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第八十六話 模擬戦(三)

「二人が冷静で助かった。何処で止めようか俺達も悩んでいたところだ」


 ミレーアとハロルドが戻って来るとリュウがそう述べた。実際二人の戦いは泥試合と化しており他者が強引に止めれば遺恨が残りそうな状況にもなっていた。しかし、このままやっても意味がないとお互いに察し模擬戦を切り上げたことでそれは杞憂に終わったと言えた。


「あのままやってもだらだらとお互いに体力と魔力を消耗するだけの意味のある模擬戦になりませんでしたからね」


「ああ、見ごたえもなければ互いに身になるものもなかったからな」


 同じ拮抗でも互いに実力が伯仲していて技と技のぶつかり合いなら互いにまだ模擬戦を続けたがそうでないため、ミレーアとハロルドにはこれ以上模擬戦を継続する意義が見いだせなかったのだ。 


「ハロルドさんは痛むところありますか? あったら私が治しますけど」


「少し右腕に痺れがあるから頼んで良いか?」


「分かりました」


 そういってハロルドの右腕にミレーアが手をかざすと回復魔法が発動し瞬く間にハロルドは右腕の痛みを感じなくなった。彼は何度か右腕を動かし違和感が無いか確かめると自身の荷物から硬貨を取り出すとミレーアに渡した。


「治してもらった礼だ」


「……有難く頂戴いたします」


 受け取るかどうか少し悩んだミレーアだが今までの冒険者の先輩たちに助言を思い出した彼女はハロルドが出した硬貨を受け取った。


「いや、間近で良いものを見させて貰ったわ」


 ミレーアの回復魔法を見ていたエリアルは何処か満足そうにそう述べた。


「ああ、話には聞いていたが在野にいる回復魔法使いで見るなら現状で間違いなくトップだ。これだけでも戦力として数えられる」


「だな。おまけに近接戦闘能力も申し分ないからいざという時に自身の身を守れるのも有難い」


 魔法使いなどの後衛は魔法での一撃では大きいものの魔獣や魔物に近づかれた大幅に不利になる。冒険者のランクが上がりより強いに魔獣や魔物を相手にすることになるため、もしもの時の備えをしなければならない。それを怠り前衛が敵を通さなければ良いだけだと高を括った者は命という高い授業料を払う羽目になる。

 そして、冒険者として上位にいるリュウ達は在野にいるミレーア以外の回復魔法使いを見たことがあったが基本的に何らかの属性攻撃魔法も使う後衛であり、ミレーアのように純然たる前衛をやっているのは初めてみたくらいである。


「それにしてもミレーアの動きだが君の師に習ったのか?」


「師匠は模擬戦をしてはくれましたが、技術的なことは何も……なので基本的には見様見真似と自分なりのアレンジです」


 リュウに戦い方を問われたミレーアはそう答えた。


「そうか……」


「何か問題がありましたか?」


「あ、いや戦えているのなら問題はない」


 難しい顔をしたリュウに何か自分の動きに問題があったのか気になり聞いたミレーアだがリュウはそう答えただけだった。釈然としないミレーアを横目にアギトの方を見ると表情は見えないのにやはり気づいたかという雰囲気を出していた。ある程度はミレーアの事情に詳しいだろうアギトのその雰囲気からリュウは自身の思ったがことが間違いで無いと確信した。結論から言えばミレーアの戦いの基礎になっただろう師の戦い方は人間のやり方では無い。出鱈目な膂力とそれに耐えられる頑丈な肉体があって初めて成り立つ戦法だからだ。ミレーアはその足りないものを補うために魔力で肉体を限界以上の強化を行いそれによって壊れる体を回復魔法で治している。そんな破綻した戦い方をすれな普通ならば師である者が止める筈だがミレーアの様子を見る限り彼女の師はそれ行った形跡は無く寧ろ推し進めた可能性すらあった。


(だがそれが何故かうまくいっている)


 不思議なことにミレーアの体はそれに耐えるだけの頑丈さを身に付けていた。肉体に負荷をかけ続けることで素の肉体そのものが強化されていったとも考えられるが流石にそれにも限度がある。そして、戦いを見ていたリュウの見立てではミレーアの身体強化はその限度を超える域に達していた。魔法に詳しいエリアルにも確認を取ったがやはりミレーアの身体強化は明らかに人間の肉体強度で行うものではないとの意見だ。


