ヤらせて、させ子さん!
「誰でもいいから後腐れなくヤらせてくれる女の子いないかな」
「いきなり何言ってんですか、先輩」
「誰でもいいってのは嘘だけど」
「そうじゃなきゃ困ります」
「めっちゃ美人な女の子を舐め回したい」
「気持ち悪いです」
「まぁ、それも嘘だけど」
「知ってますよ」
「君の足にむしゃぶりつきたい」
「死んで下さい」
口の悪い後輩が、お弁当のおかずをつまみながら私という存在を全否定する。中学生のような見た目と愛らしいお目目をしていながら毒づくこの態度は相変わらずだ。今晩のおかずはお前にしてやろうか。犯したい。
「先輩、今変なこと考えてたでしょう」
「べっつに〜?」
……全く。思考を読まないで頂きたい。こっちにだってプライバシーがあるのだ。プライバシー侵害で犯すぞ。
「……先輩とは“ここ”だけの関係ですけど、本当に出会ったの後悔してます。高校入学して三ヶ月でこんなに後悔するとは思わなかった」
ここ、と後輩は今いる屋上を箸で指す。
そう、先程から私はこのポニーテール子(仮称)を後輩と呼んでいるが、実際は昼食を食べる時だけに会う関係。どこのクラスかもわかんない。ただなんとなく可愛い子がいたからナンパしたらこれがなんとも面白い子で、私が無理矢理絡んでるだけなのだ。肉体的にも絡みたいです。
「そもそも、なんでポニ子はいつもここに来るの? 友達いないの? 虐められてるとか?」
「……べつにいいでしょ。先輩こそなんで屋上にくるんですか、ここ一応立ち入り禁止ですよね」
「ポニ子可愛くてさ、会いにきちゃうんだ」
「は、はぁ!?」
うわぁ、照れてる、めちゃくちゃにしてぇ。顔赤くして俯くとかお前、それAVだと犯されるからな。くっそ、この野郎。完全に誘ってやがる。
「そもそもなんで女なんですか……先輩は、その……か、顔だけはいいんだから男子に擦り寄れば」
「駄目駄目、何言ってんの! 私が好きなのは良い匂いがして、可愛くて、細くて、柔らかい女の子だよ? あんなかっちかちの筋肉質で、股間までかっちかちにしちゃう動物に欲情しないから!」
何言ってんだ、この子は。頭おかしいんじゃないか? 病院行ってこい。そしてお医者さんごっこをしよう。もちろん性的な意味で。
「ほんっと、先輩と出会った事後悔してる」
「ずっともだよ?」
「帰ります」
「うそうそ!! 待って!!」
「なんだよ、気持ち悪いですね。てかどさくさに紛れて抱き着かないでください!!」
めちゃくちゃ良い匂いする。好きだ。これはもう予感というより確信に近い。結婚しよ。
「もうちょっとこのまま……」
「……先輩、私の名前知ってますか?」
「ポニ子でしょ?」
「死ね」
「直球!?」
そのまま侮蔑の眼差しを私に向けて、彼女は帰ってしまった。うーん、ポニ子の名前ねぇ。
「で、なんだよ聞きたい事って」
「あ、えとね。ポニーテールの小さい子知らない? 一年生だと思うんだけど」
「情報少なくね?」
昼休みも終わって5限目の退屈な授業。受験に向けてという名目の『自習』授業。隣の席の野球部は面倒そうに頬杖をついた。
「田中なら分かるとおもったんだけどなぁ。田中って校内美少女ランキング発案者じゃん」
「……なんで矢利が知ってるんだよ。女子には秘密にしたのによ」
「んで、本当に知らない? いつもジト目で、良い匂いがして、犯したい〜!って感じの子」
「矢利、本当に残念だよな。校内美少女ランキング一位の女とは思えねーよ。剣道部からよく追放されてねーな」
大きな溜め息を吐いて、私を眺める。なんだその呆れたような顔は。お前の坊主頭を叩き切ってやろうか。これでも私は全国大会二連覇の実力あんだぞ。
「って、え? 私一位なの?」
剣道以外で一位取ったの初めてなんですけど?
