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おいしい珈琲物語〜珈琲と共に読みたい短編小説集〜  作者: 地野千塩


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コーヒーポーション

 夜九時すぎのスーパーマーケット。お惣菜は半額シールが貼られ、客たちが群がっていた。


 スーツ姿のサラリーマンやOL風の客も多い。高清水結海も一見OL風のルックスだったが、職業は小学校教師。重苦しいメガネは、二十代前半であることを薄めていた。いわゆる堅物そうな女に見えるが、その目は憂鬱だった。


 今日も残業だった。疲れた。しかも同僚から巧妙に仕事を押し付けられていたし、若造の結海には拒否権はない。派閥もある。保護者からの期待もプレッシャーだ。その上、真面目にやっている業務も全く評価されず、成果だけ同僚に取られることもしばしばある。生徒には真面目に生きることを説いていたが、思えば、この世の中、適当に生きている人が得している気がする。


「理不尽……」


 思わず小さな声で愚痴がこぼれそうになるが、どうにか抑えた。


 仕事終わりの夜、毎日のようにスーパーでお惣菜を買う。本当は自炊すべきなのだろうが、この時間に帰ってきて家事をする気になんてなれない。それに他の客も仕事終わりなのだろう。疲れ切った顔をしている。それを見ていたら、余計に肩が重い。


 どうにか半額のお弁当をゲットし、セルフレジの方に向かう途中、見切り品に目がついた。ふりかけ、パスタソース、紅茶、コーヒーなども半額シールが付けられれいた。その中にあるコーヒーポーションに目がつく。パッケージに「簡単! 早い! 美味しい!」と印刷されてあり、あんまり品はないが、なんとなくカゴに入れてしまった。


 そして一人暮らしのアパートへ帰る。すぐに着替え、メイクを落とすと、弁当を食べた。半額シールは貼られた冷めたお弁当。なんとも侘しいが、それ以上に自炊が面倒だった。


「あ、このコーヒー飲むか……」


 スーパーで買ってきたコーヒーポーションの袋をあけた。コロコロと小さなパッケージが可愛らしい。手の平サイズだ。


「でも今日は疲れたし、面倒だなー」


 本当はパッケージ通りの分量のお湯を入れるべきだが、本当に面倒くさくなってきた。


「もう、適当でいいや」


 コーヒーポーションの中見を適当にマグカップに入れ、お湯もそうした。


 ふわふわとコーヒーのほろ苦い香りが広がる。砂糖も適当に入れ、スプーンでガシャガシャとかき混ぜたが、色は綺麗な漆黒。匂いもいい。


 一口飲む。適当に入れたはずなのに、不味くない。むしろ美味しい。


「あれ、パッケージ無視して全部適当に入れたのに。そう不味くもないね?」


 おかしい。首を傾げるが、濃さもちょうどいい。甘みは少し足りないが、それはそれで悪くない。


 仕事で真面目さは使い尽くしてしまったらしい。もう出涸らし状態だ。こんな夜に飲むコーヒー、適当でちょうどいいのだ。


 そう自分に言い聞かせ、またコーヒーを口の含む。目を細め、その味や匂いを感じていると、肩の荷は軽くなっていた。

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