表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいしい珈琲物語〜珈琲と共に読みたい短編小説集〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/31

ハニー・コールド

 最近、近所のカフェで仕事するのにハマってる。


 昭和レトロな雰囲気のカフェだ。カウンター席には常連客が多い。マスターも常連客と話し込んでいたが、俺は端の方の席に座り、ノートパソコンのキーボードを打っていた。


 最近取材したインドカレー屋の記事を書いてる。フードライターという職業柄、遠方に行くこともあったが、今は記事を書く作業が多く、家だとに詰まる。このカフェに来て正解だった。サクサクと画面の文字が埋まっていく。


 ここのコーヒーもおいしい。今日はハニー・コールドというコーヒーを注文した。見た目は普通のアイスコーヒーにそっくりだったが、苦味とはちみつのスッキリとした甘さがよく合う。その癖に甘味の余韻があり、印象深いコーヒーだった。


 俺もそんな余韻が残せる文章を書きたいものだ。


 元々公務員として無難な人生を送っていたが、パンデミックがきっかけで飲食店を応援している内に、フードライターが本業になった。


 まだまだ文章も完璧じゃない。読者の心に残る文を紡ぐ為にはどうしたらいいだろう。


 そう考えた時だった。ふと、顔を上げると、元カノがいた。パンデミック時に喧嘩別れしてしまった彼女だった。今でも当時一緒に飲んでいたダルゴナコーヒーを見ると、しょっぱい気持ちになるぐらいだった。


 お互い気まずい。偶然とはいえ、会いたくもない相手だったが、一緒にハニー・コールドを飲んだ。


「あ、甘いけど、スッキリしてる。甘さだけじゃない味だね」


 元カノもハニー・コールドの味を気に入ったらしい。


「しかも甘味に余韻がある」


 しかも俺と全く同じ感想を持ったらしい。思わず元カノの目を凝視してしまったが、今がチャンスかもしれない。当時、どうしてもいえなかった事を言葉にするのは。


「ごめん。あの時は色々と俺が悪かった」


 本当はずっと謝りたかった。


 元カノは怪訝な顔をしていたが、ハニー・コールドを飲んで呟く。


「今更?」


 全くその通りだが、元カノは笑っていた。スッキリと晴れた目だった。


「私こそ、ごめん……」


 そんな事を言われてしまったら、俺も黙るしかない。もう一度、ハニー・コールドを飲む。スッキリとした甘さだ。過去のわだかまりも溶かしていくような。


「ハニー・コールド、おいしいね」

「あ、ああ」


 しばらく二人でハニー・コールドを飲む。それ以上の言葉は出てこなかったが、それも悪くないと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