂いが鼻をつついた。
店の中には4、5人のお客さんがいた。
「いらっしゃいませ」
店員らしき女性がカンナ達を迎えてくれた。が、すぐに厨房に引っ込んでしまい、代わりにこの店の店主が出てきた。
「ただいま、お父さん」
「おかえり、レン。あ、そっちの人は」
店主は目線をカンナの方に向けて、それからレンの方も見て少し不思議そうな顔をした。
レンは店主の顔を見て言いたいことを察してカンナを横目でちらっと見つつ言った。
「帰り道でたまたま会ったんだ」
「そうか、遅かったねコーンさん」
店主は納得した顔で言って、それから優しそうな笑顔を浮かべた。
「お、お世話になります。これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく。そうだ、お昼は食べたかい?」
「ああ!そういえばまだだった…でした。」
カンナは最初大きな声で「ああ!」と叫んだが、すぐに小さな声で「でした。」と付け加えた。
「ははは、あまり堅苦しくならなくていいよ。ご飯まだなんだろう、今日は引っ越し祝いだ、ご馳走するよ」
「うん!」
「タメ口でいいって意味じゃないと思いますが」
「はい!」
レンに突っ込まれてカンナは慌てて言い直した。
注文は最初の店員さんが取りにきてくれた。
カンナとレンは一緒のクリームシチューを頼む。
「レンちゃん、私この街に住むの初めてなの。いっぱい分からないことあると思うけど、その時は優しく教えてね」
カノンがクリームシチュー2つのオーダーを店員に伝えてからレンに言った。
「分かりました、まかせて下さい。でもあんまり私に頼らないで自分でもいろんな事、覚えて下さいね」
「今日からここで暮らすのか?」
注文を確認した後に店員はカンナに話しかけた。
「うん!そうなの。私カンナ、よろしくね」
「私はこの店で働いているリアよ。これでも元冒険者なの。だいたいの日はここで働いているから何か分からないことがあったら私にも聞いてくれ」
「冒険者!すごい!」
「まあ冒険者なんて男の仕事だって親には反対されたけどね。昔からの夢だったんだ」
「反対されても夢を諦めないなんてなんかすごいね。いいなー夢、私には特にないや」
「まあその内見つかるさ、あなたにぴったりの夢が。じゃあ私は仕事があるから」
リアはそこで話を切り上げると、厨房に戻っていった。
日が暮れて晩飯時を迎えるとお店も次々と客が増えてきた。
忙しさのピークが過ぎた8時になるとリアの仕事の時間も終わり、そこからは夜勤の人達が働き始める。
「リンちゃーん」
カンナは更衣室のドアを開けると勢いよくリンに抱きついた。
「わっ!なんですかカンナさん。急に抱きつかないで下さいよ」
「リンちゃんも制服着てたけどもしかしてここで働いているの?」
「あれ知らなかったのか?リンもここでバイトしてるんだ」
リンの隣で着替えていたリアがリンの代わりに答えた。
「本当に!じゃあ私もここで働いてみようかな」
「カンナさんも?」
「うん!さっきお店にアルバイト募集の張り紙がはってあったんだ。私それに応募するよ」
「じゃあこれから3人一緒に働けるのか。賑やかになるな。」
すっかり普段着になったリアが嬉しそうに言った。
「じゃあ早速リンちゃんのお父さんに言ってくる!」
カンナはすぐに、勢いよくドアを開けるとそのままの勢いでドアを閉めて部屋から出て行った。
「すぐ決めて行っちゃいましたけど大丈夫なんでしょうか?すぐにクビにならなければいいんですけど」
「心配なのか?」
リアが聞いた。
「別にそんなんじゃないですよ」
「照れるなよ、そうならないように私達がちゃんとしないとな」
「はい」
リンは嬉しくてつい出てしまった笑みを隠しながら小さく言った。