コーヒーゼリー
鈴木直美はカフェでため息をつく。
直美は平凡な女だった。事務職で働く二十五歳だが、顔も特徴がなく、趣味は読書だが、マニアという程でもない。他にヨガ、キャンプ、ピアノ、スキーなどの趣味をやってみたが、長続きしなかった。そもそも趣味をも見つけたい動機が「平凡な自分を変えたい」という後ろ向きなものだったので、仕方ないかも。おまけに名前も平凡。
そんな直美だったが、人並みに結婚しようと思い、アプリを使って「いいね!」くれた人と会っていた。
昭和風のカフェで、雰囲気がいい。メニューもクリームソーダやナポリタンが美味しそうで。若い女性達も客として来ていた。
「うん、まあ。そうだね」
こんな良いカフェだったが、相手とは全く盛り上がらず、直美は作り笑いを続けた。
結局盛り上がらず、相手は帰ってしまい、直美だけカフェに残された。
「はあ、私、婚活向いてないないのかな……」
直美は再びため息をつく。こんな平凡な自分に市場価値があるのか不明。就活は新卒カードで何とかなったが、結婚はどうだろう。考えれば考えるほど落ち込む。
「いや、もう考えるのは辞めよう……」
お腹も減ってきた。メニューを捲るとコーヒーゼリーの写真が目につく。
つるりとした綺麗なダークカラー。上に添えられたホイップクリームが控えめで可愛い。ガラスの容器も涼しげ。
確かに派手ではいが、美味しそうに見えた。それに今は派手なパフェやクリームソーダという気分でもない。くすんだ心の今はコーヒーゼリーがピッタリかも。
注文し、運ばれてきたコーヒーゼリーは写真通りだった。スプーンで掬うとプルプル揺れ、口の中でほぐれていく。
ほろ苦いが、苦過ぎない。ちょうどホイップクリームの甘さがコーヒーの苦味と溶け合い調和していた。シンプルながら味わい深い一品だ。
そしてなぜか食べていたら、外国人観光客に話しかけられた。イギリスなまりの英語だったので、たぶん英国人。若い女性だったが、今は円安で日本も旅行すやすいのだろう。
英語はよく聞き取れないコーヒーゼリーを珍しがっているようだった。海外には売ってないらしい。
直美はスマートフォンを取り出して調べてみたが、本当にそうらしい。コーヒーゼリーは日本が発祥らしく、目が丸くなる。てっきりアメリカかどこかのスイーツだと思っていた。
例の女性もコーヒーゼリーを注文し食べていた。よっぽど感動したようで店員にも話しかけ絶賛していた。英語はよく聞き取れないが、言いたいことはだいたい分かる。
「そうか……。地味っぽいコーヒーゼリーも価値観が変われば珍しいのかも?」
平凡な自分に悩んでいたが、あまり気のしなくても良いかもしれない。
「まあ、どっちにしろコーヒーゼリーは美味しい! 最高!」
コーヒーゼリーを食べ終えると、笑顔で頷いていた。