コーヒーフロート
「渚って意識高い系?」
「朝一に来てビジネス書読んでるらしいよ」
「意識高い系じゃん」
「今時頑張っても報われないのに、浮いてるよね」
会社の昼休み、女子トイレに行こうとしたら、そんな悪口が耳に入った。
普段なら気にしない。でも、お盆休みに入ると、頭の中でぐるぐる回る。仕事をしていないと、余計なことを考えてしまう。
気分転換にビジネス書を持ってカフェへ。冷房の効いた店内は心地いい。
この店のおすすめはコーヒーフロート。無糖のアイスコーヒーに、バニラアイスがぷかぷか浮いている。
「コーヒーフロート、一つ」
運ばれてきたそれは、キンキンに冷えていた。最初は白いアイスと黒いコーヒーが全く混じらず、まさに浮いた存在だ。
思わず自分と重ねる。部活も勉強も仕事も頑張ってきた。その度に「浮いてる」「意識高い」と言われたことを思い出す。
「はぁ……」
そんなに頑張るのはダメなのか、と考えた瞬間。アイスがゆるゆると溶け始めた。
白いバニラアイスが黒く染まり、下に雪崩れていく。まるで、誰かに足を引っ張られているみたいだ。
「あぁ、そうか……」
悪口を言う人は、頑張っていない人ばかり。努力が報われないこともある。でも、行動しないのも違う。みっともなくても、ダサくても、浮いていても。
「うん、悪口を言われる方がマシだ」
そう小さく呟くと、もう気にならなかった。
完全に溶けたコーヒーフロート。ほろ苦いのに、とても美味しい。




