あらま、突飛ですか?
お昼休み。
「エレンちゃん!」
「ど、どうしたの?」
「お願いがありますの!」
「う、うん、言ってみなさいよ」
「合コンがしたいですわ!!」
その瞬間のエレンさんの愕然とした顔は、当分忘れられません。
何故、このようなことを提案したのか。実は今日下駄箱で他クラスの女の子達の会話を聞いてしまったのです。近くの男子校の生徒と合コンしないかという。
合コン!そうです!合コン!
この前、凛々子ちゃんたちに止められてしまいましたが、私は諦めきれません。ドラマなどでもあるではありませんか、合コンが素敵な恋の始まりだったり、実は後ろで気になってる人がいて、その人が自分を拐ってしまったりとか!!
「ピヨが今想像してること殆どあり得ないから」
「え?そうなのですの?」
「当たり前だろ。基本的に合コンは女に飢えた屑しかこないんだから」
「いや、流石に酷くない、その言いがかり」
「あはは、じゃなきゃ、エレンみたいに最低年一で別れたりしないだろ?」
「って、それは流石に私に失礼でしょ!!」
結局、合コンはダメでした。凛々子ちゃんからそれは駄目だと念まで押されてしまい、そこまで言われたら合コンは持ち越しです。大学のが盛んみたいですからね。
さて、ここで高校生ならではのイベントとはなんでしょうか。教科書に目もくれず、窓の向こうを眺める。こうも黄昏ていても教師にほっといていただけるとは、今私は恵まれているのかもしれない。
余りにも変に気を使われ、本当はやるはずだった結婚式をするカップルのお話を飛ばして、地球環境についての話に変わり、クラスの殆どが英訳してこないという状況には陥っていますが。
そう言えば、来月鶴代お姉様の結納が行われると今日招待状が届いていました。一ヶ月前って少しギリギリなのでは、と思いはしたが、予定は勿論空いていたのでそのまま出席する主を返送しておいた。
……そろそろ、鶴代お姉様も携帯を持つべきかと思います。
なんだか、思考がズレテキテしまいましたわ。戻しましょう。
この学校で、出来ること……よく考えれば、ここは女子高なので、結構限られたことしか出来ないのよね。
例えば、男子がバスケしていて、それを見てトキメキを感じたり。それを応援したり、屋上で告白をしたり、ライバルとか表れたり、最終的に認めあったり、文化祭でミスコンしたり、後夜祭で踊ったり、卒業式に告白をされたり、第2ボタンゲットしたり………
この、学校には、圧倒的に、トキメキが、足りなさ過ぎですわ。
正直、この男の立場に凛々子ちゃんが立っている気がしますし、第2ボタン代わりに中学生の頃のリボンを交換しましたが、お互いそちらの趣味はございません。
やはり、女子高で出来ることは限られてるのかしら。
「転校しようかしら……」
「うん、それも諦めなよ」
「冗談ですわ」
転校は、流石にしたくはありません。
トキメキがある学園生活も、大学へ持ち越しかしら。
さて、ここまで色々考えてきましたが、やりたいことが見つかりません。都合よくポンポン出てくる訳じゃないのですね。
一度寮に帰り、動きやすい格好に着替える。気分転換にでも自転車を走らせようと思ったからです。さっと駐輪場からピヨちゃん号を出し、寮から出発しました。
ゆったりと走らせてると、何度か学生カップルと遭遇をした。手を繋ぎたいのに繋げないのか手を宙にさ迷わす野球男子や、可愛い女の子に気をとられて彼女にキレられていた男子、彼氏の服の裾を持つ可愛い女子、なんででしょう、見てるだけで、トキメキが移ってきそうです。
制服デートって、学生のうちだけですよね。
でも、相手がおりません。
色々と複雑な心境を抱えながら、帰路を辿ります。ああ、私の個人的な力で出来ることはないのでしょうか。
考えすぎたので糖分を買おう、少し帰路から外れていつものコンビニ向かうと、珍しく朝のお兄さんが居た。
夕方にいるのは、本当に珍しい。
チラチラとお兄さんの様子を伺いながら、お菓子と発売日だった海外のファッション&ゴシップの雑誌を持って、直ぐ様お兄さんのレジに並んだ。
「いらっしゃいませ。お預かり致します」
ゴシップ雑誌のゴムバンドを取り、ささっと会計を済ます。そして、少しやってみたかったUrare 会計に挑んでみた。
「こ、これで!」
「はい、ではここに」
電子マネーのタッチする場所に置くと、ピピッと会計が終わった。すごい!と心の中で感動していると、「ぷっ」と誰かが吹き出した。
「え、あっ、いや…」
「あ、申し訳ありませんでした!あまりにも感動されていたようで、可愛くてついつい」
可愛い!!しかも、感動してたことがバレてる!!
顔に血液が集まっていく。恥ずかしい、恥ずかし過ぎる。
「あはは、大丈夫。みんな初めてだと感動しちゃうよね。あっ、いけない、いけない。大丈夫ですよー」
おどけて笑うお兄さんを直視できず、私は俯いて顔を隠す。朝は本当に忙しそうにしてるため、ここまで話すのは初めてかもしれない。
性格はユウスケとは違うが、ベリータブレットの方の役柄に少し似てるのかな。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。チョッと早いけどおやすみなさい」
妙齢の男性におやすみなさいって言われるのか 、初めてで心臓がキュンとしました。夢見心地で、コンビニを出ると、もう一度お兄さんを見ます。私の視線に気付いたのか、優しく手を振ってくださり、私も降り返すと微笑んでくださいました。
なんだろう。叫びたい。
ピヨちゃん号に跨がり、結構猛スピードで部屋に戻り、昔亮ちゃんに貰った「雄叫びの壺」という大声だしても小さくしてくれるという便利グッズでそれはそれは、叫び続けました。
エレンは寮ではなく、駅向こうのマンションの一人部屋でストイックに身体を鍛え続けていた。
理由としては、心頭滅却したかったからだ。昨日、うちの母親から「映画に出ないか?」という打診されたのだ。勿論、ただ映画に出るなら普通に断ることが出来たが、面倒なことに現在の旦那であり、私としては四人目の父親に当たる人が監督をしているため、非常に断りづらいのだ。
しかも、種違いの弟たちは出るらしい。
撮影場所は私の為だけに日本予定。
本当に、勘弁してほしい。
「しかも、家族愛とか笑えるわ」
うちに家族愛なんかない。母親は私のことを人形と同じようにしか見ていない。父親はすぐ変わるから頼りにならない。兄弟も種違いのせいか、何処か隔たりがある。
ゴシップ雑誌を捲ると、この映画のことについて小さい記事が載っていた。『彼女の恋多き女の称号を返上するために夫が四苦八苦』。そんなことのために時間を削らなきゃならないのが、凄く凄く腹が立つ。
とりあえず、一通り鍛え終えてしまった。けど気分は全く晴れない。こういうときはどうすればいいのか。
私の場合は、腹違いの兄さんにでも相談しようかな。
「やっほー元兄ちゃん!」
『おおー!久しぶりだな!』
「あはは、でさ……」
エレン回です。
ぴよっこ暴走回ですね。これから、もっと暴走していきます。