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3. 質疑応答

 

 「いつもお買い求めいただいてますよね」

 そう言いながら真っ白で細長い指がこっそり、という風情で紙川の持ってきた漫画の月刊誌を胸のあたりまで持ち上げる。「いつも、必ず、発売日に」そう言ってニコリ、と柔く目尻が垂れ下がる。


 それはさながら雪山でひょこっといたずらに顔を出す野うさぎみたいないじらしさだった。その計算のない自然な仕草は、彼女が纏い放つ少し隙の与えないような知的な雰囲気からは逸脱していて、肩透かしのようなものを思いがけず食らう。


 そして初対面、と自分は認識しているのにも関わらず彼女の口から「いつも」と言われたことに、自分の存在がこの本屋では常連客として認知されきっている匂いを感じてなんだか落ち着かない心地も覚えながら「あ、はい」と温度のない返事を紙川は再び返す。

 

 「面白いですか」

 「え?」

 「百合漫画」


 そう言ってピッと小気味いい音が鳴る。瞬間、いつも通りの馴染み深い値段が電子モニターに映った。手に持っていたスマホが、紙川の代わりにほのかな動揺を見せ、手の中でつるりと滑りそうになる。


 「私、百合漫画はまだ読んだことなくて」

 「ああ」

 「面白いですか」


 そう言った眼差しが真っ直ぐ紙川を捉えて、見つめる。

 その虹彩には、揶揄いもおふざけも、そういった類の混じりけは一切なかった。ただただ計算のない純粋な問いかけが、紙川の前で答えを待っている。


 紙川はスマホを握り直しながら、端末を画面の上に翳した。程なくして、決済完了の鈴の音が鳴る。


 「面白いですよ」


 すごく、と末尾に付け加える。

 そしてもう一度「すごく面白くて、いいものですよ」と、紙川は答えた。


 「そうですか」

 

 何故か彼女の方が嬉しそうに、目元を緩めて破顔した。

 見た目に反して、この人は案外柔らかい人間なのかもしれない、と紙川の脳の(ひだ)が自然と彼女の意外な印象を実感し始めようとしていたところだった。


 「あの」

 「はい」

 「いきなり、失礼かもしれないんですけど」

 「はい」

 「おすすめとかあったら、教えてもらったりとか、できませんかね」



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