塩入りダルゴナコーヒー
ダルゴナコーヒーを大量に作りすぎてしまった。仕方ないので、余ったのは冷凍庫で冷やす。
「うま、ジェラートみたいじゃん!」
今の時期は暑い。冷たいダルゴナコーヒーが身に染みる。
作る方も簡単だ。水、砂糖、インスタントコーヒーをミキサーで混ぜるだけ。確か、パンデミック時に流行っていた記憶がある。
当時の事を思い出し、しょっぱい気持ちになっていた。付き合っていた彼女はウィルスに怖がり、家に引きこもり、ダルゴナコーヒーばかり飲んでいた。
一方、俺はこんな時こそ飲食店を応援したいと思い、自粛もしていなかった。今はそのおかげでフードライターを本業にしてしまったぐらい。
そんな彼女とは意見が合わず、パンデミックが落ち着く前に、別れてしまった。
しょっぱい記憶だ。いくらでも話し合う機会はあったのに、俺は逃げてしまった。
当時の事を思い出すと、傷口に塩を塗られているみたいだ。せっかくのダルゴナコーヒーも、なんだか甘く感じない。
「そうか、塩でも入れてもるか?」
思い立ち、ダルゴナコーヒーに塩を混ぜてみた。
確かコーヒーに塩を入れると、味の抑制効果があり、意外と甘くなってしまうらしいが。
「うん、思ったより塩辛くないね。むしろいい感じに甘くなったわ」
当時の記憶はまだまだしょっぱいが、いつか変わっていくかもしれない。塩入りのダルゴナコーヒーを飲みながら、そんな気がした。




