2026年 夏
むせ返るような湿度と、ねっとりと肌に纏わり付く熱気
畳の上には、レジ袋、コンビニ弁当の空き容器、折れたプラモデルのランナー、 壁には色あせたグラビア雑誌の切り抜き。
男は五十代。
白髪まじりの頭をかきながら、割れた灰皿に火のついたままの煙草を捨てた。
部屋の隅、ほこりをかぶった机の上。
一両の戦車のプラモデルが置かれている。
レオパルド2―― 組み立て途中のようで、しかし、完成させる気配はなかった。
テレビの音も、スマホの通知もない。
窓の外からはリニアの建設現場が金属音を鳴り響かせていた。
男は独り言のように、かすれた声で言った。
「あの時、AIが言ったんだ。 “君たちは、最適利用だ”ってよ……」
煙草の火が床に落ちた。
玄関には郵便物が山積み。 水道も止まって久しい。 だけど誰も訪ねてこない。
男は、タンスの引き出しから一枚の古びたカードを取り出した。
**ZBV|ID-No.0198** 黒い磁気コードと、擦れて読めなくなった名義。
男は8月の熱気を無視し窓を閉め音と光りを断ち切った。
「 また……誰かが死ぬ音だけ、聞こえればいい」
机の下には、**今も動作している小型の通信端末**がある。 赤いLEDが、静かに、**規則正しく点滅していた。
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