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◆09

◆09


 彼らのたまり場と思しき場所。

 その扉を蹴破り、開口一番。

「ここにバーグはいるか! 私はハウエルという者だ!」

 突然の乱暴なあいさつに、たまっていた「悪い仲間」たちはあっけにとられる。

「もう一度聞く、ここにバーグはいるか!」

 何人かが指を差した。

「その男か。なるほど、パラクスの面影がある」

「親父が?」

 するとハウエルは問答無用と言わんばかりに、彼を組み敷いた。

 すかさず、ローザが持っていた縄で縛った。

「痛っ、おい、やめ――」

「貴殿にはここにいる連中と縁を切ってもらう」

「え?」

 バーグはまだ状況を飲み込めず、いささか間抜けな声を上げる。

 鳩が豆鉄砲を食らったような、とは、まさにこのことをいうのだろう。

「貴殿のお父上がそれを望んでいる。もう二度と不良どもとはつるまない、と、ここで誓え」

「何を……」

「いいから早く誓うことだ。ためらうごとに痛い目に遭ってもらう」

 言って、ハウエルはバーグのみぞおちに一撃。

「ぐへぁ!」

「さあ早く!」

「わ、分かった、誓う、誓うからゲホゲホ」

「本心から誓え、軟弱者め!」

「グエ! 分かった誓う!」

 追い打ちで一発。

 ここでさすがに状況を少しは把握したのか、周囲の仲間たちが動き出す。

「おい、バーグに何しやがる!」

「いや、それ以前にいきなり俺たちのところに入ってきて、何してんだ!」

「お、私たちの活動を邪魔するつもりか。いいだろう、尋常に勝負!」

 言い終わる前に、不良の一人を蹴り飛ばした。

「ブヘッ!」

「こいつ……囲め、囲んで捕まえろ!」

 しかしハウエルたちもさるもの。囲みを常に破るように立ち回り、その中で着実に不良たちに打撃を与えていく。

 回し蹴りが飛ぶ。渾身の突きが直撃する。ここぞと放たれた一撃があごをえぐる。

 ハウエルとローザのたった二人に、不良たちはどんどん削られていった。

 逃げようとしていた最後の一人に、ハウエルは組み付き、そのまま地面に投げ落とした。

 マウントを取りつつ尋問。

「きみには聞きたいことがある」

「ぬぐぐ……何をだ」

「後ろ盾になっているスジ者の居場所はどこだ」

 ちょうどいいところにあった彼の手、その人差し指を逆の方向に曲げようとする。

「痛いぃ!」

「答えなければ折る。それでも答えなければ他の指も折る」

「分かった、話す、話すから!」

 戦いの意思がないのを確認したハウエルは、マウントを取ったまま、指にかけていた手を放した。

 あとの話によると、一連の流れを見たバーグは、恐怖に震えていたという。


 念のため不良の首に縄をかけた二人は、ローザがバーグをさっさと家に送り届けたあと、彼の案内のままに歩く。

「妙なことをしたら、その首を絞め折るぞ」

「しない、しないから」

 すっかり不良は怯えているようだ。

 言いつつ、自分の軍である機動半旗には、こうもたやすく敵の「取引」に従うことがないようにさせないと、とハウエルは思う。……それはつまり、脅迫に対して死を選べという無情な訓練方針でもあるのだが。

 やがて、不良は立ち止まった。

「ここだ」

 粗末な扉。ちょうどハウエルぐらいの格闘術でなら壊せそうだ。

 よし、とハウエルは気合を入れる。

「お、まあ鍵師はいませんから、しょうがないですよね」

「そうだね。それにいまからやるのは荒事だから、扉が吹き飛んだぐらいでガチャガチャ騒がせないよ」

「ちょっと待て、お前ら、何を」

 ハウエルは飛び上がり、身体をひねって蹴りを繰り出す!

