表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

ドリップバックコーヒー

「うわ、なんでこんなキャベツ値上げ!? お米も高いし、パスタもチョコレートも全部値上げしてるよー!」


 昼下がりのリビングに市川七子の声が響く。専業主婦の七子だったが、家計簿や一週間分のレシートを見つめて胃が痛い。数年前の家計簿と比較すると確実に物価が上がっている。


 このぐらいの事で負けたく無いものだが、うん、うーんと唸ってしまう。


 それに大好きなコーヒーチェーンも行けていない。最近はスーパーのプライベートブランドのドリップバックコーヒーを飲んでいた。三百円ちょっとだったが、十パックも入っていてコスパは申し分無い。プライベートブランドの安いコーヒーを見ると、七子は再び唸りたくなったが。


 そうは言っても、唸っていても仕方ない。お湯を沸かし、このコーヒーを飲む事にした。


 確かに大好きなコーヒーチェーン店には劣る味だが、まずは丁寧に淹れてみる事にした。


 最初にちゃんとコーヒーカップを温める。お湯を注ぎ、ちょっと放置して流す。その雫も全部拭き取ると、ドリップバックコーヒーを設置した。


 ふわっと良い香り。頭も正常に戻ってきそうなクリアな匂いだ。


 まずはコーヒー粉を湿らせるようにお湯を淹れた。その後も三回に分け、ゆっくりと丁寧にお湯を注いでいく。


「あれ? ちゃんと丁寧にコーヒーを淹れたら、プライベートブランドでも美味しい」


 その事にも気づき、七子はゆっくりと啜る。


「うん、悪くない。なんか贅沢だな。気分は大富豪かも」


 こんなコーヒーを飲めるのは恵まれた証拠だ。確かに今は少し家計が苦しいが、パートも行っているし、スキマバイトを入れて見ても良いかもしれない。


 そこに息子が中学校から帰ってきた。


「お、お母さん。なんかご機嫌?」

「ええ。ゆっくりコーヒー飲んでたら、気分良くなってきた」

「ふーん。でもま、家では母ちゃんがご機嫌でいるのが一番だって。テレビで言ってたー」


 息子は慌ただしく塾へ行ってしまう。


 そんな足音を聞きながら、もう一回コーヒーを啜る。


「うん、美味しいわ」


 例えどんな経済的に大変でも笑顔でいよう。多分、これが家族の中での役割かもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