コーヒーフレンチトースト
朝ごはんは食べない主義だ。一人暮らしでフルタイムの正社員で働く羽田東子にとっては、朝の時間も大事。
今はもっとスキルアップしたくて英語、宅建、簿記、AIの勉強などもしていた。普通の事務職としては、ちょっと不安だったりもする。この仕事も10年先も実存する確実な証拠もない。AIにとって変わると言われていた。アラサーで一人暮らし、彼氏もいない東子にとっては、少しでもリスクを減らしたい思いも強かったのだ。
なので朝は勉強だ。今日はインスタントコーヒーだけ飲み、英語資格の問題を解いていた。確かに朝食べないと頭の回転が悪くなるとも言われていたが、慣れてしまうと気にならない。インスタントコーヒーのほろ苦い香りを楽しもつつ、勉強も捗っていた。普通のドリップコーヒーよりも苦味が強い気もするが、勉強中はインスタントコーヒーのライトさが心地いい。
その甲斐あってか、簿記三級の資格試験に合格した。一ヶ月弱の勉強だったので不安の方が強かったが、嬉しい。点数はギリギリだったが、合格である事に変わりはない。
そんな土曜日。東子は商工会議所で貰った賞状を眺めながら、気が抜けていた。第一目標をクリアしただけで、まだまだチャレンジしたい資格は色々あったが、とりあえず一つの目標をクリアして気が抜ける。
同時にお腹も空く。今までは朝ごはんなど時間の無駄だとカリカリ勉強していたが、たまには休んでも良いかもしれない。
そうは言っても、冷蔵庫の中は硬くなった食パン、牛乳、玉子ぐらいしかない。この材料だったらフレンチトーストが思い浮かぶが、どうもあの甘ったるいパンは朝から重い。
ふと、コーヒー味のフレンチトーストが無いかと思いつく。ネットで検索すると、案の定、あった。インスタントコーヒーで味付けするらしい。ポイントとしてはインスタントコーヒーはお湯に溶かしてから卵液や牛乳に混ぜると上手く出来るらしい。
さっそくキッチンに立った。ワンルームアパートのキッチンは極狭だ。作業スペースなどほとんど無いが、何とかフライパンで焼くまでたどり着く。
「わ、いい香り!」
フライパンの上のコーヒーフレンチトーストは、普通のそれより良い香りだ。インスタントコーヒーのライな香りが、このフレンチトーストにはよりマッチしているみたい。
「ま、たまには朝ごはんを食べてもいいよね」
そう、ひとまず目標はクリアしたのだから。今日だけは素敵な香りに包まれながら、自分を甘やかしても悪くないはず。




