第七話 誘惑
暗い空間を志鷹はふわふわと漂っていた。
何も考えられない⋯いや考えるのが億劫になるほどの心地よさに、志鷹は思考を放棄してしまいたくなる。
満ち足りた気持ちで空間を漂っていると、どこからか声がする⋯。
「おいで。こっちにおいで・・・」
(ダレ…ダ…)
まどろむ志鷹に母親のような、父親のような、祖父のような祖母のような声で優しく親しげに志鷹に語りかける。
「さぁ、楽になろう。……おいで」
志鷹は、何とも言えない高揚感と幸福感を感じた。
その声はまた囁く…。
「殺せ。我らの邪魔をする者を…」
(殺⋯ス⋯)
志鷹の体に力が溢れた。
この力があれば自分は何にでもなれる…どんな相手でも打ち負かせる…そう思えた。
「さぁ殺せ。これも…」
「「新たな世界のため」」
志鷹の声が優しい声と重なる。
目を開けるとそこには、不敵な笑みを浮かべた男が立っていた。
志鷹は男の前に膝まずき、男が差し出した手を取った。
「さぁ、行きなさい」
男に頭を下げると志鷹は
ふらりと歩いていく。
やけに室内は静かだ。
そんな中、志鷹は青年に会った。
酷く驚いているその青年はどこか懐かしい……。
それでも殺意が湧くのはなぜだろう。
「殺せ…殺せ」
声は言う。
「殺ス…」
志鷹の言葉は低い唸り声に変わった。