カフェラテ
「あー、ちゃんとしなきゃ」
川野聖良の口癖だった。元々優等生的な性格ではあったが、コロナ渦以降、在宅ワークに代わり、余計にそんな傾向になった。
「本当にちゃんとしなきゃ」
オフィスで働いていた時と違い、自宅での仕事は上司の目はゆるくなる。サボるというよりは、仕事をしすぎてしまう。前は休みも上司にコントロールされていたと感じるほど。
結局、昨日もオーバーワーク気味になり、家事も疎かになり、家の中はぐちゃぐちゃ。せっかくの休日も家事に追われていた。
「ちゃんとしなきゃ」
いつもの口癖を呟きながら、掃除もしたが、焦っているせいで、効率が悪い。
「あぁ、私ってもうアラサーなのに。部屋ぐらい綺麗にできないと。ちゃんとするべきなのに」
気づくと思考は白黒になり、ちゃんとできない自分が許せなくなってきた。
運が悪いことに妹からLINEもきた。今日は仕事が休みでコーヒーを楽しんでいると、画像つきで。
昔からチャランポランで自由人の妹には、よく尻拭いをさせられていた。親には「お姉ちゃんなんだからしっかりするべき」と教えられていた。正直、妹は嫌い。みているだけでイライラしてきたが。
「でも、妹が飲んでるコーヒー美味しそうだな」
どこかの喫茶店でカフェラテを飲んでいるそうだが、フワフワの泡が綺麗だ。色も、やわらかく、包容力がある。
「なんかコーヒー飲みたくなった……」
思わず唾を飲み込んでしまう。気づくと、財布を掴んで近所のコンビニへ向かっていた。
レジでカフェラテを注文し、マシンで注ぐ。カップをマシンにセットしてからの少しの時間、焦ったいのに、なぜか嫌でもない。
ほどなくしてカフェラテが出来上がった。ふわっとほろ苦い匂いが鼻をくすぐる。黒でも白でもない淡い色も、優しげ。
こんなカフェラテをみているだけで、肩の力も抜けてきた。さっきまで支配していた白黒思考は、ゆるりと溶けていく。
さっそく帰り道、カフェラテを飲んでみた。甘くて苦い。どちらにも偏らず、ふんわりと混ざり合った味。
「ちゃんとしなくてもいいのかな? 今日は家事もお休み」
時と場合によっては。
白黒つけず、中途半端に混ざり合ったままでも、いい日もあるかもしれない。今日はそんな日にしても悪くない。




