第八十四話 模擬戦(一)
「それでどういう組み合わせでやるんだ?」
模擬戦を行うため会議室から移動したミレーア達は誰もいない貸し切りになった練習場に来ていた。どううやら事前にリュウ達は此処を貸し切りにすることを冒険者ギルドに申請していたらしい。
「先ずは軽くで良いなら私とリナちゃんでやろうか」
「分かりました。胸を借りるつもりで全力でいきます」
「むふふ、そう簡単にはやられないからね?」
最初の組み合わせが決まり模擬戦闘を行うため、二人は練習場の中心へと向かった。ミレーア達は邪魔にならないように練習場の端へと寄り組み合わせを話し合いながらリナとエリアルの模擬戦を見ていた。
「ああ~合図してくれないリーダー?」
「ん、良いぞ。……それでは両者始め!!」
リュウの合図と同時に動き出したのはリナだ。手に持っていた弓の弦を引き模擬戦用の矢を放った。放たれた矢は狙い余さずエリアルへと向かうが直撃の直前に矢が急停止した。
「成程ね。狙いは悪くない。開始と同時に弓構え矢を射る時間も中々の速さだね」
リナの腕前をそう評価するエリアル。矢が空中で停止しているのはエリアルが使った何らかの防御魔法だろうと判断したリナは直ぐに動き出した。リナがその場から動いて少しするとその場所を風が薙いだ。それはエリアルが放った魔法であり、リナが後少しでもその場に止まっていたら直撃し気絶してただろう一撃だった。
「やるぅ!! 生半可冒険者じゃ今の決まってたよ」
「ランクは低いですけどそれなりに修羅場は潜ってきたので!!」
リナが躱せたのは魔法を感知した訳はなくほぼ感だ。このままでは危ないという危機感に従い行動したに過ぎない。元が狩人出身だからこそ感じる動物的な野生の感とも言えるものが幾つかの修羅場を潜ったことで更に研ぎ澄まされていったのだろう。不可視の魔法を危なげなく回避し、隙を見て矢を放つがそれは先程と同じようにエリアルの防御魔法と思いしものにまた阻まれた。
「このままじゃ、埒が明かないね。模擬専用の矢は限りはあるし」
「ふふ~ん。さてどう対処するのかな?」
エリアルの魔法はリナを捉えていないがそれだけであり、まだまだ彼女は余裕そうだ。つまりはまだ手を抜かれているということだ。実際、反撃出来る余裕こそあるもののリナの矢がいとも簡単にエリアルの防御魔法で防がれているため、リナ側からすればこのままではジリ貧なのは明白だ。
「あれを使うわけにはいかないし、他には……ん?」
足元から違和感を感じ視線を向けるが特に何も無いし、リナ自身も危機感を抱いている訳ではないためエリアルが使っている魔法でもないようだ。
(……これは義足から?)