「……まぁ、いいや。なんかもっとわかり易い特徴ねーの?」
「うーん、あ、頭は良いと思うよ。この前、数Ⅲのプリント解いてた」
「あ、それって黒髪で身長百五十センチくらいで左目の下になきぼくろある子じゃね?」
「そう!!」
「お前知らないの?」
「知らないから聞いてんだろ坊主」
「うわぁ、めっちゃ殴りてぇ」
どうやら私は人をイラつかせる天才らしい。田中はうんざりといった様子で続ける。
「“天才美少女・ミキ”だろ。なんでももう大学の勉強までやってるらしいぜ。全国統一模試でも中一から三年連続一位だし、外国で飛び級して大学行くみたいな話もあったみたいだな。知らないか?」
「全然?」
というか、あの子そんなに凄い子だったのか。そして名前は、ミキちゃんね。メモメモ。小学生の漢字の書取り並にメモメモ。
「まぁ、『させ子さん』はさぁ」
「は!?」
「あ? なんだよ」
「今、なんていった?」
「『させ子さん』?」
「はぁ!?」
「あ、なにお前これも知らないの」
呆気らかんと言い放った田中に呆然とする。
『させ子』!? あんな可愛い子が!?
「も、もしかして、田中……お前も……」
「……そういう事か。『お前も』ってことは、やっぱりお前もそうかよ。まぁ、恥ずかしい話だけどな、俺も何度かお世話なったぜ。誰にも言うなよ?」
照れくさそうに田中は坊主頭を掻く。
「俺は、まぁ、見せてもらっただけだったけどな。他のやつはヤッてもらった奴とかいるらしいぜ。隣のクラスの鈴木とか」
あんな可愛い顔して、『させ子』……?
淫乱ドビッチ糞野郎、だと……?
「……え、それどやって見せてもらったの」
「まぁ、噂はあったからさ。でも、皆の前だと恥ずかしいじゃん? 一番最初に誰がヤレるかって野球部で勝負もしてたから、内緒でこっそり手紙で呼び出してさ、放課後誰もいない教室で「『させ子さん』見せて下さい」って言ったら、全部見せてくれたぜ」
まじかよ……
ヤらせてって言ったら、簡単に……
そうか、だからか。ミキちゃんは、自分が『させ子』として噂が広まってるのを知ってて、そして友達がいないんだ。
そして同級生の女の子達からは軽蔑の眼差し、男子からは常にやらしい目で見られる…… だから、毎日昼休みになったら嫌々でも噂の知らない私のところに来るんだ……
そんな事……
そんなのって……
「最高じゃん!!!!!!!」
「だろ!? あんま他の人に言うなよ? これ以上『させ子さん』の噂広めたら、俺がお世話になる機会なくなるかもしれねーからな!!」
「おう、兄弟!! 穴的な意味でな!!」
「お前、そういうのよく大声で言えるよな……」
「絶対に明日屋上にくんなよ!! 」
明日は最高の一日になるぞ。わははは!!!!
******
「ねぇねぇ」
私達以外、誰もいない屋上。
にやけてしまって自分の頬が吊りあがってるのを感じてしまう。我慢しろ、笑うにはまだ早い。
そんな私を気持ち悪い汚物を見るようにミキちゃんは「なに」と言い放った。その視線、たまりません。
「好きだよ、『させ子さん』」
「え!? 」
一瞬にして『させ子さん』は顔から火を噴き出す。まさか私からこの名前が出るとは夢夢思うまい。
「な、ど、どこで、」
「野球部の田中から聞いたよん」
「た、田中さん……え、って、す、好きって」
「えーとね、『させ子さん』。キスしよ?」
「キ、キス!?」
「いただきまぁす」
「ま、待って!!」
「なに?」
「す、好きなの?」
んなもん、美少女とのキス嫌いな奴いないだろ。
「好きだよ? させ子さんは?」
「……す、好きです」
この淫乱ドビッチ天使が!!!!
