歓迎
昼前、バスは小さな地方道に面したレストランの駐車場に滑り込んだ。
「ドライブイン木曽川」と書かれた、観光バス用の立ち寄りスポットだ。
外は真夏の日差し。蝉の声がけたたましく鳴いている。
店の前には、紙の立て札が出ていた。
> 「ZBV御一行様 歓迎」
無地のバスに乗った無言の集団に似つかわしくない文字だった。
観光客でも、修学旅行でもない。
けれど、店内にはすでに席が用意されていた。
店員は愛想よく「どうぞ〜」と迎えたが、
その目には明らかな戸惑いが混じっていた。
プレートには、カレーとハンバーグ、パックのお茶。
全員、無言のまま黙々と食べ始める。
そのときだった。
背広を着た男が近くの席に腰を落とした。
ネクタイに汗を滲ませた、地元企業の営業のような中年男。
無遠慮に声をかける。
「君たち……どこの会社の研修?」
反応はない。男は気にせず続けた。
「ZBVって、何の略? バスに何も書いてないし……あの、失礼だけど、ちょっと雰囲気が、ね」
笑うでもなく言った。
「俺も昔、就職失敗してな……変なビジネス研修とか受けたんだよ。“自衛隊式”とか銘打ったやつで。
でも君たち、冗談抜きでヤバい組織に連れてかれてない? 顔つきが、なんか……」
そこまで言いかけて、彼はやめた。
「……なんなんだよ、本当に……」
背広の男は、誰に返答されることもなく、所在なさげに立ち上がった。
それ以上、深入りはしなかった。
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