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1.勇者の接待、あるいは家畜の矜持②


 エレベーターの扉が開いた瞬間、網膜を焼くような鮮烈な緑と青が飛び込んできた。

 草木の息吹と、瑞々しい花の香り。そして、何より僕を圧倒したのは、目の前に跪く少女の存在だった。


 「──お待ちしておりました、勇者コンドウ様」


 透き通るような銀髪が風に揺れ、尖った耳が愛らしく震える。リィンと名乗ったそのエルフの少女は、潤んだ翡翠色の瞳で俺を見上げてそっと俺の手を取った。

 その指先は驚くほど柔らかく、温かい。


 「(わたくし)はリィン。あなた様を導き、その全てを肯定するために遣わされた者です。さあ、こちらへ」


 彼女に手を引かれ歩き出すと、そこは夢に描いたような王道ファンタジーの世界だった。

 純白の石畳が続く街路。行き交う人々は皆、僕の姿を見るなり足を止め、深々と頭を下げる。


 「見てください、伝説の勇者様だ!」


 「ああ、なんて慈悲深い眼差しをされているんだ……」


 現実にいた頃、俺は駅前で石を投げれば当たる「代わりのきく存在」だった。

 けれど、ここでは違う。俺が右を向けば世界が祝福し、俺が微笑めば少女が頬を染める。


 リィンは片時も俺のそばを離れなかった。


 冒険の合間、木漏れ日の下で彼女は俺の膝に頭を預けて愛おしそうに俺の指を一本一本、宝物に触れるように撫でた。


 「コンドウ様。あなたの指は、この世界を救う高潔な指です。会社という場所では、この指で無価値な書類を打たされていたと聞きました。なんて……なんて残酷な。私なら、そんなことはさせません。この指には、私だけが触れていたい」


 彼女の吐息が耳元をかすめる。その声には、母性的な慈愛と、狂おしいほどの独占欲が混ざり合っていた。


 「リィン……君は、本当に俺のことを……?」


 「もちろんです。あなたが望むなら、私はあなたの影になり、大地になり、呼吸にさえなりましょう。」


 「あなたの言葉は私の法であり、あなたの欲望は私の祈りです…さあ、もっと私を求めてください。ここはあなたを傷つけるものは何一ついない、あなただけの楽園なのですから」


 彼女は俺の胸に顔を埋め、陶酔したように俺の鼓動を数えている。

 その濃密な甘さに、俺は溺れそうになっていた。課長の怒声も、深夜の冷たいホームも、すべてが遠い前世の悪夢のように薄れていく。


 「ああ……。これだ。これこそが、俺が求めていた『本物』の人生なんだ」


 俺は彼女の細い肩を抱き寄せた。

 リィンの体温、髪の香り、そして俺を全肯定する言葉。その全てが完璧だった。









 ……完璧すぎて、まるで精巧に調整された機械のようであることに、その時の俺はまだ気づいていなかった。


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