ペットボトルコーヒー
幼なじみのコウキは変なあだ名がついていた。
「なんでコウキって貴族とか王子様っていうあだ名がついているの?」
たまたま学校の帰り一緒になった。田舎の田んぼ道を歩くが、隣にいるコウキはペットボトルのコーヒーを飲んでいた。
その飲み方がやけに上品だった。元々中学生とはいえ、顔が整っているからか。その割には豊かで、貴族っぽい雰囲気だけは出ている。動作もゆっくりめで、話し方も丁寧だった。
ちなみにコウキの家は母子家庭だ。家もおんぼろ一軒家。生まれつき品があるとは言えないが、昔から女の子にはモテてた。おかげで私も嫉妬され、コウキのせいで迷惑をこうむったことは多い。
「さあ。みんな勝手にそう呼んでいるだけだよ」
「へえ」
「それにしても、このコーヒーおいしい。本当に貴族になった気分」
「百円のペットボトルのコーヒーだよ?」
信じれない。こんなどこにでもあるコーヒーで貴族?
「でも昔の王様でもコーヒー飲むのは難しかった。徳川家康だって簡単に飲めなかった。つまり我々は全員貴族だよ」
コウキのキラキラした笑顔が眩しい。そうだ。コウキのせいで迷惑はかけられていたが、こういうところが憎めない。だから嫌いにはなれない。
「確かにそうだね。うちら、忘れてるけどけっこう恵まれてるんだよね」
「だろう。ああ、このコーヒーは美味しい。貴族の味がするね」
「本当?」
信じられないが、そう思い込みながらペットボトルのコーヒーを飲んでも悪くない。
「あ、自販機ある。ペットボトルのコーヒー買おうかな」
「いいよ、ミサ。俺が奢ってやる」
不意打ちにコウキに奢られてしまたった。アイスのブラックコーヒーだ。値段は百円。どこにでも売っている。誰でも飲める。確かに江戸時代と比べたら、超レアアイテムだけど。
「あ、美味しいかも。誰かに奢ってくれたコーヒーは何でも美味しい!」
「げんきんだな」
コウキの呆れた声が響くが、楽しくなってきた。ペットボトルのコーヒーでも、ほろ苦くいい匂いがする。無糖でも、すっきりとした後味も爽やかだ。美味しい。どこにでもないコーヒーと思えば余計に美味しく感じてきた。
そう、今は貴族のコーヒーを飲んでいる。そう思い込んで飲めば味も変わってくるから、面白い。




