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おいしい珈琲物語〜珈琲と共に読みたい短編小説集〜  作者: 地野千塩


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ココナッツミルクコーヒー

 専業主婦は楽なんて誰が言い始めたのか謎だ。


「はぁ……」


 夏未は子供が散らかしたリビングを片付け、飼い猫に餌をあげ、洗濯ものを干し、買い出しリストを作り、スーパーに出かけた。


 暦の上では秋らしいが、相変わらず暑い。日差しは容赦ない。


 正直、夏休みが終わってホッとしていた。子供たちの世話がそれだけで軽減し、肩の荷が降りるが、ため息がでる。


 昨日、SNSを見ていたら大学時代の友達がハワイ旅行に行ったと投稿していた。友達はいわゆるバリキャリ。結婚はしていないが彼氏はいるらしく、こんな風に旅行して毎日楽しそう。それを思う出すと、ため息が出てくる。


 今の生活に不満はないが、独身時代は好きなことができたなと考えてしまう。専業主婦は楽だというネットの言葉も思い出すと、何か自分を否定されている気がしたが。


「あれ? こんな道にコーヒースタンドってあった?」


 ふと顔を上げるとコーヒースタンドがあった。住宅街の中に埋もれるようにあり、小さな店だ。客席もなく、テイクアウト専門店らしいが、ふわりとコーヒーに匂いもした。ついつい吸い寄せられるようにコーヒースタンドへ。


 店員は渋いお爺さんだった。いかにもコーヒー好きという感じだった。


「おススメあります?」

「そうだなぁ。今はまだ暑いし、ココナッツミルクコーヒーがおススメ」

「へえ」


 コーヒーに特に詳しくない夏未はそれを注文した。


「悔いなき夏を」


 ほどなくしてココナッツコーヒーを渡された。大きめなカップで、ちょっと思いが、ほんやりとと冷たい。


「悔いなき夏?」


 よくわからないが、このコーヒーをちびちび飲みながら、スーパーまで歩きはじめた。


 一口飲んだ。ふわっとココナッツミルクの風味がする。なんとも南国情緒があるコーヒーだ。明るい甘みだ。単ふわっと軽い。それがコーヒーとよく合う。南国の明るいコーヒー。そんなイメージが浮かび、気づくと半分以上飲み干していた。足取リも軽くなってきた。


 確かに友達と比べたら、地味な暮らしかもしれない。でも、こんなコーヒーが楽しめる。この夏、南国へ行かなくても、日常でも小さな楽しみは、いたるところに転がっているかもしれない?


「だったら、まあ、この暮らしも悪くはない……」


 残りのココナッツミルクコーヒーを飲み干すと、ため息は出てこない。


 その日から、あのコーヒースタンドに行くのがちょっとした楽しみになっていた。


 一週間に一度ぐらのペースだが、日常の楽しみは、それぐらいの頻度でちょうどいい。

 

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