「じゃあさ」
ゴクリと生唾を思わず飲み込む。
「ヤらせて、『 させ子さん』」
「は、はひ」
目を瞑って、ぷるぷる震えるミキさん。くっそ可愛い。例えそういう演技だとしても許せる。キスとかすっ飛ばして犯したい。
でも、こんな感じで田中にミキさんは生まれたままの姿を見せていたのか……
「でも、大丈夫。私、NTRとか余裕だから」
肩を抱いて唇を重ねる。なんだこれ、めっちゃ柔らかい。それになんかめっちゃ気持ちいい。ふわっとしてて、むにっとしてて、なんだかむずがゆくて。頭がふわふわしてくる。
不意にミキさんが唇を少し動かす。
脳に電流が走ったのではないかと錯覚するレベルで意識がイキかけた。『させ子』のテクニック恐るべし。
このまま彼女に主導権を取られてはいけない。
やった事は無いけど、そもそもキス自体初めてなんだけれど、彼女の少し開いた薄い唇の間に舌をぬるっと侵入させる。
驚いたのか彼女は少し肩を震わせながらも、おずおずと舌を遠慮気味に絡めてきた。うへぇ、めっちゃ気持ちいい。なんだか甘くて、美味しい。
「……ぷはっ、ごめんね。初めてだから下手でしょ」
「わ、わかんない。私も、初めて、だし……」
は、初めて!? 今までキスしたことないの!?
『ピーーー』とか『ピーーー』して、『ピーーー』してるのに!? それともキスだけはNGとか!?
なんだこいつ私に気があるのか!? 『 ピーーー』とか『 ピーーー』して『 ピーーー』しても怒られない感じ!? ゆくゆくは『ピーーー』で『 ピーーー』なって『ピーーー』して『ピーーー』!?
「も、もう我慢できん」
がばっと彼女に覆いかぶさって、馬乗りになる。これから何をされるのかは大体想像ついているようで、『させ子』こと『天才美少女・ミキ』は目を固く瞑って顔を逸らした。
まぁ、まずは、だ。
この細くて白い、汚れを知らなさそうな脚を、だ。
靴を脱がせてだ。
ついでに靴下も剥ぎ取ってだ。
「な、なにするの……?」
い た だ き ま す ! !
「れろ……んむ……」
「ひゃあっ!?」
「ジタバタするなって、んむっ、舐めにくい」
「き、汚いよ!! 」
美少女の足が汚い訳あるか!!!!
めっちゃ美味しいし、こちらも口内同様、ほんのり甘い。なんだ? 美少女の身体は砂糖か蜂蜜で構築されてんのか? だからか? だから白くて甘いのか!?
「美少女の身体は蜜の味ぃ!!!!」
「っ馬鹿ぁああああ!!!!!!!」
刹那、鉄製の重い扉がギギギと開く。
「ちぃ〜す、させ子さん俺にも……ってああ!?」
「へっへっへ、残念田中。邪魔しようたって、3Pはお断、痛ったぁああぁああ!?!?!!?!?!?」
「お前、これ、説明しろ」
「え、説明も何も」
「説、明、し、ろ」
田中の顔が怖い。犯されそう(小並感)
仁王立ちの田中がムカつく。何故、私は正座なのか。コンクリートで膝が痛い。処女膜を貫通された並に痛い。貫通された事ないけど。
「説明しろ」
「……田中の後ろに隠れて怯える愛しのさせ子さんまじぺろぺろ」
「ひぃぃっ!!」
させ子さんの悲鳴は日本一ぃいい!!!!
「よし、とりあえず先生に報告してくる」
「待って、落ち着こ? 早漏は嫌われるよ?」
「あ、もしもし、警察ですか?」
「ごめんって、説明するからごめんって!!」
思わず田中の脚に縋り付く。惨めだ。
「おふざけはここまでだ。まじでどういう事だ?」
どういう事だも、なにも……
『させ子さん』にヤらせてもらってただけなんですけれども……もしかして足舐めNGだったのか?
本番オーケーなのに? それってまじ?