「こういうことだよ!」


 扉は見た目より更にもろかったようで、誰もが振り返るような大きな音を立てて粉々になった。

「なんだ、なんだ!」

 すかさずハウエルは大音声。

「パラクスの息子バーグが、不良の道から足を洗うことについて、告知をしにきた。今後一切、私たちとバーグに接触することはなくしてもらおう!」

「バーグ……ああ、あいつか」

 名前を憶えていた無頼に、別のゴロツキが返す。

「いや、それどころじゃない、いきなり扉を壊して高圧的に命令とはごあいさつだな。名前はなんだ」

「悪党に名乗る名はない!」

 名乗らなかった本当の理由は、ゴロツキどもから万一にもお礼参りされるのを防ぐためであるが、もっとも、そんな気を起こさせないほど痛めつける気でいる。

「さあ約束してもらおう、我々とバーグ青年に今後指一本触れるな、これは命令だ!」

「……さっきからふざけやがって、野郎共、やっちまえ!」

 掛け声とともに、数人が一斉に飛びかかってくる。

「甘い!」

 その間をすり抜け、一人を背後から机に向かって投げ倒す。

「がっ!」

 机に頭を打って、そのスジ者は気を失った。

「まだまだ!」

 さらにもう一人に組み付き、首を絞める。

「は、はなせ……げうっ」

 窒息で無力化し、次の敵には顔を横から刈り取るような拳。

 と見せかけて、足払いからの頭を蹴り飛ばす。

「グヘッ!」

「さあ来い、まとめて倒してやる」

 ちなみにローザは、無力化した相手の金品を漁っていた。事前に許可していたことなので、ハウエルも特に何も言わない。金策は大事なのだ。

「この野郎……!」

「いや待て」

 頭領格と思しき中年の男が、無頼たちを制した。

「こいつには全員でかかっても敵わないだろう。若いの、要求はさっきのだけか?」

「然り。我々を邪魔しないことと、バーグが足を洗うのを認めることだ」

「……本当にそれだけか?」

 いきなり電撃的に扉を破ってチンピラを猛烈に痛めつけたにしては、要求が控えめすぎる、と彼は思ったのだろう。

 スジ者にも少しは頭の回る人間がいるな、と思ったが、されど本当に要求はそれだけだったので。

「そうだ。それ以上は何も望まない。ああ、そこの女子が漁っている金品はもらっていくぞ。私たちは少しでも金策をしなければならない。どうせはした金だろう?」

 相手が反社会的な部類の人間であることをいいことに、堂々と上前をはねることの宣言。

 しかし、相手もそれを呑むしかないはず。もし突っぱねたら、暴風のごとき伯爵には、さらに痛めつけおおごとにする用意があった。

 果たして。

「分かった。約束しよう」

「壊れた扉その他は貴殿らの自腹で払うことだね」

「それも約束しよう。他になければさっさと去ってくれ。これは後片付けと治療が大変だ」

 かくして、大戦果を挙げたハウエルらは悠然と帰っていった。

 案内した不良は「誰かほどいてくれ」と情けない声を上げた。


 ハウエルは再びパラクスの家へ戻った。

「ふひ!」

 バーグがすっかり怯えている。

「バーグ殿、そんなに怯えないでほしい。あの場から貴殿を引き離し、真人間に戻すには、少しばかり手荒い真似をするしかなかった」

「ふ、ふひ」

「私は無頼漢ではありません。本当に必要な時しか武力に訴えはしない。むやみに振り回すのが害悪だと知っているからです」

「……む」

「パラクス殿、このたびはご子息を怖い目に遭わせて申し訳ありません。しかしそうするしかなかったのも事実です」

 父は先に戻っていたバーグから事情を聞いていたようで、ただうなずいた。

「いやいや、俺のバカ息子は、多少は怖がらせないと言うことを聞かないものでしてな。ハウエル伯爵は賢明な判断をなさった。バーグも頭を下げろ」

「ひ、……ありがとうござい、ヒック、ました」

 バーグは震える頭を少し下げた。

「背後にいたスジ者にも力で言い聞かせてきましたから、夜道も大丈夫でしょう」

「背後のスジ者をって、貴殿が懲らしめたのですか」

 さすがに目を見張るパラクス。

「仕方がありませんでした。できれば穏便にいきたかったものですが」

「ハウエル伯爵、貴殿は尋常じゃなく強いな。そこの娘っ子もですか」

「私、かよわい女の子ですから全然強くないです! 天下無双の伯爵様に、まるでお姫様のように守ってもらわないと!」

「はいはい。冗談はいいから」

「うぅー!」

「なるほど。娘っ子よ、主君をよく守れよ」

「ううぅー!」

 茶番はパラクスらには無視された。

「それで。俺一人だけ荒天領に行ってもあまり意味がないですな。かつての仲間たちと連絡を取って、できるだけ領地の製鉄業が回せるように面子を集めるつもりです。あぁ、ここにいるバーグも職人の一人として連れていきますゆえ」

「……ん? バーグ殿も製鉄技師なのですか」

 ハウエルが尋ねると、まだ震えながらバーグが答える。

「親父から一通り、お、教わってい、います。ヒッグ、お役に立てると思います」

「おお、それはよかった。よろしくお願いするよ」

 笑みを浮かべるハウエル。

「ふひ……」

「ところで伯爵殿。貴殿の話によると、まだ採掘の鉱夫……特に頭領となる者が足りないようですな」

「はい、そうです。何か心当たりなどありますか」

「もちろん。製鉄技師が鉱夫を知らないわけがありますまい」

 言うと、パラクスはニヤリと笑った。


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