「それで最後は俺達が戦えば良いのか?」


 ミレーアの異常な身体強化に対する考察をしているところに声を掛けられたことで我に返ったリュウはアギトの方を見た。思考の海に浸かり過ぎて模擬戦のことをすっかり忘れていた。


(とは言っても模擬戦をするまでもないくらいだけどな)


 今回の模擬戦は実力を計るのが目的であり、ミレーアとリラについては実際の戦いを見た感じでは技量面では自分達に劣るが少なくとも足を引っ張ることはないだろうと判断出来た。問題はアギトであり、明らかに自分達よりも実力が上であること一目で分かった。そのため今回の模擬戦の趣旨から外れていると言えた。


「ああ」


 それでも模擬戦をすることを変えなかったリュウ。今回の趣旨には合わないがそれはそれとしてリュウはアギトと模擬戦をしてみたかったのだ。模擬戦をするにあたってアギトが選んだのは槍だった。アギトは使い心地を確かめるように数回振うと槍を構えた。先の紹介で近接系統なら大抵は使えるとアギト本人が言っていたように構えにまったくの隙が無かった。迂闊に攻め込むの危険と判断し、様子を見ようとするがそれを許すアギトではなかった。


「来ないなら先に行かせてもらうぞ」


 そう一言だけ告げるとアギトの姿がまるで瞬間的に移動したかのように彼の持つ模造槍の間合いまで迫っていた。横薙ぎに振るわれた模造槍を模造大剣で防いだ。模造槍の横薙ぎ自体は重い一撃ではなく速度を重視したものであったため、防ぐことにそれほど苦戦は無かった。しかし、横薙ぎを受け止めらても更に間合いを詰めたアギトは防御するために足元をしっかり踏み締めているリュウに足払いを仕掛けてきた。


「っ!!」


 後ろに下がり足払いの間合いから離れるとリュウは足払いをするために態勢を低くしていたアギトの向けて模造大剣を振り下ろした。槍には劣るものの大剣も間合いは広く模造大剣の剣先はアギトに直撃するだろう。態勢の問題で模造槍で防御するの不可能であり、仮に出来たとしても柄の細い模造槍で模造大剣の一撃を受ければ間違いなく圧し折れることになるだろう。その状態でアギトの行動見ていたリュウはアギトの動きに驚愕することとなった。身体を捻りまるでダンスを踊るかのようにリュウの模造大剣の振り下ろしの一撃を避けたアギト。そして、もののついでと言わんばかりに模造大剣の広い腹の部分を足裏で蹴りを入れた。


「うぉ!!」


 模造大剣の腹の部分を蹴られその勢いに思わず模造大剣を手放しそうになるが蹴られた模造大剣に引っ張られる右腕に力を込め強引に抑え込むとそのまま大剣で片手で横に薙いだ。横薙ぎの模造大剣を更に身を低くして躱すとその勢いのまま背中に床に付けた状態で寝転がると模造槍による突きをリュウの胸目掛けて繰り出した。それを上半身を後ろに反らすことで回避したリュウは勢いの止まった模造槍の柄に手を伸ばすがすぐさま引き戻されたため、奪い取ることはギリギリ出来なかった。


「成程、流石は最高ランクの冒険者だ」


「戦う前から何となく感じていたが、やはり相当な実力を持っていたか」


「これでもそれなりに生きてきてな……こういった小手先の技術を磨く時間はたくさんあった」


 声音から自分達と同じくらいか少しだけ上くらいだとアギトとのことを思っていたリュウだが、今の彼の台詞と老練な動きからアギトがそうでなかったと直ぐに察した。声音もそうだがその理知的な仕草、鎧で全身を覆っていることから彼はアンデッドということがすっかりと頭から抜けていた。アンデッドは既に死んでいることから老化や寿命には無縁でであり、弱点属性等で倒されない限りは不滅の存在である。


(それによって得た時間を使って技術を磨いた結果がこれということか)


 年と共に衰えるどころかアンデッドならば長い時を生きればそれだけ強大な存在になり、魔力が高まっていくだろう。尤もこれは生前の理性と価値観を残しているアギトが例外なだけであり、基本的なアンデッドは理性は無いまたは狂気に支配されているため、このようなことは起こらないだろう。


「ふぅうう。なら後輩として胸を借りつもりで思いっきりいかせてもらう!!」


「……なら先達として揉んでやろう。早々根を上げてくれるなよ?」


 一度、深呼吸をしたリュウがそうアギトに告げると彼は何処か愉快そうな声音でそう返したのだった。

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