反論
「ZBVってのはさ、臨時編成の使い捨て部隊。カッコいいよな、なあ?」
ミリオタ男は前席から振り返り、ニヤついた顔を向けた。
誰も返事をしなかったが、彼は続けた。
「今回は現代版ZBVってわけさ。記録に残らない仕事。
行って、やって、終わり。そういうの――ロマンあるだろ?」
そのとき、バスの中ほどから、低く抑えた声がした。
「その言い方、やめたほうがいい」
声の主は、三十代後半くらいの男だった。
工事用のキャップを膝に抱え、目線を落としたまま、はっきりとした口調で言った。
「ZBVが何の略かは知らない。けど、使い捨てって言葉で笑うのは違う。
人道支援って書いてあった。少なくとも、俺はそれを信じたい…」
ミリオタは一瞬言葉に詰まったが、すぐに鼻で笑った。
「信じた? マジかよ、あの広告を?
あんな雑な文面で何をどう信じるってんだ。
“詳細なし、説明なし、ただ参加せよ”って――ありえないって」
「ありえないけど、信じた。信じたかっただけかもしれないが。
君だって“使い捨て”なんて話にして終わらせたくないだろ?」
バスの中が静まり返る。
その会話を聞いていた若いニートの男は、目を伏せたまま、
じわじわと顔をこわばらせていた。
うつむいたまま、そっとつぶやく。
「……これ、ほんとに人道支援なんですよね……?」
返事はなかった。誰も確信を持っていなかった。
冷房の風音だけが、空席の背もたれを静かになぞっていた。