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30.紡がれる愛と決意

 舞踏会は第一王子ダナヒューの宣言で静かに幕を閉じた。


「本日の舞踏会はお開きとする」


 その言葉が会場に重く響き渡ると、貴族たちはざわつきながら席を立ち始めた。

 しかし、ざわめきは消えず、会場全体に波のように広がっていた。

 誰もが混乱し、興奮を隠せない様子だった。

 聖女ヴァネッサの評判が揺らぎ、王族と聖女の間に亀裂が露見したことは、誰にとっても予想外の出来事だった。


 私は隣にいるジュードを見上げ、深く息を吸い込んだ。

 胸の奥が熱くなり、目の前の現実を受け止める覚悟が固まる。

 彼の存在が、私の心の確かな支えだった。


 やがて人々が散り散りになり、私たちも大広間を後にする。

 舞踏会会場からそう離れていない王宮の一室で、ジュードとふたりきりになった。

 扉が静かに閉まると、彼はため息をつき、重い表情で話し始めた。


「エマ。ああ言ったけれど……僕の立場は複雑で、正直できることは限られている」


 彼は言葉を選ぶようにゆっくり息を吐き、視線を一瞬遠くへ向けた。

 葛藤がその瞳に浮かぶ。


「王族としての責任、国の未来、民の視線。すべてが僕の肩にのしかかっている。だから、軽率には動けない。君の無実を証明するには、慎重に計画を練らなければならないんだ」


 その重い言葉をかみしめるように、ゆっくりと私の手を取った。


「それでも、これだけは伝えたい。心の底から君を信じている」

 

 私はじっとジュードを見つめ返す。

 薄橙色の瞳には嘘も迷いもなく、ただまっすぐに私だけを見つめていた。

 その瞳は揺るぎない覚悟と変わらぬ信頼に満ちている。

 まるで私の心を見透かし、どんな困難もふたりで乗り越えようと約束してくれているようだった。


「ジュード。本当に、私を愛しているんですか?」


 私は声を震わせて尋ねた。胸の奥でざわつく不安と期待が交錯する。


「私は、あなたを騙していました。エメリナであることを黙っていた」


 視線を落とし、言葉を震わせて告げる。

 胸の内の重みが溢れ出しそうで、心臓が苦しい。

 次の瞬間、彼はやさしく私の手を握り、静かに息を吐いた。


「僕こそ、君が追放されたとき、信じられなかった。本当にごめん」


 彼の声はどこまでも誠実で、過去の自分を悔やむ響きを帯びていた。

 私はゆっくり顔を上げる。


「改めて告白する。僕、ジュード・アルムシュテットは、エメリナ・エクルンドを愛している。どうしようもなく、君が好きなんだ」


 その言葉に胸が熱く締めつけられ、涙がにじんだ。

 彼の真剣な想いがまっすぐ心に届く。

 思わず胸に手を当てると鼓動は高鳴り、今にも飛び出しそうだった。


「これからは、どんなことがあっても君を守る。君が何者でも、僕は変わらない」


 彼の言葉が胸に深く染み渡り、体の力が抜けるような感覚に襲われる。

 視線が揺れ、言葉にならない想いがこみ上げた。

 私はただ、彼のまっすぐな瞳を見つめ返し、言葉を探していた。


「そんなふうに言われたら……私、もう……どうしたらいいか……」


 言葉が詰まりそうになる。

 彼はやさしく微笑み、私の腰に手を回してぐっと引き寄せた。


「僕はずっと君の味方だ。離さない」


 その言葉に胸の奥が、じんわりとあたたかく満たされる。

 私は迷わず顔を彼の胸に埋めた。

 そこから伝わる鼓動は心地よく、強く、守られているという確かな安心感をくれた。


 彼のぬくもりが全身を包み込む。

 こんなにも幸せな気持ちは、生まれて初めてだった。


「ねえ、ジュード。ずっとそばにいてくれますか?」


 私は小さな声で尋ねた。

 不安を感じていないと言ったら嘘になる。

 けれど彼の手がやさしく髪を撫でるたび、その不安は溶けていった。


 彼はゆっくりと頷いた。

 その仕草には迷いがなく、まっすぐ私を見つめる瞳には強い決意が宿っている。


「約束する。これからもずっと、いっしょにいる」


 その言葉は私の心を満たした。

 あたたかさと安心感で胸の奥が熱くなる。


 視線を上げると、ジュードがやさしく微笑んでいる。

 胸が締めつけられるような幸福感が込み上げた。


 私は静かに微笑み返し、言葉にできないほどの感謝と愛情を込めて彼を見つめ続けた。


「ありがとう、ジュード」


 胸の鼓動がいっそう高鳴る。

 ふたりの距離は自然と縮まり、やがて唇がゆっくり重なった。

 甘くやさしくあたたかいキスは、これから訪れる困難を共に乗り越えるための静かな誓いのようだった。


 彼の指がそっと私の頬を撫で、呼吸が重なるたび心の距離も近づく。

 世界がこの瞬間だけ静止したように感じた。


 この先、どんな嵐が来ても。

 このぬくもりを忘れずに進んでいけると確信した。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

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