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5. 突風


 その日は本当に突拍子もなく、紙川の目の前に、突風の如くやって来た。


 株で生計を立てているため、基本いつだって在宅で、パソコンと睨めっこをしている時間が長いせいで座りっぱなしによる弊害、痛みを無視できない状況になり、どうやらこれは坐骨神経痛という名前が付いているらしいぞ、という調べまではついたところだった。


 椅子と同化している時間が長いために凝固した筋肉は「動く」ことをどうやらご所望らしいし、それならば、と運動も兼ねて散歩がてら本屋へと紙川は足を向けた。

 

 唯一の大切な存在であるルルとも、どこかへ旅行にでも行けたらいいなとも思っていたので、坐骨神経痛の本とルルとの旅行先にちょうどいいガイドブックでも探すつもりで、軽い気持ちで近所の本屋内をフラフラとしていた時だった。


 ふと、コミック漫画の新刊コーナーに目が止まる。


 そして、思い出していた。

 子供の頃はあんなにも夢中になって漫画を読んでいたのに、そういえばいつしか自分は年を重ねるごとに漫画を手に取らなくなってしまったな、ということを。

 そしてその馴染み深かった漫画という存在は、いつしか紙川にとって懐かしいものへと変わってしまっていたことに。


 所狭しと並ぶその積まれた本の中でも、一際気になるものが紙川の視線を捉えていた。


 これは、と思わず手に取る。


 表紙を見、裏表紙を、見る。


 眼鏡をかけた大人しそうな雰囲気の女子高生と、キリッとした溌溂そうな女子高生が向かい合わせで喫茶店でパフェを食べさせ合いしている表紙だった。


 とにかく絵が綺麗で、朗らかで、目を引いた。


 女子高生が映っているのだから少女漫画なのだろうな、と当たり前のように思いながらも、その一度手に取った漫画をどうしてか元に戻す気にはなれなくて、深く考えもせず、そのまま他の雑誌と一緒に会計を済ませ、買って帰っていた。


 漫画コミックが我が家にある。という久しぶりの感覚になんだか鳩尾あたりがふわふわしていた。

 

 娯楽、と言われるものを久しぶりに摂取する高揚感があったのかもしれない。なんだか待ちきれず、気になってしまった紙川は、一緒に購入した雑誌やガイドブックよりも先にそのコミックのページを早速開いていた。


 ああこの感覚、懐かしいな、と思いながらも読み進めていく。そして何かが引っ掛かり、それはだんだんと確信めいた気付きへと変わっていく。

 何やらおかしい。


 「これは」と思いながらも、進む手を止められず、行方を見つめ続け、最後の着地点まで辿り着いた時には「なるほど」と合点の声をあげていた。


 すぐさまパソコンで読んだ漫画を検索してみる。

 そして「おや」「これは」などと不可解だった疑問の点と点が線になっていく。

 紙川はパソコンを見つめながら「なるほど、これが」と口に出していた。


 ーーーこれが、百合漫画。


 そんなものが、この世にあったのか。

 そう言いたくなるほど、新種の化石でも発見したかのような、明快さと爽快感だった。


 そんな物語がこの世にあるだなんて、知らなかった。


 どこか感動めいたものがあり、もう一度最初から漫画を読んだ。

 すごく良い。

 とにかく良い。

 

 純度が高い。可愛さが散りばめられている。

 男女間の恋愛にはない苦悩と歯痒さ。

 

 気持ちが通じ合った時の奇跡感。


 「これは」良いな。と心の中で、口が動く。


 そこから紙川の日常に、百合漫画は蔦のようにするりするりと絡まり始めた。


 紙川の人生に、天使の梯子の如く、光が燦々と差し込んだ。


 そして一度栓を抜いたダムのような勢いを持って、次々と百合漫画を購入し、没入していった。

 株のために購入した参考書が羅列された本棚の横には、次々と漫画が収められていった。


 紙川にとって、初めて「好きなもの」と言える存在が生まれた瞬間だった。


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