「あの、『させ子さん』は何でもヤってくれるらしいじゃないですか……」
「ん、まぁ、悪いけど、そうだな」
「あの、『やってくれる』って何をですか?」
おずおずとさせ子さんが田中を見上げる。
田中は少し抜が悪そうにしていた。そりゃそうだ、いくら『させ子』でも本人の目の前では言いにくいだろう。仕方が無い……
「あの、田中。私から言おうか……?」
「え、あぁ、いいよ。させ子さん、その、何でもヤッてくれるって言うのはだな……」
そして田中は間を置いて、照れ臭そうに言った。
「課題とか、ノートとか、勉強について、な?」
そうそう、課題とか、ノートとか、勉強、
「は?」
あ? え? ん? 勉強?
「あぁ、そういう事でしたか。いやいや、構いませんよ? 皆さんのお役に立てるなら……」
「え、待って、ストップ、ドントムーブ」
「なんだよ、矢利」
え、どういう事だ? 思考が、あれ?
「ちょっと田中こっちきて」
「な、なにすんだよ!」
無理矢理田中の襟を掴んで、させ子さんから引き剥がす。待て、冷や汗が止まらない。
「『させ子さん』の名前って、なに?」
「は? 何言ってんだ、お前」
「いいから!!!!」
田中は訝しんで眉を潜めて口を開いた。
「『三木沙勢子』だろ?」
世界が、宇宙が、概念が停止したかと思われた。
沙勢子さん? あ、セックスさせてくれる『させ子さん』じゃなく? あ、まじで?
「……『させ子』って、セックスさせてくれる『 させ子』じゃなくて、名前が『沙勢子さん』?」
田中は何を言ってるか分からない様子で眉間に皺を寄せる。そして、三秒後。
「……矢利。お前って馬鹿だろ」
「え、えへへ……」
「謝ってこい。俺は教室に戻る」
「はぁい……」
******
「っていう事情デシテ……」
「先輩、本当に最低ですね」
包み隠さず全てを打ち明けた。沙勢子さんルートが閉じた音がハッキリと聞こえる。もう駄目だ。私には剣道しかない。防具が彼女。
「……私、本当に先輩が告白してくれたのかと」
「え?」
「うぅ……ひぐっ……」
沙勢子さんは下を向いて、大粒の涙を零す。
滑らかな新雪のような肌に、キラキラとした雫を静かに垂れ流していた。
「す、好きだよ、沙勢子さんのこと、好きだ!」
「……身体目的ですよね」
「違う! 違わないけどさ! いや、違うんだよ」
勇気を出せ、私!!
言え、言うんだ!!!
「あのね、私。沙勢子さんの事が、本当に好きだから、沙勢子さんに悪戯したいと思ったし、キスしたいって思ったの。本当だよ!」
「……本当ですか」
「その、沙勢子さんは気持ち悪いと思うかもだけど、本当に沙勢子さんがいるから毎日屋上に来てたし、沙勢子さんの名前を田中に聞いたし……」
「私もです」
「え?」
「私も、先輩がいたから、ここに来てました」
「嘘?」
「本当です。私も大好きですよ、先輩」
「うわぁあああ!! 沙勢子さん愛してる!!」
「先輩、もう。ふふっ」
「万里って呼んで?」
「万里?」
「私の名前。好きな人の名前知らなかったの?」
「もう、万里さんも同じじゃないですか」
「あはは!!」
******
「万里さん、かぁ」
「どうしたの? 沙勢子」
「万里さんって知ってる?」
「あぁ、剣道部の『ヤリマンさん』でしょ? 超有名じゃん」
「!?」
「この前、男相手に百人斬りしたらしいね」
「はぁ!?」
「なんでも凄過ぎて、この近辺の学校の女子はもうみんなヤッちゃって相手にならないみたい」
「はぁぁあああ!?」
「凄いよね〜、『矢利万さん』。ってあれ? どうしたの? 沙勢子? え? 先生ぃい!!!! 沙勢子が白目を向いて倒れましたぁああ!!!!」
終