少女Rの遺書
貴方への想いを書き留めておくことが、せめてもの弔いになるのでしょうか。
この街の誰もが寝静まった深夜。ノートのまっさらな1頁に、思いのままにペンを滑らせました。暖色のデスクランプに照らされた文字の羅列はあまりにも拙く、まばたきを重ねるほどに掠れて消えてしまいそうでした。それでも、これが私のなけなしの本当でした。
拝啓 XXXさん
貴方が好きでした。
貴方が笑うたびに、澄んだ薄茶色の瞳が柔らかく細まるのが好きでした。
貴方が窓辺に佇む時、風にさらさらと揺れる黒髪が好きでした。
誰かが泣いていた時、何も言わずにそっとハンカチを渡した、貴方の不器用な優しさが好きでした。
貴方の強がりも、優しさも、照れ隠しの言葉も。
私にはすべてが愛おしく思えるのです。
何も知らない純粋だったあの頃も。
取り返しのつかないほど汚れてしまった今も。
もし私の罪を一切合切告白したなら、貴方の瞳にはどんな感情が浮かぶのでしょう。
軽蔑でしょうか。それとも、憐れみでしょうか。
私には見当もつきません。
最後に一つだけ、我儘を言います。
どうか許してください。
たった一度きりでも、貴方に愛されてみたかったです。
さようなら。愛しています。
敬具 名無しの少女R
書き終えた瞬間、視界がじわりと滲みました。何を泣いているのですか。この期に及んで。自身の微かに膨らんだ下腹部に、慎重に手を添えました。私の罪の証明。空気が弾けるように、ぽこぽこと弱々しく蠢く命。この世で最も忌々しく、この世で最も愛おしい存在。
愛し愛される未来を夢見てしまったこと。
知らない男の人に身体を汚されてしまったこと。
幼い疵口を抉るように、穢れを塗りたくったこと。
それでもなお、愛を求めてしまったこと。
すべてが、私の罪なのでしょう。
母が私を淫売と呼んだこと。
どこにも居場所などないこと。
今、ここに貴方がいないこと。
すべては、運命なのでしょう。
だからこそ、私は罰を受けなければならないのです。
この世に、生を受けてしまった罰を。
ベランダから東京の夜景を眺めながら、下腹に手を当てました。決して産声を上げることのない子。母である私は疎か、誰からも存在を祝福されない子。かつての私と、よく似ています。悲しいほどに。
この子と共に心中しましょう。手ぐすね引いて待つのが無間地獄だとしても、夜に墜ちた私には永遠の安寧。
———リサ。
意識が途切れるまでの一瞬、懐かしい名前を呼ばれたような気がしました。貴方の声にも似ていましたが、きっとそれは都合のいい錯覚なのでしょう。
私は何者でもない。名無しの少女Rなのだから。




