2話 力の発現
葉華邪と笑雨は転移して早々、ピンチへと陥っていた。
2人が転移した森は魔境といって、魔力が溜まっている魔力の源流であった。
魔境には危険な動植物があふれており、2人は既に囲まれている。
人であれば敵意を剝き出しにして警戒する葉華邪も、見たこともない動植物に慌て戸惑っていた。
だが、本来であれば襲ってくるはずの魔生物が2人には襲い掛かって行かない。
葉華邪はそのことに気付いていないが、笑雨は襲ってこないことに違和感を感じていた。
「ねぇ、葉華邪。こいつら襲ってこなくね?」
「そんなわけないでしょぉ、ほらもう目がやばいもぉん。」
2人がひそひそと話し合っているが、笑雨が感じた通り襲ってくる気配はない。
思い切った笑雨が足を一歩踏み出すと魔生物たちは同じだけ笑雨から離れた。
さらにもう一歩踏み出してみる。
やっぱり、魔生物たちは笑雨から離れていった。
笑雨は「(これなら森を抜け出せるかもしれない)」と、考えて魔生物の方へ歩いていく。
笑雨は無事だった。
だが無事ではないものが1人。
「ちょっとぉ!!」
葉華邪が進む笑雨の腕を掴んで引き留めようとした瞬間、葉華邪の身体は急速に伸びる蔦によって持ち上げられていた。
「葉華邪!!」
笑雨が慌てて駆け寄るが、先程までおとなしかった魔植物は止まる気配を知らない。
どんどん膨らんで延びていく蔦に笑雨は苛立ちながら爪を突き立てた。
だが、何かが起きるわけは無い。
蔦の表面に意味のない小さな傷が付くだけで葉華邪をとらえた蔦はどんどんと大きくなっている。
普通の人ならあきらめていただろう。だが、笑雨にはこの異世界に来た時から見えているものがあった。
柔らかく黄色に光る粒子の流れ。
そして、笑雨はその光を糧にして扱えるような気がした。
自身が願えば光は勝手に手の平に集まって来る。
笑雨は集まった光を蔦に押し当てながら、「蔦、離れろ」と呟いた。
蔦は勢い良くバッと離れていく。地面から生えていた蔦は一瞬の間に地面へと戻っていた。
「空気は柔らかくなる。」
笑雨が空気に触れながらそう言うと、空気が透明のクッションのように柔らかくなって落ちてきた葉華邪を受け止めた。
笑雨が見えていた光の流れは、真脈という魔力の流れだった。
真脈は普通の人には見えないが、魔力の波長が合うものは見えたり干渉することができた。
「なにそれ、すごいじゃぁん!!」
「わかんないけど、なんかできたわ。」
笑雨の起こした現象を見た葉華邪が興奮気味に笑雨に駆け寄ってくる。
だが当の笑雨もなんでこんなことができたか分かっておらず、少し混乱していた。
(異世界転移して能力とかがもらえたのかな、でも葉華邪が持っているような様子はないし........。あとなんか光の流れが少し見えるし視界以上の範囲が見えてる気がする、なんだろう。うーーーーーん、ま、いっか。)
笑雨はついに面倒くさくなって、考えるのを止めた。
できることはできる。それだけでよかったのだ。
どうしても気になる葉華邪が笑雨に尋ねる中、笑雨は「わかんなーい」と適当に答え。取り敢えず森を抜けるために歩くことにした。