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おいしい珈琲物語〜珈琲と共に読みたい短編小説集〜  作者: 地野千塩


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缶コーヒー

 娘の靖子が妊娠したらしい。つまり孫が産まれるという事だが、今日報告にしにきた。


 正直、母親である桐枝は戸惑う。靖子は十年前、桐枝の反対を無理矢理押し切り結婚した。相手はあろう事か自称ミュージシャンというチャラチャラすた男だった。


 今は音楽講師などで収入は一般人の平均の二倍ぐらいあるというが。


「経済的な事なら大丈夫だし」

「いや、そうだけど」


 自信満々に語る靖子に、桐枝は声が出ない。


 元々、桐枝と靖子は不仲だった。桐枝はいわゆる自然派ママで厳しい教育をしていたから。


「大丈夫。別にウインナー食べてもコーヒーフレッシュ入れても妊娠したから。これって天からの授かりものでしょうね。ま、コーヒーフレッシュは控えるよ。お母さん、いつも飲んでたたんぽぽコーヒー無い?」


 笑いながらそんな事まで言う靖子に、もう言い返す言葉を失った。


 こうして靖子が帰った後、お気に入りのオーガニックスーパーへ行く。


 値段は高いが全て無農薬、無添加食品ばかりだ。パッケージもシンプルで、環境に気を使ったものが多い。


「あ、たんぽぽコーヒーか」


 ついついそれも籠に入れる。靖子が子供の頃、勝手に缶コーヒーを購入し、怒った事がある。缶コーヒーは添加物入り、農薬まみれのコーヒー豆だから、たんぽぽコーヒーにしなさい、と。


 無理矢理缶コーヒーを取り上げ、たんぽぽコーヒーを与えたが「まずい! こぼう入りの麦茶みたいな味がする!」と顔を顰めていた。


 そんな娘だったのに、今はたんぽぽコーヒーが欲しいという。もしかしたら母親になり少しは桐枝の気持ちもわかってくれたのだろうかと考えるが。


 こうして靖子と会った後だと、自分の教育が合っていたのかも分からない。結局、靖子が思い通りになった事は一度もなかった。


 そんな悶々しつつ、オーガニックスーパーを後にした。


 その帰り道。自動販売機がある。桐枝は自動販売機の缶コーヒーと目が合う。バチリと合ってしまった。


 どう考えても身体に良くないコーヒー。自然派界隈でも評判が悪い。そもそもカフェインが病気の原因だと全く取らない人も多いが。


 今は無性に飲みたい。


 桐枝は慌てながら小銭を取り出して購入した。ガコンという音とともにコーヒーが落ちてきた。


「あ、甘い」


 一口飲むと、濃い。砂糖もミルクも過剰に入れているんだろう。コーヒーというよりは甘いだけの飲み物を飲んでいるような。


 オーガニックと無添加になれた舌には、かなり刺激が強い。背徳感すらある。


 同時に気も抜ける。少し飲んだからと言って、別にすぐに病気になる訳でもない。たまに飲む分だったら、問題なさそう。


 気が抜けた。こんな背徳な飲料を飲みながら、もう子育ては終わったのだと言われているみたいで。


 飲み干した缶コーヒーはゴミ箱へ。


 たぶん、こんな背徳な飲料は毎日飲めない。たまに飲むものだ。半月か十ヶ月に一回ぐらいの頻度だったら、悪くない。


 次飲む時は、孫が産まれた後に飲もう。その時が今から楽しみだ。


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