違和感の正体は自身が使っている義足であることにリナは気づいた。調子が悪い訳はなく何時ものように本来の自分の足のように問題なく動かせているため義足の不調では無い。敢えて言うならば義足が自分に対して何か訴えかけているといった方はしっくり来ると言えた。
「……信じて見るかな?」
義足から来る訴えに身を任せてみることにしたリナ。
「動きが変わった?」
リナの様子を窺っていたエリアルはリナの足さばきが急に変化したことに驚いた。先程まではエリアルが発動した魔法を察知して逃げるような動きだったが、今度はそれらを無視するような動きへと変化したのだ。何かの作戦かと考えたがとりあえず試せば分かると判断し魔法を発動させた。使った魔法はエア・ショックという圧縮した空気で相手に衝撃を与えるものだ。直撃すればまず間違いなくリナは気絶するだろう。
「て……ええええ!?」
見た光景が信じられずエリアルは思わず声を上げた。リナは自身に向かってきたエリアルが放ったエア・ショックを蹴りで砕いたのだ。そんな異様な光景を見たことで向かってくるリナへの対応が一歩遅れたもののギリギリのところでリナの蹴りを魔法障壁で防いだ。しかし、それで安堵は出来なかった。
「障壁の構築が崩されてる!?」
エア・ショックを蹴り砕かれた時は分からなかったが、張り続けるために自身で維持しなければならない魔法障壁でリナの蹴りを防いだことで何かが起こっているのかエリアルは気づいた。リナの義足の接触部位から広がるように魔法障壁の術式が乱されているのだ。それによって魔法障壁が崩されているがそれに気づいたエリアルは乱された術式を正すことで魔法障壁を維持した。
「ちょっときついけど何とかはなるけど……他のことをする余裕はないね」
魔法障壁を崩されないように手一杯であり、とてもじゃないがエリアルには並行して攻撃魔法を発動させる余裕がなかった。一方であくまで義足の機能であるリナには余裕があった。
「その状態でそう来るか!!」
リナは魔法障壁を蹴る態勢を維持したまま手に持つ弓をエリアルへと向けた。今この状況で更なる衝撃を魔法障壁が受ければ耐え切れず崩壊するだろう。傍目から見ればエリアルがピンチな状況だ。それでも何かを不敵な笑みを浮かべながらリナを見ているエリアル。
「これで終わり!!」
弓を放つと魔法障壁は耐え切れず砕け散り放たれた模擬専用の矢が真っ直ぐエリアルへと向かった。それ見て勝ったと確信したリナだが、次のエリアルの行動に目を見開いた。
「魔法使いが何も対策していないと思った?」
至近距離から放たれた矢を既に掴み取って防いだエリアルが一歩前に踏み出した。リナは今ので終わったと思っていたことと魔法障壁を破壊するために義足が接触することを維持し、その態勢のまま弓を放ったことで直ぐに動けるような状態ではなく接近を許してしまった。
「作戦は悪くなかったけどもう一捻りは欲しかったね。魔法使いが近接戦には絶対に弱いとは思わないほうが良いよ」」
リナを足払いし転倒させる馬乗りになったエリアルがそう先輩目線でそうリナに忠告した。
「有難うございました。良い勉強になりました」
負けたけど自身に足りないものが分かったことでリナは何処か清々しそうだ。勝敗が決したことで馬乗りになっていたエリアルが退くとリナは身を起こした。
「まぁ、それでも実戦だったら勝敗は分からなかったかな。……あの弓を持ち出されてたら防ぎきることは出来なかったから」
「それはそうですが純粋な技量では私が完全に負けてました。あそこまで肉薄出来たのも初見だからですし、次は完全に対処されてしまいそうですし」
「それはそう。なんていったって年季が違うからね。年下にはそう易々負けたら立つ瀬がない」
口角を上げ不敵に笑うエリアル。それを見て次は負けないと言わんばかりに同じように笑うリナだった。
「お、終わったか。あそこまでエリアルを追い詰めると想像以上の実力だな。それにしてもあの義足に魔法の発動を妨害する効果があるのは驚きだな」
「……私達もあんなのがあるのは初めて知りました」
リュウがミレーア達が知っていたことを前提でそう話し掛けたがとうの彼女はそんな機能があるのを初めて知ったと言わんばかりの所作だった。そんなミレーアの発言に驚いたのはリュウとハロルドだ。
「そうなのか!? なら何で今になって使えたんだ?」
「……あの義足は異界の技術で作られたものだ。俺も詳細な性能を知っている訳ではないがおそらくは義足側が不利な状況を覆すために機能を追加した可能性が高いな」
アギトがそう何があったのか推測するが残念ながら予備知識の無いミレーア達には理解出来ない話であった。
「それで次はどの組み合わせで戦うんだ?」
「それじゃあ、次は私とハロルドさんでどうですか?」
「良いだろう」
そう提案したミレーア。ハロルドも異存はなかったためそれに同意した。模擬戦が終わったため、此方に向かってきたリナとエリアルと入れ替わるように練習場の中心に向かうミレーアとハロルドだった。




