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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

少女Rの遺書

作者: 倉木紫
掲載日:2026/09/07

 貴方への想いを書き留めておくことが、せめてもの弔いになるのでしょうか。

 この街の誰もが寝静まった深夜。ノートのまっさらな1頁に、思いのままにペンを滑らせました。暖色のデスクランプに照らされた文字の羅列はあまりにも拙く、まばたきを重ねるほどに掠れて消えてしまいそうでした。それでも、これが私のなけなしの本当でした。




拝啓 XXXさん


 貴方が好きでした。

 貴方が笑うたびに、澄んだ薄茶色の瞳が柔らかく細まるのが好きでした。

 貴方が窓辺に佇む時、風にさらさらと揺れる黒髪が好きでした。

 誰かが泣いていた時、何も言わずにそっとハンカチを渡した、貴方の不器用な優しさが好きでした。

 貴方の強がりも、優しさも、照れ隠しの言葉も。

 私にはすべてが愛おしく思えるのです。

 何も知らない純粋だったあの頃も。

 取り返しのつかないほど汚れてしまった今も。

 もし私の罪を一切合切告白したなら、貴方の瞳にはどんな感情が浮かぶのでしょう。

 軽蔑でしょうか。それとも、憐れみでしょうか。

 私には見当もつきません。

 最後に一つだけ、我儘を言います。

 どうか許してください。

 たった一度きりでも、貴方に愛されてみたかったです。

 さようなら。愛しています。


敬具 名無しの少女R




 書き終えた瞬間、視界がじわりと滲みました。何を泣いているのですか。この期に及んで。自身の微かに膨らんだ下腹部に、慎重に手を添えました。私の罪の証明。空気が弾けるように、ぽこぽこと弱々しく蠢く命。この世で最も忌々しく、この世で最も愛おしい存在。


 愛し愛される未来を夢見てしまったこと。

 知らない男の人に身体を汚されてしまったこと。

 幼い疵口を抉るように、穢れを塗りたくったこと。

 それでもなお、愛を求めてしまったこと。

 すべてが、私の罪なのでしょう。


 母が私を淫売と呼んだこと。

 どこにも居場所などないこと。

 今、ここに貴方がいないこと。

 すべては、運命なのでしょう。

 だからこそ、私は罰を受けなければならないのです。

 この世に、生を受けてしまった罰を。


 ベランダから東京の夜景を眺めながら、下腹に手を当てました。決して産声を上げることのない子。母である私は疎か、誰からも存在を祝福されない子。かつての私と、よく似ています。悲しいほどに。

 この子と共に心中しましょう。手ぐすね引いて待つのが無間地獄だとしても、夜に墜ちた私には永遠の安寧。



———リサ。


 意識が途切れるまでの一瞬、懐かしい名前を呼ばれたような気がしました。貴方の声にも似ていましたが、きっとそれは都合のいい錯覚なのでしょう。


 私は何者でもない。名無しの少女Rなのだから。

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― 新着の感想 ―
読みました。とても綺麗な恋慕の心と、ドロドロの現実が錯綜する様が読んでいてビリビリきました。 ギャップがすごいのなんの。素敵なフレーズもたくさんあって。 『私の罪の証明。空気が弾けるように、ぽこぽこ…
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